本編「コーチが僕等に与えた課題」の前に
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と言うわけで本編スタート
おざまーっす!
会社が夏休みに入ったので、またモンテアミアータに行って来た。
宿代かからないし。
今回は行く道すがら、川にでも寄って行こうという事になり、友達から仕入れた〝メルセ川″と言う情報を元に、ほぼ行き当たりバッタリで行くことにした。
目的地に一番近い集落まで滞りなく辿り着いた。寂れたBARで昼飯のハムパンを買ったついでにちょっと情報収集。
BARの店員曰く「この先の道を下って行って、舗装された道が終わったところで車を停めて、それから徒歩で15分くらい。もし四駆の車なら川の目の前まで行けるけど。まぁ普通の車で行く人も居るけど、ほとんどの人が(舗装が終わった所に)車を置いて行くわね。」との事。
先の道を下ると5分も走らずに舗装された道が終わるところまで来た。
車を止めて川に持っていく荷物を準備していると、
普通の乗用車が後ろから来て、舗装されていない道(川方面)に入って行った。
「BARの店員はやめた方が良いと言っていたけど、大袈裟に言ったのかな?こっから次男(1歳半)を抱っこして、足元の悪い道を15分歩く事を考えると、車で行けるなら行っちゃいたい」そんな考えが浮かんできた。
そうこうしていると、今度はまさしく山道に慣れていそうな"砂埃で汚れたジープ"が、僕らの横を通り過ぎて行ったが、10mくらい先でそのジープが何故か止まった。
僕が困っているように見えたのだろうか?
僕は"もしもこのジープの人がここをよく知っている人なら、
僕の車で川の近くまで行けるかどうか分かるだろう。さっきの乗用車が普通に入って行ったので、とりあえず聞くだけ聞いてみよう"と思い、ジープの人に聞きに行った。
車の中にはマッチョな麿 赤兒(まろ あかじ 舞踏家)みたいな人が乗っていた。
見た目は怖いが親切に話を聞いてくれた。
そしてその人にこう言われた。
「もし、道が雨で濡れていたら止めた方がいいけど、この辺りは2週間雨が降ってないから大丈夫。
石の上にタイヤを乗せてゆっくり進んで行けば行ける!
俺は以前、君の車よりもう少し小さい車で来た事がある。
大丈夫だ!パンダ(僕の車の車種)なら行ける!俺を信じろ!俺が前にいるから大丈夫だ。もしハマったら俺が引っ張り出してやる。俺について来い!!」
おぉぉ・・・何と心強い言葉だろう。
ここまで言われたら諦める理由が無い。
と言う訳で、兄貴について行く事に。(いきなり兄貴呼ばわり)
少し進むと、すぐに石がゴツゴツ出て来た。
僕は泥沼にハマった前科があるので、あまり無理はしたくない。
しかもこんな旅行先の山奥で車が壊れたら面倒だし。。。
だが、どんどん兄貴は進む。
徐々にゴツゴツがひどくなってきた。
すると、最初に僕らを追い抜いて行った車が道の端に止めてあった。
この人達はここまで来て、車を止めて川に行ったようだ。
僕等もこの辺に止めて歩いて行きたい。。。
が兄貴は止まってくれない。
そして、大きな石が4つ5つ連続で飛び出ている所にやって来た。
「いやいやいや!ここ無理じゃね?」と思いつつ躊躇していると、
先で待っている兄貴から、手で"早く来い"の合図が。。。
僕はタイヤが石の上を通るようにゆっくり進んだ。
が、急にタイヤが落ち「ゴリッ」と言う嫌な音がした。
流石に兄貴が車から降りて来て、僕の車の横に来た。
「落ち着け。ハンドルを全開に左に切ってゆっくりと進め。大丈夫だ!」
僕は「こんなにしてまで行く価値のある川なのだろうか?」と思いながら、言われた通りにし、どうにかその場を抜け出した。
兄貴は「よし!ブラーボーだ!ここが最難関だから、もう川にたどり着いたようなもんだ」と言った。
兄貴も「大丈夫だ」と「ブラーボーだ」しか言わないし、
もうここまでくると、「車が走る状態で帰れれば良いや」という境地。
そしてどうにか川に辿り着くことができた。
僕等の他に車が2台あったが、2台ともごっつい四駆のオフロード車だった。
どんだけ無理させんだよ!兄貴!!
