MMAファイターは水抜き終了から1日経っても体水分バランスや身体パフォーマンスは完全回復していない

2022年3月21日

はじめに

以前、総合格闘技(Mixed Martial Marts: MMA)のプロ選手(MMAファイター)を対象としたケーススタディを紹介しました。


このケーススタディによると、対象者は計量直前の約1日で急速減量(水抜き)によって体重を7.3kg落とした結果、身体機能に著しい影響(過度な脱水、ストレスホルモンの顕著な増加、腎機能の低下)が生じていました。

今回は、12名のアマチュアMMAファイターを対象として、急速減量の10日前、計量時、試合直前(計量の約24時間後)に体重、握力、尿比重を測定した論文を紹介します。

尿比重とは、尿中に溶けている全溶質の含有量を示す指標です。
尿比重は食事・水分の摂取状況、運動トレーニング、発汗など多くの要因の影響を受けますが、スポーツ科学では脱水の程度を評価する目的で活用されています。

論文概要

出典

Alves, R. C., Alves Bueno, J. C., Borges, T. O., Zourdos, M. C., de Souza Junior, T. P., & Aoki, M. S. (2018). Physiological Function Is Not Fully Regained Within 24 Hours of Rapid Weight Loss in Mixed Martial Artists. Journal of Exercise Physiology Online, 21(5).

※数値は平均値
方法
12名の男性アマチュアMMAファイターを対象(年齢:20.1歳、体重:70.4kg、身長:174.2cm、トレーニング経験:4年)

ベースライン(計量の10日前)、計量直前、試合直前の3回のタイミングで下記項目を測定
・体重
・握力
・尿比重(1.000-1.020を体水分正常状態、1.021-1.029を脱水状態、1.030以上を顕著な脱水状態とした)

結果
・ベースライン・計量直前・試合直前の測定結果
体重:73.8kg→66.5kg→71.1kg(ベースライン>試合直前>計量直前)
握力:51.7kgf→47.8kgf→49.3kgf(ベースライン>計量直前・試合直前)
尿比重:978.6g/ml→1018.8g/ml→1019.2g/ml(ベースライン<計量直前・試合直前)

・尿比重の分類結果
ベースライン:12名が体水分正常状態
計量直前:9名が脱水状態、3名が顕著な脱水状態
試合直前:2名が体水分正常状態、5名が脱水状態、5名が顕著な脱水状態

解説

この論文は、アマチュアMMAファイターを対象として、計量10日前・計量直前・試合直前に体重、握力、尿比重を測定しました。

主な結果は下記のとおりです。
1) 体重は、10日間で7.3kg減少
2) 体重は、試合直前までにある程度戻ったのにも関わらず(4.6kg)、尿比重からみると80%以上が脱水状態
3) 握力は、計量直前のみならず試合直前でも低下

1) 体重は、10日間で7.3kg減少についてです。
水抜きの実施方法が自由であった上、水抜き直前に体重計測を行っていないため、どれだけ水抜きによるものなのかは分かりません。
しかし、以前に紹介したケーススタディによると、計量10日前の時点でカロリー制限や運動トレーニングによる体重(体脂肪)減少がかなり進行していたことを踏まえると、7.3kgのうち大部分が水抜きによるものだと推察できます。

2) 体重は、試合直前までにある程度戻ったにも関わらず(4.6kg)、尿比重からみると80%以上が脱水状態についてです。
論文の著者らは、運動による体水分変化を検証した先行研究のエビデンスなどをもとに、体水分の恒常性が完全回復するには24時間では不十分であり、48時間はかかる可能性を指摘していました。

3) 握力は、計量直前のみならず試合直前でも低下についてです。
MMAの勝敗を左右する要因は多岐にわたるため、一指標でパフォーマンスを評価することは困難です。
しかし、握力は組力を少なからず評価できる上、簡便性に優れています。
この結果は、急速減量によって身体パフォーマンスが一時的に低下し、それは試合直前でも回復していないことを示唆しています。

この論文はコントロール群がないこと、急速減量の方法が統一されていないこと、測定項目が限られているといった研究上の限界があります。

まとめ

多くのアマチュアMMAファイターは急速減量(水抜き)を実施し、試合直前でも身体は完全回復していない