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【職歴紹介】司法書士兼土地家屋調査士の「補助者」のお仕事② 最強のトリプルライセンス

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職歴紹介シリーズの続きです!
前回からは司法書士兼土地家屋調査士(+行政書士)の「補助者」の仕事です。

前回、司法書士兼土地家屋調査士(以下、司法書士事務所)で働くことになった経緯、リーマンショックの中での苦難の就職活動について語りました。
今回からは、世の中でそれほど馴染みがあるとは言えない司法書士土地家屋調査士+行政書士)の仕事内容について解説します。

司法書士兼土地家屋調査士の「補助者」とは

Eは司法書士事務所に就職すると、司法書士と土地家屋調査士の両方の「補助者」となりました。
「補助者」というのは単に職務内容を表すだけではなく、正式に司法書士会、土地家屋調査士会に登録する職名です。
顔写真入りの補助者証も発行されます。

「補助者」になると何ができるかというとこれでした。

・登記申請書を法務局に提出
・登記申請が終わった書類を法務局で受け取り
市役所で必要書類を請求、受け取り

こういった際に、補助者証を提示して資格者の代理を行えるというわけです。

ところで、
司法書士事務所で3年も働くと普通の、特に問題のない不動産なら、不動産登記を自力でできるようになります。
そうなると、通常司法書士の先生に支払うはずの報酬が節約できます。
相続登記で司法書士に支払う報酬は平均で6~7万円ですから結構な支出ですよね。

Eは親が残した、現在住んでいる一軒家の土地と家屋、他不動産を自分で登記申請書を書き、戸籍や不動産の評価証明書などの添付書類を集め遺産分割協議書相続関係説明図(家系図みたいな)を作り、法務局に提出し受理されました。

が、ひとつ気をつけましょう。
自分や家族の不動産登記をするだけなら問題ありませんが、業として他人の代理での登記申請をしたりすると司法書士法や土地家屋調査士法に違反します。
犯罪です!

事務所の先生はどんな人?

さて、Eは単なる補助者ですが、事務所の先生はもちろん資格者
しかも、司法書士と土地家屋調査士の資格試験に合格しています。
それだけでなく、業務としてのボリュームは少なかったんですが行政書士と測量士の資格もありました。

全て難しい資格試験に合格しなければならない国家資格です。
ちなみに、Eが就職した時にはすでに60代だった先生ですが、70歳を超えた現在も現役で仕事されていることを確認しています。

では、Eが聞いたこの老先生の経歴です。

①今から約70年前、農家の長男に生まれる
②農業高校を卒業、在学中の部活は測量部
③大手測量会社の敷地内にある、小さな測量の事務所に就職、測量士の資格を取る
④続いて土地家屋調査士の資格を取る
⑤司法書士の資格を取るために事務所を退職、資格試験の勉強に専念(たまに家業の農業を手伝う)
⑥三年間の勉強の末、司法書士試験に合格
⑦(ここは詳細不明)いろいろあって元働いていた測量事務所が先生の司法書士兼土地家屋調査士の事務所となる
⑧業務上必要となり行政書士の資格も取る
⑨それから現在まで数十年、奥さんを補助者として順調に営業を続ける
⑩先代が亡くなって受け継いだ農地は引き続き他の人が耕作して、そこから収入が入ってくる。


と、難しい資格を4つも持つ先生ですが、さすがに司法書士の資格はハードルが高く、仕事を辞めて3年間勉強に専念しています。
先生の経歴についてはほとんどが奥さんから聞いたものですが、3回目の試験の時は不合格だったら諦めるつもりだったそうです。
司法書士の難易度と合格率(約4%)を考えれば3年で合格もなかなかのものです。

Eは社会保険労務士の試験に合格するのに、概算で2年間で1,200時間ほど勉強しましたが、司法書士試験は3,000時間ほどの勉強が必要だそうです。
Eの体験から言って、2年間で1,200時間の勉強っていうのもかなりの地獄です。

さて、
なぜ先生は「測量士」「土地家屋調査士」「司法書士」「行政書士」の4つもの資格を取る必要があったのか。
答えは、
土地に関しての仕事をしようとするとどれもが必要不可欠だからです(測量士は必須ではありませんが)。

各資格の業務内容

「土地家屋調査士」「司法書士」「行政書士」 の3つの資格は土地に関する業務において密接に関係しあっています。
特に 「土地家屋調査士」「司法書士」 の業務はひとつの依頼でセットになっている場合も多いです。
ではそれぞれがどう関わっているのでしょうか。


