石鹸の造り方

生体材料

自然派志向の方に限らず、ご家庭でお気に入りの石鹸を作るというのは地味に流行っているようです。

WEBで検索してみると、その手の紹介ページは至る所にありましたし、小学校のお友達でもやっている子がいるようでして「今度やらせろ」と娘が言ってきます。

石鹸作りにはアルカリを使うから、眼に入ったらとんでもなく危ない。また今度ねと先延ばしを謀ると、市販の石鹸をお湯で柔らかくしてこねて丸めていました。

お父さんが根負けして、本格石鹸作りに取り組む羽目になりました。

石鹸の造り方

使い終わって捨てるしかないてんぷら油を使って造る方法もあるにはあるのですが、どうせ造るならこだわりの一級品が欲しくなる所。

大体、材料としては自然界に存在する油脂を使うので、市販品を買う時にパーム椰子からできた石鹸ですなんて謳い文句に踊らされて石鹸を選んだりもします。

石鹸は、ごく基本的には油とアルカリを一定の割合で混ぜれば出来上がります。

辞書的には石鹸とは炭素原子を少なくとも8個含む脂肪酸1または脂肪酸混合物のアルカリ塩(無機または有機)をさす総称と定められていますから。

だからどんな油を使うかとか、加える香料とかにこだわる事でオリジナル石鹸の個性を出していく事ができます。

私が見たレシピはオリーブオイルを使う奴でした。でも高級オリーブオイルの値段(バカ高い)を見た所で思考がSTOPしました。

石鹸分子の構造

化学の世界では酸とアルカリがくっついた分子の事を「塩」と言います。決して「シオ」と読んではいけません。「エン」と読みます。

脂肪酸は、その名の通り酸性です。そして石鹸になる時にアルカリとくっついて塩になります。塩の部分は水が存在するとプラスとマイナスのイオンになって分散しますので、とても水に溶け易いという性質を持っています。

そして、脂肪酸には炭素の鎖が長く連なった部分もあり、こちらは油に溶けやすい性質を持っています。

水に溶けやすい性質の事を親水性が高い、疎水性が低い、脂溶性が小さい、水溶性が高い、などと言い、その反対に油に溶けやすい性質の事を親水性が低い、疎水性が高い、脂溶性が大きい、水溶性が低い、と言います。

一つの分子の中に、極端に疎水性の高い部分と低い部分が同居しているのが石鹸の分子であり、そのために石鹸分子は水と油を結びつける働きを示します。

「micelle:ミセル」と言いまして、石鹸分子が油を包み込むようにまとわり付き、油汚れを水の中に分散させることができるようになるために、石鹸でヨゴレが落ちるのです。

石鹸の歴史

この石鹸と言う奴、文字の歴史よりも古いです。

5千年位前の昔々のお話。古代ローマ時代の初め頃、サポー(Sapo)という丘の神殿で羊を焼いて神に供える風習がありました。

この羊を火で炙っている時、したたり落ちた脂肪が木の灰に混ざって冷えて固まりました。灰と言うのは金属の酸化物も混じっているので、アルカリ性なのですよ。2これで油とアルカリが揃いましたね。

冷えて固まった塊が染み込んだ土を手につけて見ると驚くほど良く汚れが落ちた事から、これが不思議な土として珍重されました。これが石鹸の始まりと考えられているそうです。

そして、英語で石鹸を意味するソープ:soap は、その古代ローマの丘の名前、サポー(Sapo)から取られたのでした。

界面活性剤

子供の頃は石鹸水でシャボン玉を作って遊ぶのが大好きでした。下の娘もお風呂に入るときは欠かさずシャボン液を持って行って、液がなくなるまで遊び倒している時期がありました。遠い思い出。

石鹸でなぜ泡(シャボン玉)ができるのか?それは、石鹸の持っている界面活性作用によります。

水の表面(空気と水との接する面の事です)には、表面張力3という表面を小さくしようとする力が働いています。空気との界面では、水の表面は縮もう縮もうとしているのだとイメージしてください。

