岸政彦さんは前に柴崎友香さんと共著の『大阪』という本が面白かった記憶がある。
1,200ページ超。
本屋さんで見つけてちょっとだけでも読んでみたいと図書館で借りた。
他の本もあったから、やっぱり2週間ではとても読みきれず。
いわゆる無名の、市井の人々の物語。
無造作に開いたページを読んだ。
全部読まなくてもいいし、たとえ全部読んだとしても、それは全部とは言えないというか。
スカイツリーに上った時にもふと思ったが、この景色の中にごま粒のように見える一つ一つの家や、マンションやアパートの部屋に、それぞれに人が住み、そのひとりひとりに来し方があり、物語がある。
そのいくつかの物語に触れさせてもらった。
そんなことが本当にあるのかと思うような奇想天外な話(まさに事実は小説よりも)があるかと思うと、これといった大きな盛り上がりもオチもない、ファミレスで友だちと雑談しているようなものもある。
話したまま文字にしているのでわかりにくいところも結構ある。
でもそれも含めてリアルということだし、リアルでありながら、あくまで語っているその人にとってのリアル、人や角度が変わると全然違うものになるんだろうと想像するのも面白い。
一番最初にあった、世田谷の高齢の女性の語り口がまず印象的だった。
引き揚げや結婚、子育ての話。
聞き手は「どんなに大変だったか」を引き出そうとしているのだけど、どの話にも「そんなに大変なことはなかったと思う」と終始、淡々としている。
過ぎた今だからそう感じるのか、全てのことをそう思いながら生きてこられたのか。
自分で経営していた小さなスーパーが倒産し、ほとんど無一文で東京に来て、初日に貼り紙で見たビッグイシューの販売を始め、以来数十年駅前に立つ男性の話も印象に残った。すぐに他の販売者の何倍もの冊数を売る男性。
同じものでも「この人から買いたい」と思わせるには、巧妙なテクニックよりまっすぐな気持ち、売る買うはやはりコミュニケーションなのだ。
日本中世界中の人に、それぞれ「生活史」はあるけれど、「東京の」というところにも意味や狙いがあると思う。
もし東京に来る前にこの本を見つけたとして、手に取っていたか、それはちょっとわからない。
東京に来て8年経って、良くも悪くも少しだけ東京というところがわかってきたような気がするから、より興味を持ったのか。
やっぱり「全部」読みたくなって、これは買ってしまうかもしれない。
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