頭の整理を兼ねて書きます。
念のためですが、個人的な経験をベースにしています。
◆公立高校から医学部への進学を支援するために
医学部が難関であることは、昔も今も変わりません。
そこで、医学部を目指す高校生については、都道府県主導で「医学部進学希望生徒を集めた勉強会」を開催しています。医師希望の高校生を集め、合格のための学力指導から始まりました。この頃は、学力指導に長けている先生や、予備校の先生が講師でした。
しかし、医学部入試が、小論文・面接などを通じて「医師の適性」を問うものに変わってきました。そこで、現役の医師・大学教授などに依頼し、生命倫理などの講義をしてもらうようになりました。
このあたりから、徐々に課題が明らかになってきました。
◆医師を希望する理由
学校の成績が良い子が、「あなたは頭が良いから医者になれば」と言われてその気になってというパターンがあります。こういうタイプの生徒は、周囲の期待に敏感で、かつ優しい性格であることが多いです。逆に言えば、自分で選んだ職業ではないわけで、その点で「医師という職業を目指した動機」が弱いのです。
「父が医師で命を救う姿に感動した」というパターンもあります。現場の医師に言わせると、「これは単なる憧れにすぎない。そんな浅い感情では、医学という厳しい学問に耐えられないだろう」になります。
◆インターンシップを行うと…
夏休みなどを利用して、病院インターンを行います。
地域医療の現場経験です。するとこんな反応が出てきました。
①医学部に進むための勉強会なのに、なぜ勉強以外のことをするのか?
②現場を見て、私が思っていた医師のイメージと違った
③私は真剣に医師を目指しているのに、「成績が良いから」という理由で医師に
なった人、医師を目指す人の存在を知って、医師になることが嫌になった
そして、医師になることを辞めていくのです。③だけでなく、①②の高校生も医師になることを辞め、別な職業を目指すようになります。
最初にこの反応が出た時、「高校生の夢をつぶすな」という批判もありました。
◆厳しいですけど、振り落とすことも必要
医師を目指すくらいですから、中学・高校ではトップクラスの生徒達です。
その夢を叶えるために背中を押すのも重要です。同時に、どんなに成績が優秀であっても、医師への適性がない者は振り落とすシステムも必要ということを学びました。振り落とすシステムと言っても、成績が足りないとか、圧力をかけて辞めさせるのではありません。経験を積み重ねる中で自己と向き合い、何かに気付いて自然に転向していくのです。これも、子供たちの成長ですし、良い意味で背中を押すことでもあると思います。
一方で、地域医療の現場を体験することや、現場の医師から医療倫理・生命倫理について学び、ディスカッションを重ねることで人間的に成長していく高校生もいます。
結果として、医学部進学実績は伸びました。
ただ、結果に関係なく、振り落とすシステムの維持は重要です。
なぜなら、このシステムは、「ノルマのない公教育」だからできることだからです。
実績が経営に直結する私学では、難しいと思います。
成績が良いから医師になって欲しい、弁護士でもいいかも…という大人の歪んだ認知が、子供たちに悪影響を及ぼしていませんか?
先生は仕事をしない…だから競争させろ、ノルマを課せ、国公立大学・医学部・東大の合格者数を増やせ! という世論があります。先生ではない公務員だった私の役目は、こうした世論から学校を守り、子供たちが本当の自分に気づき、その気づきを導く場を先生たちに作ってもらうことと考えていました。
学校の先生や公務員を批判することは、個人の自由です。
ただ、大人の歪んだ認知で、子供たちをミスリードすることはあってはいけません。
そういうものから、学校と子供たちとを守ることも公務員のお仕事なんです。
というお話でした。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。