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司法書士の業務

「司法書士」という仕事は他の3つの資格に比べると範囲が広く、土地に関する仕事の他に、会社設立などの商業登記裁判所に提出する書類作成成年後見などがあります。

どの資格もそうだと思いますが、司法書士もひとりひとりの得意分野、苦手分野があります。
Eの事務所の先生は専ら不動産登記を専門業務としていました。

測量士→土地家屋調査士→司法書士、という経歴からも当然と言えば当然です。
Eが在籍中、時々商業登記や訴訟関係の相談を受けたりしていましたが、ごくごく一般的で簡単な会社設立の登記でない限り、他の司法書士を紹介するなどして断っていました

不動産登記とは

「不動産登記」と言われてもピンとこない人も多いでしょう。Eもそうでした。
不動産登記はこんな時に行います。

・土地や建物などの不動産を売買した場合 【所有権移転登記(売買)】

・新築や購入した建物の所有権を明示する場合【所有権保存登記】

・銀行でローンを組んで建てた建物を抵当に入れる場合【抵当権設定登記】
(返済できなかった場合、その建物の所有権が銀行に渡ります)

・亡くなった人の不動産を相続人が相続する場合【所有権移転登記(相続)】

など、他にも多くの種類がありますが、Eが事務所で関わった司法書士業務の8割は上記の業務です。
そして、前述したようにこの中には土地家屋調査士の業務と密接な関係があったりします。

土地に関する司法書士の業務が、土地家屋調査士の業務と関連する場合、ほとんどは土地家屋調査士の業務が先になります。
では、続いて土地家屋調査士の不動産登記の業務について解説します。

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感想(1件)

Eは一切手出ししませんでしたが司法書士の資格、いかがでしょうか?

土地家屋調査士の業務

さて、出ました土地家屋調査士
普通に生活していると、まー馴染みのない職業ですよね。

一体何をする職業なのか。
正直、Eも補助者として関わっておきながら説明するのが難しい業務でもあります。
説明する前にまず、基礎知識が必要となります。

こういった建物も全て土地家屋調査士や司法書士が関わっています。

表題登記の基礎知識

例えば、Eのように自分の土地に建てた自分の家に住んでいるとします。

他人に、この土地と家が自分のものだと証明するにはどうすればいいでしょうか。
家や土地を売ったり、土地を担保にお金を借りたりする時、相手は当然所有権の証明を求めます。

その場合、法務局が発行する「登記事項証明書」という公的な書類によって証明することができます。
「登記事項証明書」は一般的に「登記謄本」とも呼ばれています。

登記事項証明書の見本 出典:法務省HP
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji162.html



上記の「登記事項証明書」は「土地」と「建物」とある不動産の中でも「土地」についてのものですが、見ると欄がこのように分かれています。

①「表題部(土地の表示)」
②「権利部(甲区)(所有権に関する事項)」
③「権利部(乙区)(所有権以外の権利に関する事項)」

土地家屋調査士はこの中の①、「表題部」に関する「表題登記」(「表示登記」ともいう)に関する業務を行います。
②と③の「権利部」は司法書士の業務です。

ものすごく簡単に言うと、その土地がどう呼ばれていて(所在、地番)、何に使われていて(地目)、どれくらいの広さなのか(地積)を確定させるのが土地家屋調査士です。
建物の場合は、どんな種類の建物か(種類)、どんな屋根で何階建てか(構造)、どれくらいの広さか(床面積)などの項目が表題部に当たります。


そしてこれらを依頼を受けて土地家屋調査士が表題登記することでその不動産がどこにあってどんなものかを公的に確定することができます。
登記の際には測量結果である「地積測量図」「建物図面」などの資料を添付します。

地積測量図サンプル 出典:盛岡地方法務局HP
http://houmukyoku.moj.go.jp/morioka/static/33zumen.html



Eは現場で測量をして、事務所でCADによる製図をして上記のような地積測量図を作っていました。
先生は完全に機械音痴だったので先生の指示のもとに全てEが作っていました。

興味のある人のために、上記の地積測量図のサンプルについて説明を加えておきます。
これは所在が「盛岡市甲町字乙」で地番が「5-1」の土地を二つに分けて新たに「5-3」の土地を作るという「分筆」の登記をするための図面のようです。
「5-2」の土地は既に右隣に存在しているから新しい土地は続き番号の「5-3」となります。土地家屋調査士はこの辺も調査します。

