一筋の光、降り注ぐ光。

人生はなかなかに試練が多くて。7回転んでも8回起き上がるために、私に力をくれたモノたちを記録します。

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物語のはじまりを予感したあの日―とあるクリスマスの思い出

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東京でひとり暮らしをしていた20代の頃、生活情報紙の記者が生業だった私。いろいろな取材をする中で、素敵なお店を見つけて紹介するという仕事が、結構好きだった。

 

取材先は、自分で探したり、編集長や先輩、読者に勧められたりすることが多かったのだが、「是非紹介して」という、お店側からのお願いもたくさん届いた。

 

まだメールもなく、Faxすら出始めの頃。ほとんどが郵送で、しかも手書きの手紙が多くて。その中で、文面から「これは面白そう」と思った所には出向いていくという、そんなのどかな時代だった。

 


あるお店の話である。もう名前は忘れてしまったが、是非、バスに乗って取材に来てほしい、とハガキに書かれていたことで、興味を持った雑貨屋さんがあった。

 

それはクリスマスシーズンのことで、渋谷区の代官山を走るそのバスからは、とても素敵な街の様子を眺められるから、記者さんに雰囲気を味わいながら来てほしい、というのが理由だった。

 

30年以上前のことだけど、その頃から代官山はお洒落なお店が建ち並びキラキラしていて、当時の私も女子のひとりとして、ときめきを感じる街だった。

 

だが、お店が代官山にあるという訳ではない。ロマンティックな時期にその街をバスで通り抜けて、自分の店まで取材に来てほしいのだと言う。そんなお店のオーナーの提案が面白いと、私は思った。どんな人物かな、という興味を持ったのだった。

 

渋谷から東急バスに乗る。実はそれ、目黒本町に住んでいた私は、帰り道の選択肢のひとつだった。路線は違うが途中までは同じコースで、私の帰り道も代官山を通る。だから、珍しさはない。

 

けれど、初めての気持ちになって、バスの車窓からこの街を眺めてみよう、と私は思った。お店のオーナーの趣向に乗ったのだから。

 

不思議なもので、改めて見渡す代官山は、いつも以上に素敵に見えた。クリスマスのディスプレイが美しくきらめいて、道行く人は幸せそうで、流れゆく景色を見ながら、何か楽しい物語が始まりそうな、予感みたいなものを感じたのだった。

 

オーナーは30代くらいの女性で、お勧め通りバスで来ましたと伝えた私を、夢見る少女のような笑顔で歓迎してくれた。ちょっと風変わりで、お話していて楽しい方だった。

 

でもお店は……。可愛らしい雰囲気の雑貨店だったけれど、並べられた品物たちは、特段、個性的でもなく、悪いけど「普通だな」と思ってしまった。

 

特長がつかみきれない中、どんなお店紹介の記事が書けるかなあと、少し困った記憶がある。「代官山をバスで眺めながら来て」と言ったオーナーが面白い、とは書けないしな、なんて、ちょっと苦い思いで店内を見まわしながら。

 

ただ、店の奥にあった緑色のレトロな感じのデスクライトが目に飛び込んだ。そしてそれは、この不思議な雰囲気のオーナーとともに、印象に残った。そのライトだけ、お店のテイストと違っている気がしたから。

 


1980年代、バブル前夜。世の中はどんどん華やかになっていくような、そんな時代。新しいもの、洗練されたもの、よりファッショナブルなもの。そういうものに目が行きがちだったし、私には仕事の一部でもあったので、あのデスクライトの異質な雰囲気が気になったのかもしれない。

 

絶対に自分の部屋には似合わないし、買おうとも思わない。でも、あの緑色のシェードを通した光は、なんだかすごく心惹かれたな。真鍮製のあのカーブした支柱も、妙に素敵に思えたな。そんな風に、心に残った。

 

それが、バンカーズランプ(バンカーズライト)というものだと、後に知ることになる。

 

バンカーズ。つまり、銀行家のランプという名前を持つこのデスクライトは、昔、銀行の頭取室などで手元を照らす灯りとして生まれたらしい。目に優しいということで、緑色のシェードが採用され、銀行のみならず、法律事務所や図書館などあらゆる場所で使われるようになった。

 