コップに水をいっぱいに入れた時にコップの淵で丸く盛り上がっていて、こぼれそうだけれどもこぼれないのをみんな知っているでしょう。あれです。

表面張力によって界面付近にある水分子が手を繋ぎあって耐えているのです。
また、ハスの葉っぱの上の水滴が丸くなってコロコロしている現象も同じ理由です。

同じ容積の物体の中で、丸い形と言うのは、表面積が最も小さくなります。表面張力が働いていれば表面積を小さく小さくしようとしているのですね。

もしここで、その水に石鹸を溶かすと、表面張力が弱くなり水は丸くなりにくくなります。コップの淵の水はこぼれ落ち、ハスの葉の上の水滴はビローンと広がるでしょう。

つまり、表面張力を打ち消すと水の表面積を大きくすることができるのです。

水の中に何かが溶けていれば多かれ少なかれこうした表面張力を打ち消すような働きが見られるのですが、石鹸の様に界面活性作用の強い物をひっくるめて界面活性剤と呼んでいます。4

界面活性剤が溶けている水は拡がりやすくなり、できた気泡の界面が伸びるようになるので泡ができやすいという性質によってお風呂が楽しくなるのです。

肺サーファクタント

界面活性作用を持った成分は我々の体の中でも活躍しています。

同じ分子の中の疎水性部分と親水性部分が同居している分子としては以前にリン脂質を紹介しました。細胞膜の重要な構成成分でしたね。5

もっと有名なのが、肺胞の中に分泌される肺サーファクタントと言う界面活性剤です。

肺胞と言うのは、肺の中にたくさんある小さな袋状の構造物で、吸い込んだ空気から取り込まれた酸素と血液中から出てくる二酸化炭素のガス交換をする重要な器官です。

袋の内部はしっとり湿っているのですが、これがただの水ですと肺胞がうまく拡がってくれません。水は空気との界面で表面張力を使って縮もう縮もうとしているからですね。

拡がらなければガス交換もできません。

そのため、肺胞はその表面に界面活性剤を分泌して、表面張力を打ち消しているのです。

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この肺サーファクタントは、妊娠の35週以降につくられる様になります。そのため、妊娠35週未満で産まれてきた早産の赤ちゃんでは、十分な肺サーファクタントが不足していて、肺が拡がらなくなる危険があります。

新生児呼吸窮迫症候群(IRDS)7と言いまして、命が危険になる深刻な状況なのですが、最近ではサーファクタントが製剤化されており、新生児呼吸窮迫症候群に対して使われるようになりました。

医薬品として使われる界面活性剤もあるのです。8


おまけ解説

  1. <サイエンスお父さんの家庭内生物学講義> 脂肪酸アレコレ https://ytoku-science.fun/73/ 見てね
  2. ご家庭で酸とアルカリの実験をやるときには、灰汁が穏やかなアルカリ性を示すので便利。
  3. 表面張力:surface tension
  4. 界面活性剤は、汚れ落としのほかにも浸透、乳化、分散、帯電防止、殺菌など色々な目的に使用されている。
  5. <サイエンスお父さんの家庭内生物学講義> リン脂質と細胞膜 https://ytoku-science.fun/61/ 見てね
  6. 肺胞の内側表面は肺胞上皮細胞 alveolar epithelium cells で覆われている。
    そのうちⅠ型肺胞上皮細胞が肺胞壁の約95%を占め、残り約5%Ⅱ型肺胞上皮細胞がいる。Ⅰ型肺胞上皮細胞はガス交換をし、Ⅱ型肺胞上皮細胞が肺サーファクタントを産生している。
  7. 新生児呼吸窮迫症候群:infantile respiratory distress syndrome
  8. <Life Science 名前の話> 瞳の健康 https://ytoku.online/99/ 見てね
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