この登記をする以前は図面上の「5-1」と「5-3」の土地はふたつ合わせて「5-1」だった、ということになります。

土地の場合

例えば土地を他人に売るとします。

これから売る相手は、土地がどこからどこまでが自分のものになるのか、隣の土地との境界はどこなのか、気になりますよね。
というか、かなりの重要事項ですよね。

そんな時は法務局に赴き「登記事項証明書」を確認。さらに土地家屋調査士が作成した「地積測量図」を閲覧(地積測量図はない場合も多くあります)。

地積測量図は、現代の技術で測量されていれば土地の境界の位置がミリ単位の座標値で示され、境界杭や鋲の位置も示されています。
杭などの目印が消失していれば地積測量図のデータを元に現場で境界を再現することができます。

じゃあもし、
法務局の図面が、巻き尺とアナログな測量機器だけで測量されていて、図面には境界線と距離だけで、座標値などない古い図面だった場合は?
そもそも法務局に地積測量図がなかったら

法務局には「公図」と呼ばれる土地の境界(筆界)を表した広範囲の図面を備えてあって閲覧したり、印刷したものを入手することができます。
座標もなく、距離の表示もありませんが、公図は縮尺に従って正確に境界線が引かれている前提になっているので、拘束力があります。

山の中などの田舎だと公図もない場合があります。
その場合は、市役所などに保管されている大昔(明治時代などのケースもあり)に描かれた図面を使う場合もあります。

Eも実際にやりましたが、鉛筆と定規とトレーシングペーパーを持って行ってボロボロの、今にも崩壊しそうな地図から目的の地番とその周辺の筆界をトレース。
それを事務所に持ち帰って座標としてデータにする、という作業をやります。
スキャナーと測量用のCADを使って座標データに起こすことが可能となります。
とにかくあらゆる手段を使って資料を探し出し筆界を確定します。

筆界が決まったら、土地家屋調査士が現存する資料を元に測量、境界杭などを打ち「境界確認図」を作成し、隣接する土地の所有者と現場での確認を行ない、印鑑をもらって回ったりします。

つまり、土地家屋調査士は法律の他に測量に関する広い知識が必要とされます。もちろん、図面を書く知識もです。

建物の場合

例えば家を新築したとします。

その家が、家を建てた人の所有物だということは司法書士が「所有権保存登記」をすることによって行われますが
その前提として、土地家屋調査士が現場で建物を調査して「その建物がどこの土地のどの位置にあって、どれくらいの広さでどういう構造なのか」という表題登記をします。

建物図面(各階平面図)サンプル 出典:盛岡地方法務局HP
http://houmukyoku.moj.go.jp/morioka/static/33zumen.html



上記の表題登記申請書に添付する「建物図面」(通常「各階平面図」も一緒になっている)、サンプルだけに非常にシンプルな土地にシンプルな形状の平屋の建物が記載されています。
この図面の中に引かれている土地の境界線は座標値も距離も記されていませんが、縮尺に合わせて正確に(近年はCADで)引かれています。

ここまでの解説でわかるかと思いますが、土地家屋調査士が表題登記をすることによって始めて、司法書士が行う「権利の登記」をする対象である不動産を特定することができます。

そしてもうひとつわかることがあります。

土地家屋調査士の資格しかない人は、その後の権利の登記を司法書士に引き継がなければなりません。

だからこそ先生は仕事を辞め、3年もの間試験勉強に専念して、司法書士の資格を取ったのでした。

さて次に行政書士です。
なぜ先生は行政書士の資格も取らなければならなかったのでしょうか。

行政書士の業務

恐らく首都圏などの都会の司法書士や土地家屋調査士には少ないケースだと思いますが、実家が農家で地縁から近所の農業を営む、または農村部に住む友人・知人が多かった先生には行政書士の業務がしばしば派生しました。

Eは先生が次のふたつの業務以外で行政書士の仕事をするのを見たことがありませんでした。
それは、

「農地転用許可申請」と「開発許可申請」です。

行政書士というのは官公庁への提出書類の作成代行などが主な業務ですが、この業務は司法書士も土地家屋調査士もできないので行政書士の資格が必須です。
そんなわけで、先生は司法書士になった後に行政書士の資格を取ったわけですが、行政書士試験は司法書士の資格試験に合格した人にとってはそんなに難しくないらしいです。

これはEの想像ですが、司法試験や司法書士試験などはそもそもの法律の考え方といった基礎をしっかりと身に着けるから、その枝葉の試験である行政書士試験などには応用が利くんじゃないでしょうか?