車を降りると兄貴が「よーし!到着だ!ブラーボーだ!大丈夫だっただろ?」
と言った。
がっつり車の下擦ってるけども、どうにか辿り着いたという事であれば、大丈夫だったという事でいいのだろうか。。。
車がレンタルか自分の物か聞いてきたので、兄貴が「俺について来い」と言った手前、ちょっと気にしていたのだろう。
そして「君たちは日本人か?」と聞かれたので、そうだと答えた。
兄貴は柔術のコーチをしていて何度も日本に行った事があると言う。
よくよく話を聞くと、日本の総合格闘技イベント"PRIDE"のブラジル人選手のコーチをしていたそうで、何人かの選手の名前を言われたが、アントニオ・ボドリゴ・ノゲイラだけ分かった。
どおりで、歳の割に良いガタイしてるなぁと納得。
そして、「帰りも同じようにゆっくりと石の上を進めば大丈夫だ」と言われ、
着いて早々に帰り道が不安。。。
とりあえず、川に降りる。
川の水は綺麗で、人も少なくて良い所だった。
2時間程経った頃、兄貴が帰り支度をし始めた。
出来る事なら、兄貴と同じタイミングで下山したかったが、
(最悪引っ張ってもらえるように)
そんなヘタレな事も言ってられないので、手を振って挨拶をした。
しばらく川を満喫して、僕らも下山する事に。
帰りのゴツゴツ道が心配で心の底から川を楽しめたんだかどうか分からない。
取り敢えず、出発。
何となーく分かってたんだけど、行きの時は若干下り坂になってたんだよね。
僕の予想が正しければ、帰りは若干の上り坂になっているはず。(当たり前だろ!)
何となく登りでハマっちゃった方が抜け出しにくい気がする事と、
兄貴(引っ張ってくれる人、責任とってくれる人)が居ない事で、
緊張は帰りの方が5割り増し。
格闘家がリングサイドにコーチの居ない状態で試合に臨む感覚に近いだろう。(知らないけど)
そして早速、先程の"最難関"が現れた。
先程、タイヤが石から落ちちゃった所という事に加え、若干の上り坂という事で
緊張のせいか、またタイヤが石から落ちた。
すると、すかさず嫁ちゃんが「私が前から見て誘導しようか?」と言ってきた。
普段、そんな事絶対言わないのに。
僕が余程、悲壮感漂う顔をしていたか、はたまた透明になりかけて居たのかもしれない。
嫁ちゃんの誘導で、無事"最難関"を越える事が出来た。
が、自分がそんなに運転下手だったのかなぁとちょっと凹む。
残りのゴツゴツ上り坂をゆっくり進んでいる最中に、
嫁ちゃんが急に話し出した。
「さっきの人コーチだったって言ってたじゃん。選手に今のレベルよりもちょっと難しい事に挑戦させて、その課題をクリアする事で成長させるんだよ。だから私達にもちょっと難しいけど不可能では無い課題を与えたんじゃない?」
僕は緊張の為「こんな時にふざけてんじゃねぇ」と思いつつも、
なるほどなと思った。
コーチという職業柄、難しい物に挑戦させて成長させる。その癖が、たまたま道を聞いた僕にも出ちゃったんだろうなと。
じゃなきゃ、見ず知らずの外人にそんなギリギリの挑戦させないだろう。。。
とりあえず"アントニオ・ボドリゴ・ノゲイラのコーチをしていた人にコーチをしてもらったという事は、言ってしまえばノゲイラは僕の兄弟子って事になるな"とか、くだらない事を考えながら進んだ。
程なく舗装された道まで戻ってこれた。
もう、この道をこの車で行く事はないだろうけど、
車を手前に止めてならまた来ても良いなと思える場所だった。
緊張から解放された僕が空を見上げると、「ブラーボーだ!」と言いながら
微笑む兄貴の顔が浮かんで見えた。