定番の卓上ライトとなったバンカーズランプは、欧米の映画やドラマにもよく登場するし、アンティークな喫茶店などでも見掛けることがある。メーカーもデザインもさまざまだが、真鍮のスタンドにグリーンのランプシェード、プルチェーンスイッチ、というのが、バンカーズランプの象徴的なスタイルのようだ。

 

スタンダード中のスタンダード、というだけあって、誕生してから100年以上がたっても、人気は衰えない模様。もちろん今も、そして30年前ですら、レトロなランプとして人気なのだ。やっぱり、古風でも洒落ているし、可愛く感じるのね。

 


何かの写真とかイラストとかで、このバンカーズランプを目にすることがあると、私はあの日のことを思い出す。そう、バスから見た代官山の美しく流れるような景色も、クリスマスの華やぎも、連なるように思い出す。

 

クリスマスの思い出というと、娘たちの幼かった頃や、自分自身が幼かった時代の、家庭での景色が私には定番なのだけど、たまにこんな風に、ふいに、仕事と絡めた思い出もよみがえったりする。

 

その後、何度かバスで代官山を通ったが、あの日ほど輝いて見えたことはない。あれはやはり、ひとつの物語の入り口だったのかもしれない。私は何かを、少し、間違えた。あのバンカーズランプのことを、記事にすべきだった。あるいはあのオーナーのことを。

 

それでもはやり、その小さな悔いも含めての、これは物語だったのかもしれない。あの緑色のライトを見る度に、私は24歳の私に戻る。いろいろ夢見て、前を見て、好きな仕事を頑張っていた私。何かが始まる予感を、いつも信じてみようとしていた私。

 

彼女は今も、私の中にいる。きっとそうなのだ。私の中で、ちゃんとまだ息をしていて、出番を待っている。

 

彼女だけじゃない。小さな女の子だった私も、若いママだった私も、みんないる。

 

何十回ものクリスマスを過ごしてきて、思い出が積み重なってきて、このシーズンになるとふと立ち現れる思い出も、見る夢も、前よりずっと増えた。それらはみんな、脈絡ないように思えるけれど、本当にそうだろうか、と考えてしまう。本当は、ちゃんと何か意味があるのではないだろうか。

 


最近の私は、朝の家事をする間、TV画面でYouTubeを再生して、BGMにすることが多い。12月に入ってからは、クリスマス音楽をジャズアレンジしたものを、選んで流すことが増えた。音楽を流すことが目的なのだけど、映像がものすごく美しくて見とれてしまうこともたびたびだ。

 

エッフェル塔が見えるパリのカフェの店内とか、暖炉の炎がゆらめく暖かそうな山荘のリビングとか。綺麗な雪の結晶、大きなクリスマスツリー、海外の街の品の良いイルミネーション。

 

チャンネルが多すぎて選びきれないのだが、今日はどれにしようかと迷うひとときも楽しい。

 

あるときは幼子の私が、あるときは多感な少女の私が、あるときは母親の私が、それぞれの映像に反応する。そして時々、ほんのたまにだけど、24歳の私も現れる。

 

で、私。彼女の登場には正直、どぎまぎしてしまうのだ。
・・・なぜだろう?笑

 


✻今年のクリスマスイブは、皆さま、どんな風に過ごされるのでしょう?
私は、西城秀樹さんのディナーショーを見て過ごします。
あ、もちろん、配信ライブです。

hidekiforever.com

今年は次女も帰ってこないし、夫は仕事だし、いいかな、とは思ったのですが、もしかしたら嫌がるかもしれないので、一応彼にお伺いをたてたのです。

夫「いいじゃない。どうぞどうぞ」
私「いいの?イブだよ?」
夫「イブにヒデキ見るなんて素敵じゃない。良かったね」
私「本当に?イブだよ?『恋人たちのクリスマス』だよ?」
夫「あのー。じゃあ、なんて言えばいいの?」

アラカン夫婦のつまらない小話、失礼しました。
もちろん、嬉しかったのですよ。ちょっと、28歳の私が現れたかな?笑
調子に乗って「ヒデキにやきもち妬かないの?」とふざけたりして。
夫が残業なかったら、一緒に見ようと思います♪

慌ただしい年の瀬ですが、クリスマスの楽しい気分を味わいながら、心穏やかに過ごしたいですね。寒くなりました。お体もどうぞご自愛くださいね。

 

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