農地転用許可申請とは

ともあれ、Eの在籍時にも数多くの農地転用許可申請の申請書を作成しました。
そもそも農地転用って何?

前述の不動産の登記事項証明書には、登記された土地の用途に応じて「宅地」「田」「畑」「山林」「公衆用道路」などと「地目」が記されていましたよね。
この中で「田」や「畑」と、農地として分類されている土地は「農地法」で管理されていて、勝手に他の用途に使用することができません。

例えば、小屋などの建物を建ててはいけません。
Eが実際に見たケースで、農家が自分の「農地」に法律をよく知らずに農作業に必要な建物を建ててしまい、それがばれてすぐに解体した、という事例もあります。
罰則があるから無視してそのまま使うわけにはいきません。

農地は、その中でも細かい分類があって許可申請をすることで地目を変更し作業小屋など建物を建てたりすることができる場合があります。
そんな時は行政書士でもあり、しかも土地、農地に詳しい先生に地元からの依頼が集まりました。

そして農地を他の地目に変更する許可が出た、つまり行政書士としての仕事が終わった後にも次のような業務が待ち受けています。

①作業小屋を作るための敷地を農地と区別するために「土地分筆登記」
②分筆した後に作業小屋を作る方の土地の地目を変更する「地目変更登記」

この二つの業務は土地家屋調査士として行います。
どうでしょう、このダブルライセンス、ならぬトリプルライセンスならではの「濡れ手に粟」状態ですよね。

Eはそんな先生の姿を見て無邪気に「国家資格っていいな~」と思いながら社労士試験の勉強に励んでいたのでした。

開発許可申請とは

これも専門用語が多くなって説明が難しいんですが、「都市計画法」という法律で定められていて「開発」というのは要するに家を建てたり、生活に必要な上下水道などを引く「開発行為」のことを言います。

都市部では当然、開発行為をするのに許可なんか必要ないんですが、地方では「市街化調整区域」といった開発行為を制限するエリアがあったりします。
要するに勝手に家を建てたりできないわけです。これってなんとなく農地法と似ていますよね。

この開発許可申請の代行も行政書士の業務です。
もちろん、先生が持つ他の資格業務ともつながっています。

開発許可申請には測量図面を添付する必要があるので、土地家屋調査士の業務が発生します。

そしてゆくゆくは家が建ち、同じく土地家屋調査士の「表題登記」、司法書士の「所有権保存登記」
依頼主が銀行でローンを組んで家を建てれば「抵当権設定登記」
次々に業務が派生していきます。

営業不要の最強事務所

しかもこの司法書士事務所、営業や宣伝活動など一切していなのに自然に仕事が入ってきます
ソースは二つ、

①代々の農家なので地縁の結びつきが強く地元の友人・知人からの依頼がくる
②測量会社の敷地内にあるため、測量会社で発生する案件が回ってくる、というか測量会社からするとそのために敷地内に先生の事務所が置かれている

と、決してものすごく儲かっている事務所ではないものの、夏のピーク時は結構な忙しさでした(社労士試験直前が一番忙しくて…)。
おまけに定年のない個人事業主ですから60だろうが70だろうが働ける限り働けます
とはいえ、Eから見ても先生は重度の機械音痴で、土地家屋調査士が必要とする測量や製図のための最新機器に全くついていけてませんでした。
だからこそCADができるだけのEでも雇われたんですが。

この先生、ホントに持っている資格を最大級に活用していますよね。
Eと違って。

その代わり、昔ながらの測量法については見事なものでした。
Eは距離と角度の情報から三角関数を使ってもう一辺の距離を計算するのに、関数電卓か測量用CADの計算機能を使わなければできません(測量に三角関数の知識は必須です)。
あるとき先生が測量現場に関数電卓を忘れてきたことがあって、メモ帳を出してさらさらと計算を始め、手計算だけで距離を算出した時には尊敬でした。

なるほど現在は様々な業界でデジタル機器の恩恵にあずかっているんですね~

まとめ

さて今回は、Eが就職した司法書士事務所の先生の人となりと、事務所の業務についてざっと解説しました。

次回は、Eがこの事務所で「補助者」としてどう活躍したのか、はたまた膨大な専門知識を必要とする事務所の仕事についていけたのかどうか、などを解説していきます。

次回をお楽しみに!

それにしてもあの時、社労士ではなくエンジニアの道を目指すべきでした…









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