リバースチャージ方式とは?

2024年4月1日消費税・インボイス

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海外の事業者が行うデジタル配信サービス等は、以前は海外取引として扱われ、消費税の課税対象ではありませんでした。

一方で、同様のサービスを提供する国内事業者は、消費税の納税義務があるため、急速に普及しつつあった音楽・映像等の配信サービスにおいて、公平な競争環境が阻害される要因になっていました。

この為、2015年の消費税改正によって、国内で費消される配信サービス等は、海外の事業者であっても消費税の申告・納税義務を課す事になりました。

この時、消費税の申告・納税義務は、一定の場合、売り手である海外の事業者ではなく、買い手である国内の事業者に課す事になりましたが、この事をリバースチャージ方式と言います。

給与支払者の源泉徴収義務は、会社が従業員に代わって所得税を徴収し、納税する方式ですが、リバースチャージ方式は、この義務の消費税版と言えます。

広告等の配信サービスを利用する会社は多いと思うので、デジタルコンテンツに関する消費税の扱いと、リバースチャージ方式について、詳しく見ていきます。

 

用語の意味

電気通信利用役務とは

インターネット等を介して行われるサービス提供の事を、電気通信利用役務の提供と言います。

電気通信利用役務の提供は、以下の様に例示されています。

  • 電子書籍、電子新聞、音楽、映像、ソフト、ゲームアプリ等の配信
  • クラウド上で電子データの保存場所の提供を行うサービス
  • インターネット上の広告配信・掲載
  • EC、オークションサイトを利用させるサービス
  • ゲームソフト等を販売する場所を提供するサービス
  • 宿泊・飲食店の予約サイト
  • インターネットを介して行う英会話供出

以下の取引は、電気通信利用役務の提供に該当しません。

  • 電話、FAX、インターネット回線の利用等、情報伝達を単に媒介するもの
  • ソフトウェアの制作等
  • 国外に所在する資産の管理・運用等(ネットバンキング含む)
  • 国外事業者に依頼する情報の収集・分析等
  • 国外の法務専門家等が行う国外での訴訟遂行等

出所:国税庁HP

特定役務とは

特定役務とは、海外の事業者が、対価を得て、他の事業者に対して行う以下の様なものが該当します。

  1. 芸能人として映画の撮影、テレビへの出演
  2. 俳優、音楽家としての演劇、演奏
  3. スポーツ競技の大会等への出場

海外の事業者が個人事業者で、自ら上記を行う場合も含まれます。
また、アマチュアであっても、3の結果、賞金等を受領する場合は含まれます。
なお、不特定かつ多数の者に対して行う場合は、特定役務に該当しません。

出所:国税庁HP

 

消費税法の改正

内外判定基準の見直し

電気通信役務に該当する取引は、海外事業者が国内向けに行うサービスは、以前は海外取引として扱われ、不課税取引でした。

逆に、国内事業者が海外向けに行うサービスは、以前は国内取引として扱われ、課税取引でした。

2015年の消費税法改正により、この課税・不課税の関係が逆になりました。

取引 改正前 改正後
国内事業者→国内 課税 課税
国内事業者→海外 課税 不課税
海外事業者→国内 不課税 課税

この改正に伴い、電気通信利用役務に該当する取引は、原則としてサービスの提供を受ける者の住所等によって、国内外の判定を行う事になりました。

リバースチャージ方式

リバースチャージ方式とは、リバースという言葉通り、売り手ではなく、買い手に消費税の納税義務を課す方式です。

通常は、売り手が消費税を預って納税し、買い手は支払った消費税を売上に係る消費税から控除できます。

しかし、買い手が売り手に代わって消費税を納める場合、同額の消費税が仕入控除の対象にならないと、二重に損をしてしまうように感じます。

具体例

少し分かりにくいと思うので、具体的な例で説明します。

国内A社から海外B社へ、10,000円の手数料を払ったとします。この時、国内A社は本則課税の適用事業者で、課税売上割合は90%、一括比例方式を選択しているとします。

【取引時】
① 手数料   10,000円 / 現預金   10,000円
② 仮払消費税 1,000円 / 仮受消費税 1,000円

仕入税額控除ができない場合は①の仕訳で終わりですが、リバースチャージ方式の対象事業者は、預かった消費税と同額の支払った消費税が発生したものとして、②の仕訳を行います。

【決算時】
③ 仮受消費税 1,000円 / 仮払消費税 1,000円
④ 雑損失    100円 / 未払消費税  100円

決算時に③の仕訳を行う際、課税売上割合90%の事業者なので、下記の結果、④の仕訳となります。

  • (仮受消費税1,000円)-(仮払消費税1,000円×90%)=100円

非課税売上が多い事業者は、仕入に係る消費税を全額控除できませんので、課税売上割合が低い事業者ほど、このリバースチャージ方式による納税負担が増すような仕組みになっています。

なお、個別対応方式を選択している事業者で、当該手数料が課税売上に紐づく場合は、追加の納税負担は発生しません。

通常の仕入税額控除との比較を纏めると、下表の様になります。

仕入税額控除 売上に係る消費税から控除できる消費税があり、納める消費税が減る
不可 売上に係る消費税から控除できる消費税はなく、納める消費税は減らない
リバースチャージ方式 売上に係る消費税から控除できる消費税はなく、課税売上割合を控除した分の消費税を納める必要があるので、納める消費税が増える場合もある

