銀河戦記/脈動編 第九章・カチェーシャ Ⅰ
2022.05.21

第九章・カチェーシャ




 言語学者 =クリスティン・ラザフォード(英♀)
 ミュー族 =エカチェリーナ・メニシコヴァ


 医務室で待機する盲目の女性。
 彼女の名前は、エカチェリーナ・メニシコヴァ。
 目が覚めた時、周りには人の気配と聞いたことのない声と、規則的で機械的な音が続いている。そして、病院特有の消毒薬の匂いが漂っていた。
 ベッドの上に寝かされているようだった。
『ここは敵の船の中? それも病院?』
 寝てもいられず、ともかく身体を起こしてみる。
「あら、気が付いたのね」
 女性の声がしたが、何と言っているか分からない。
 近づいてくる足音。
「言葉が分かる? 分からないわよね……どうしたものかしら」
 優しく問いかけるその言葉には、何とか意思疎通をできないかとの、緊張感が伝わってくる。
 手を取られたかと思うと、自分の胸辺りに誘導して、
「あなたね」
 と言った。
 続いて、その手が伸びたと思ったら何かに触れたが、どうやら相手の胸のようであった。
「わたしよ。名前はクリスティン」
 と言った。
 そして再び、自分の胸を触って、
「あなた、名前は?」
 と言った。
 どうやら名前を聞いているようで、ボディーランゲージを使って意思を伝えている。
『私の名前は、エカチェリーナです』
 相手の言語が分からないので、自身の言葉で答える。
 言葉の中から、明らかに名前だと分かる部分を理解したようだ。
「エカチェリーナね。あなたの名前は、エカチェリーナ」
 頷いて応えるエカチェリーナ。

 ともかく意思疎通するには、言語を理解しなければならいし、基本の単語と文法を覚えなければならい。
 身近に触れられる対象物を、お互いの言語で語り合うことから始めた。
 目が見えるクリスティンが親切丁寧に、対象物に触れさせてから、
「これはベッドで、ここに眠るのよね」
 などと、名称と使い方を伝える。
「チーズケーキよ。美味しいから食べてみて」
 食べ物も、味覚などの情報を交えてゆく。
 
 会話の中から、エカチェリーナが使用する言語の文法を解析していくクリスティンだった。
 やがて日常会話程度なら、理解できるようになっていた。
「ねえ、エカチェリーナ」
 呼びかけた時、
「わたしのこと、カチェーシャと呼んでくださっていいです」
 と呼び名を変えてほしいと言った。
 カチェーシャとはエカチェリーナという名前の愛称である。
 親しい間柄ではカーチャと呼び習わし、さらに親しくなるとカチェーシャとなる。
「愛称で呼んでいいの?」
「はい。クリスティンなら平気です」
「分かったわ、カチェーシャ」

 それなりに親しくなった二人は、会話を通してそれぞれの言葉を話せるようになっていった。
 特に言語学者のクリスティンは、カチェーシャとの会話から文法なども理解できていた。

 言葉が分かれば、相手の事を知りたくなるものだ。
 カチェーシャの属する国家と、もう一つの国家について質問するクリスティン。
「わたしの祖国は、この銀河の反対側の端にあります。惑星都市サンクト・ピーテルブールフが首都です」
「銀河の反対側なの? 随分と遠くまでやってきたのね」
「私たちの国は、開拓移民のため首都を旅立って五千年もの年月を掛けて、銀河をぐるりと一万五千光年を回ってきたのです」
「開拓移民ですか?」
「既にご存じかと思いますが、もう一つの国家との開拓競争と領地争いを戦ってきました」
「そうだと思いました。あなたの国と戦争している国があるのですね」
「はい。クリスティンの国は、もしかしたら隣にある銀河にあるのではないですか?」
「その通りです」
「なるほど、銀河間を渡る科学技術を持っているのですね。あなたの国の事、詳しくお話頂けないかしら」
「そのお話は、司令官直々にお伺いしましょうか」
 二人の間で会話をしても、司令官にも内容報告する必要がある。ならば直接司令官と話した方が良いだろう。
「分かりました。司令官さまに合わせて頂きますか」
「いいわ。合わせてあげましょう」
 数時間後、トゥイガー少佐とエカチェリーナの面談が設定された。



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