精神科を訪れた女性が「ブス、ブスという声が聞こえてきて、うるさくて堪らないので、整形手術をしてほしい」と言うことで、訴え、要望しているのは何か(2/2)

 いま、ひとしきり仮定の話をしましたね。その仮定は、つぎの一例を参考にしました。いわゆる「統合失調症の症例」とされるものですよ。

 ある女性は、「ブス、ブス」という声が聞こえてきて、うるさくて堪らないので、整形手術をしてほしいと、精神科を受診してきた。ブスと言われないように整形手術をしてほしい、というのが彼女の「主訴」である(岡田尊司『統合失調症』PHP新書、2010年、p.218)。


 で、それについては、つづけてこう書かれています。

しかし考えてみれば、整形手術をしたいのであれば、精神科ではなく美容整形外科を訪れるはずである。ところが彼女は、精神科を自ら選んでやってきたのである。つまり彼女は、口に出しては言わないものの、自分に何らかの精神的なトラブルが起きていることを、それとなく自覚していたということになる。患者は病気という自覚、つまり病識はもちにくいが、病気かもしれない、何か変だという感覚(「病感」と呼ぶ)を抱いていることが多いのである(同書、同ページ)。


 ちょうどいま読んだ部分から、精神医学はこう受けとりたがっているのではないかと思えてきませんでした? すなわち、この女性は、自分の身に「異常が起こっていると訴え、「正常になりたいと要望しているんだ、って。この女性が精神科医のまえで争点にしているのは、「正常か、異常か」なんだ、って。


 けど、先にこう言いましたよね。この女性は、「ブス、ブスという声が聞こえてきて、うるさくて堪らないので、整形手術をしてほしい」と言うことで、単に苦しいと訴え、苦しまないで居てられるようになりたいと要望しているだけなのではないか、って。それをここで、もう少し補足して、こう言い直してみますよ。この女性は、「精神的に苦しい」と訴え、「精神的に苦しまないで居てられるようになりたい」と要望しているのではないか、っていうふうに。


 この女性は、そうした「精神的な苦しみ」を争点にするのは精神科であると考え、当科の門を叩いたのかもしれませんよね。


 今回は、みなさんが精神科を訪れ、「ブス、ブスという声が聞こえてきて、うるさくて堪らないので、整形手術をしてほしい」と言ったものと仮定し、そのみなさんの訴えと要望について、考察しました。ちなみに、そう仮定する際に参考にした、上記女性の例については、先日、下の記事でもっと詳しく見ました。その女性の言う「ブス、ブスという声が聞こえて」くるというのが何を意味するのか、理解しようとするところから、ね。

 



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〈参考:「今年一年健康でありますように」とか「早く病気が治りますように」などと祈念しているとき、胸のなかで争点にしているのは、「正常か、異常か」か、それとも「苦しくないか、苦しいか」なのか、考えます〉