 

仕入税額控除の関係

仕入税額控除の関係を纏めると、以下の様になります。

電気通信利用役務の提供 課税売上割合
95%未満 95%以上
事業者向け役務(特定役務を含む) リバースチャージ方式 控除不可
消費者向け役務 登録なし 控除不可
登録あり 控除可

事業者向けサービス

事業者向けの電気通信利用役務、及び特定役務の提供に該当する取引は、買い手である国内事業者に、リバースチャージ方式による消費税の申告・納税義務が課されます。

なお、当面の経過措置として、買い手である以下の事業者は、リバースチャージ方式の適用はありません。

  • 免税事業者、簡易課税適用事業者
  • 課税売上割合95%以上の課税事業者

上記の事業者は、リバースチャージ方式による申告は必要ありませんが、支払った対価は仕入税額控除の対象にならないので、本則課税の事業者であっても、注意が必要です。

消費者向けサービス

消費者向けの電気通信利用役務の行った場合は、事業者向けとは異なり、売り手である海外事業者に、消費税の申告・納税義務が課されます。

しかし、実質的に日本の徴税権が及ばない海外の事業者に申告・納税義務を課した所で、その実効性はあやしいものです。

こうした事から、この消費者向け役務の提供を受けた事業者は、当面の経過措置として、この分の仕入税額控除が受けられなくなっています。

こうする事で、海外事業者から徴収できない消費税の減収分を補う効果を狙っているものと思われます。

登録国外事業者制度

前述の通り、消費者向け役務の提供を受けた事業者は、仕入税額控除が受けられませんが、海外の事業者が登録国外事業者の場合は、仕入税額控除の対象になります。

登録国外事業者名簿は、国税庁HPで公表されています。

アマゾンやグーグルといった大手企業であれば、登録されていますので、仕入控除の対象になると考えて大丈夫でしょう。

 

こんな場合は?

広告料の支払い

グーグル等に自社の広告を出稿する会社は多いと思います。

この際、広告を出稿するエリアが国内であれば、消費税の課税取引に当たりますが、海外の事業者に広告料の支払いを行う場合、消費税の申告納税はどのようになるでしょうか。

まず、企業が出稿する広告料の支払いなので、事業者向けサービスと言えます。

例えば、フェイスブックはアメリカに本社がありますので、仕入税額控除の対象にならず、一定の要件を満たす会社は、更にリバースチャージ方式の適用を受ける事になります。

グーグルは以前は海外拠点でしたが、2019年から国内の合同会社になったので、リバースチャージ方式の適用はなく、支払った広告料は、仕入税額控除の対象になります。

広告料の収入

リバースチャージ方式は、買い手が売り手に代わって消費税を納める方法でしたが、国内事業者が売り手である場合、つまり広告料収入がある場合などは、どうなるでしょうか?

グーグルに何らかのコンテンツを掲載し、広告料としてアドセンスから収入を得るケースは多いと思います。

この場合、掲載したコンテンツや広告を見る人は、国内外を問いませんので、国消費税の内外判定は、契約の相手方の所在地で行う事になります。

アドセンスを運営している会社は、シンガポール所在なので、アドセンスの広告料収入は、国外取引として扱われ、消費税は不課税になります。

一方、日本の国内企業の依頼に基づくアフィリエイト(成果報酬型広告)や、国内企業のPR案件収入、グッズ売上等は、課税取引として扱われます。

不課税売上と消費税還付

ウェブ上の広告収入が売上の大半を占める事業者の場合、売上が不課税なので、支払った消費税が多い場合、還付は受けられるのでしょうか?

課税売上がゼロの場合、課税売上割合も0%として扱われる為、全額控除の対象にはなりません。(国税庁HP

但し、不課税売上は、課税売上割合の計算上、分母分子には算入されないので、課税売上が僅かでもあれば、課税売上割合がほぼ100%という事があり得ます。

課税売上割合が95%以上、かつ課税売上高が5億円以下の事業者であれば、仕入に係る消費税は全額控除が可能なので、還付を受けられる可能性があります。

課税売上割合が95%未満の場合、通常は課税売上に係る分しか、仕入税額控除の対象にはなりませんが、不課税売上の場合はどうなるのでしょうか?

一括比例方式に拠った場合、仕入に係る消費税の内、課税売上割合で算出された分が控除の対象になるので、不課税売上が計算に影響を与える事はありません。

一方、個別対応方式に拠った場合、不課税売上に係る仕入は共通仕入に分類されるので、課税売上割合や分類される金額によって、影響を受ける事になります。

 

最後に

デジタルコンテンツを提供する事業者は、今や国内外を問いませんが、消費税の扱いについては、こんな紆余曲折があったんですね。

海外事業者が提供するサービスについては、大手はともかく、中小以下の事業者に消費税の義務を課すというのは、実効性の確保という点で難しいものがあると思います。

リバースチャージ方式という言葉はある程度知っていても、その義務を課されている事業者は少数なので、あまり問題にはなっていないように思います。

でも、非課税の売上が多く、本則課税の適用を受ける事業者が、事業者向けウェブサービスを利用する場合は、注意が必要ですね。