ランニング中の呼吸苦を減らします!! ランニングエコノミー 心臓・肺 編
これは理学療法士となった自分が世界中の論文を読みまくり、ためになると思ったことだけを伝えていくランナーのためのブログだ。
本日の内容は前回に続くランニングエコノミー 心臓・肺編
前回の記事を読んでいない方はこちらを一読いただけるとありがたい。
簡単に前回の記事をまとめると酸素を効率的に使う能力のことをランニングエコノミーという。
つまりどれだけ少ないエネルギーで走るかが、マラソンおよび中長距離ランナーにとって重要なのだ。
呼吸することにもエネルギーが必要で、換気の仕事自体は一般的に酸素消費コスト6-7%を占めると報告されている。(MILIC.1964)
ランナーたちは走る時に自分の呼吸のリズムを持っているのではないだろうか?
①吸って+②吸って+③吐く というような方もいれば、
①吸って+②吐く というように、一人一人自分の換気パターンがあるはずだ。
その呼吸の方法は誰かに習って身につけたものだろうか?
大抵の人が自己流で身につけた呼吸リズムだろう。
もしかするとその呼吸リズムを変えるだけでマラソンタイムが大きく変わるかもしれない。
ランニング中の呼吸苦を減らす
最初に皆さんに質問させて頂く。
ランニング中に体内の酸素が減ることと、二酸化炭素が増えること どちらが良くない??
酸素が減ることの方がだめでしょ!
と答えたそこのあなた。今日このブログを読んでいただけて良かった。
実は酸素が少し減ったところでそんな問題にはならない。
本当に。
その説明をこれからさせて頂く。
ランニングをすると、次第に息が苦しくなってくる。
一見すると当たり前のことだが、そもそもの話。どうして息が苦しくなってくるのだろうか。
体力がないってことだろう!ってそれは全く違う。
呼吸苦を感じるメカニズムを知ることで、明日からのランニングの考え方が大きく変わる。
ランニング中に呼吸苦を呈するメカニズムは4つある。
①動脈血酸素分圧(PaO2)の低下
②動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の上昇
③気道の刺激(痰,唾液)
④換気パターンの乱れ
この中で特に重要なのが②と④だ。ここについては後ほど説明させていただく。
ではまず①動脈血酸素分圧(PaO2)の低下と ②動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の上昇
を比較してみよう。
なぜ二酸化炭素が増えることが良くないのだろうか。
その理由は、酸素と二酸化炭素を監視している部位の違いにヒントがある。
体内の酸素濃度は血管にある受容体(頸動脈小体、大動脈小体)で監視している。一方で体内の二酸化炭素濃度は脳幹の延髄で監視している。
つまり酸素は末梢器官で、二酸化炭素は中枢器官で監視しているのだ。
言わば二酸化炭素はエリートたちが管理し、酸素はその下っ端たちが管理しているという感じだろうか。
中枢のエリートたちが管理するだけあって、二酸化炭素が体内に増えることの方が恐ろしいことなのだ。
当然、二酸化炭素が体内に増え始めれば、身体を守ろうと相応の反応が起こる。
それが呼吸苦なのだ。
一方で、下っ端たちが管理している体内の酸素は少し下がったくらいで容易に呼吸苦は生じない。
つまり、ランニング中の呼吸は二酸化炭素が上昇しない呼吸法にしなければならない。
そして・・・。
二酸化炭素が増えることと同じくらい呼吸苦を生じる要因がある。
④の換気パターンの乱れである。
換気パターンの乱れ??
と、呼吸理学療法を知らない限り、頭にはてなが浮かぶ方がほとんどだと思う。
試しに、面白い体験をしていただこう。これから2つのことを試してほしい。
まず1つ目は10秒間、息を止める。
そして、2つ目は
浅い呼吸を10秒続ける。呼吸回数は1秒間に3回くらいの速いペースで。
どちらが苦しく感じただろうか?
机上で考えると息を止めている方がきつく感じるような気がする。
ちょっとでも呼吸している方が楽なのでは??と普通思うだろう。
浅いと言えど、少し呼吸をしている方が、息を止める場合に比べて酸素と二酸化炭素のガス交換を行なっているはずなのに。
しかしやってみていかがだろう。後半の浅い呼吸を繰り返し行う方が苦しく感じるのだ。
ここで皆さまにも気がついていただけただろう。換気パターンの乱れがいかに呼吸苦を引き起こすか。
では、どのような時に換気パターンが乱れやすいのか。
最も起こりやすいのは、ランニングの後半あたりで少し疲労が出てきた時や、走る前から緊張して不安が強い時である。
練習ではベストタイムを出せるのに、大会になると今一つベストが出ないということはないだろうか?
そこには換気パターンが乱れていることが理由かもしれない。
大会でベストが出る時は、焦っている時よりも意外と冷静に落ちついている時なのだ。
ではなぜ換気パターンが崩れると呼吸苦を生じるのだろうか。
肋骨と肋骨の間にある肋間筋、さらにその筋肉内にある筋紡錘が換気パターンの乱れを感知し、その情報が脳の深いところにある大脳辺縁系に送られる。そこで呼吸困難として認識されるのだ。
ではどのような呼吸パターンが良いのか、次の項で考えていこう。
息を吐くことを重要視すること
先ほどの、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の上昇が起こらないようにするためには、
息を吸うことよりも、息を吐くことに重きを置いてほしい。
その結果、できる限り動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)を溜めることなく呼吸苦を生じにくくなるだろう。
さらに終盤にかけて換気パターンは崩れやすい。
呼吸が浅くなると途端に換気パターンが崩れ呼吸苦を生じる。
何度も言うができる限り息を吐くことを意識してほしいのだ。
さらに息を吐くことを意識することはランニングエコノミーの向上につながる。
息を吐くことを意識すれば1分間当たりの換気量が増大する。
南カロリナ大学のSP Baileyらの研究によると、1分間でどれだけ呼吸できるか、つまり分時換気量がランニングエコノミーの向上と関連すると述べているのだ。
実際にデンマークのオーデンセ大学Franchらは
分時換気量の増加はランニングエコノミーの増加と中等度相関することが明らかにされている。(r=0.64 P値<0.05)
これまであまり息を吐くことを意識して走れていなかったランナーはぜひ、明日からの練習で意識づけをしていただきたい。
皆さんの、目標タイムの達成に少しでも関与できれば幸いだ。
Reference
1 有田秀穂:息切れのメカニズム,COPD FRONTIER 2006 vol s No 2:50−55
2 Bailey SP, Pate RR ,Feasibility of improving running economy.Sports Med. 1991 Oct; 12(4):228-36.
3 Franch J, Madsen K, Djurhuus MS, Pedersen PK. Improved running economy following intensified training correlates with reduced ventilatory demands. Med Sci Sports Exerc. 1998;30(8):1250–6.
4 MILIC-EMILI G, PETIT JM, Mechanical work of breathing during exercise in trained and untrained subjects.J Appl Physiol. 1962 Jan; 17():43-6.