レトロな話

歯医者に行った。

虫歯の治療ではなく、
歯のクリーニングが目的で。

行きつけの歯医者では、可愛らしい若い女性歯科衛生士が薄汚れたおっさんであるところの自分(腐れ中年)の激しく汚い口の中をキレイにしてくれるからとてもありがたい。

まったくもって感謝の念に堪えない。
ありがとうございます。

そんなことを思いながら始まった歯のクリーニング。

椅子を倒され目隠しをされ、
唇にねっとりとリップクリームを塗られた。

そう、ここの歯医者では唇の乾燥を防ぐためにリップクリームを塗られる。

不自由な体勢を取らせたあとに視覚を失わせ、敏感になっている触覚を刺激するテクニックはさすがにプロだと思う。

研ぎ澄まされた神経は唇に集中しているから指の感触もその動きも余すことなく感じ取ることができる。

そのせいか、つい声が出そうになる。
もしくは手を上げそうになる。

いやそれは痛いときの合図だ。
今はまだ早い。
待て。

まるで「あおずけ」を言いつけられた犬のようだ。

とはいえ犬が「はぁはぁ」と息を荒げながら口を開け、舌を出すことで体温調整をしているのに比べ、自分はただ彼女からの施しを受けるためだけに口を開け、はぁはぁと息を荒げているんだから犬以下かもしれない。

そうして先ほどのリップクリームが塗られた唇にまだ濃厚な指の感触が余韻として残っているところに歯科衛生士の甘い香水のニオイが漂ってきた。

どうやら次は嗅覚を攻める作戦らしい。

んはぁ・・・

と官能的な香りに溜め息混じりの声を心の中で漏らしたところで、彼女から「それでは失礼しますね」という言葉が発せられた。

クリーニングの開始だ。

そうして「失礼しますね」の言葉通り、彼女は普通であれば無礼なほどに無遠慮で大胆に、けれどゆっくりと口の中に指を挿れてきた。

クリーニングが進むにつれて作業は口の奥の、より闇の方へと進んでいき、それにともない彼女は身を乗り出すようになり、そのせいで彼女の胸が頭に何度か触れたからこちらの下半身の闇がうずき始めてしまった。

これもプロのテクニックだろうか・・・。

三本目の手が勝手に上げりそうになる。

口の中では彼女の指が敏感な口腔内の粘膜を刺激し続けている。身動きのできない自分は為す術もなく、ただされるがままになっている。

すると突然、まるで嫌がらせのように、もしくは何かのプレイのように、どこにも舌を押さえてもらえないという状況に追いやられた。

宙に浮いてしまった舌は行き場を失い・・・

気づいた時には舌を『レロレロ』としてしまっていた。

レロレロ・・・と。

そんなレとロな話。

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