鑑三翁に学ぶ[死への準備教育]

内村鑑三翁の妻や娘の喪失体験に基づく「生と死の思想」の深化を「死への準備教育」の一環として探究してみたい。

[Ⅳ218] 女が男を保護する事(18) / ”てあて”という看護 

2023-02-12 18:21:08 | 生涯教育

この日の講師は川嶋みどりさん(注:日本の看護師、日本赤十字看護大学名誉教授、1931-。日本での専門職看護職の専門性を多くの著作によって開発・啓発した。フローレンス・ナイチンゲール記章受賞。『看護の力』〈岩波新書、2012〉など一般書もある。)。主題は『てあてTEATE』。聞き手は10人のアフリカ諸国の助産師たち。彼女たちはほとんどが最貧国と言われるアフリカ諸国1か国1名の割り当てで来日していた。日本で実地訓練を含めたより専門的な助産師トレーニングを6か月間行うプログラムのとある一日の研修。

川嶋さんは通訳を介して助産師たちに語りかけた。「日本での研修では、高度先進医療機関で機器の整った病院での研修を期待して来日されたのだと思います。でも私は皆さんのお仕事に関して、そのような高度の機器の話をするつもりはありません。そのような機器の扱い方や管理の話を聞きたいのであれば、その期待に応えることはできません。私の話は皆さんが帰国して、今すぐに実行できる看護技術の話です。これ以上の素晴らしい技術はありません。それは”てあて”というものです。

医師は患者さんが痛みを訴えた時には鎮痛薬を与えて痛みを取り去ろうとします。患者さんが眠れないときには、睡眠導入剤や睡眠薬を与えて患者さんが眠れるように試みます。患者さんが不安を訴える時には、抗不安薬を与えて不安の解消を試みます。でもそのような医療は皆さんの国では容易に薬物が十分に入手できない可能性があります。そんな時看護職(助産師や保健師や看護師)の皆さんはどうしていますか ? 」

川嶋さんの質問に彼女たちはキョトンとしています。川嶋さんは回答を待ちました。しばらくの沈黙が続きました。すると一人の助産師が回答しました。「何とか医師を探して薬を処方してくれるまで努力します。」川嶋さんは答えました。「そうですね、でも医者が不在で薬も手に入らない時間が長くなったらどうしますか ? 」助産師の回答。「患者さんに少しの間我慢するように言います。」川嶋さん。「そうですね、患者さんにはある程度我慢させることも大事。でも私たち看護職は、医者が居らず薬が手に入らない時にもできる方法があるのですよ。それが”てあて”です。そもそも皆さんが分娩のときに、陣痛で痛がっている産婦さんにはどのように対応していますか ? 」一人の助産師の回答。「えーっと‥産婦さんのそばに立って、頑張ってね、しばらくの辛坊だから ! と声を掛けます。そして分娩の展開を見計らいながら産婦さんの汗を拭いたりします。それと産婦さんの手を握ってあげます。そして声掛けして励まします。」川嶋さんは答えました。「それが”てあて”ですよ ! 私たち専門職看護職の専売特許の”てあて”です。皆さんはいつでも痛みを訴える産婦さんに対して、声掛けする/手を握る/汗を拭く‥といったケアの基本を既に実践しているじゃないですか !  ”てあて”とは人間の手を当てて、体温を感じるといった事だけでなく、手をあてることで患者さんが安堵の気持ちを感じることがあります。また私たちが行う”マッサージ”も、自然にお母さんが子どもの背中をさするような行為や、肩こりをほぐすような行為を指しますが、こうした行為も”てあて”の一種です。”てあて”は手をあてることですが、この行為は人間にとって何と大きな幅の広い意味をもつものでしょうか。私たちはこのことを看護ケアの基本として、もっと重要視しなければならないと思います。患者さんに触る/手をあてることでケアをする者の「心」を伝えることになる看護の技術です。

“てあて”という行為ははとても素晴らしい行為です。日本でも高度先進の機器類に囲まれた分娩でも、最も重要なのがそのようなケアなのですよ !  皆さんは素晴らしい仕事をされています。日本に研修に来られなくても十分な仕事をされているじゃないですか。」

助産師たちは初めはうなづいて理解を示していましたが、次第に彼女たちの心臓の鼓動が高まり体温が上昇していることに私は気づきました。川嶋さんは続けます。

「日本で私たちが”てあて”と言う時には、基本はお母さんが子どもが熱を出して苦しんでいるときに自然に行うケアの方法、氷枕を頭の下に置き(体温をさげる)、呼吸が楽になるように楽な体位にしてあげる、食事がとれないときには粥食にしたり流動食を食べさせる、水分を常に与える、布団や毛布の掛け物を調整する、部屋は静かな環境を整え明るさを調整する、目覚めている時には子どもの様子を観察しながら声掛けする、楽しい話を心がける、手を握る、これを自然に愛する自分の子どもにおこなっています。無償の愛する者への自然の行為、これが”てあて”です。」


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