とある講師のホンネ

フリーの講師。国・数・英・理を指導中。東大卒。現在は家庭教師中心ですが、大人の文章教室なども開いています。

「アオアシ」の名言(1)~「自分で見つけた答えなら忘れないだろ?」

ビッグコミックスピリッツ連載中の「アオアシ」、初回から大好きです。

コーチとしても、非常に学ぶところが大きい作品でもあります。

いままで、ありそうでなかったスポーツ漫画だと思います。

それは「もって生まれた『センス』を明言化できなければ、一定以上はうまくならない=プロにはなれない」という部分が、非常に新しいと感じるからです。

これ、そのまま勉強にあてはまります。

 

だいたい小4くらいまではもって生まれた「センス」でなんとかなります。

場合によっては、中学くらいまでは「センスという貯金」で人より先んじることができます。でも、これまたさんざん書いてきたことですが、大学受験はたまた社会に出てからは、「それまでどうやって生きてきたか=努力の質と量」勝負になります。センス頼みでやってきた子は、その壁にぶちあたったときの挫折が半端ないです。

 

アオアシ」の主人公・青井葦人(アシト)は、まさにそういうサッカー選手です。

たぐいまれな「視野」を持ち、そのセンスを見込まれて愛媛から東京のエスペリオンというリーグチームの養成メンバーにスカウト(セレクションを突破したうえで、ですが)され入ることになるのですが、なにしろ田舎でセンス頼み・自己中サッカーをしていたゆえに手痛い「洗礼」を受けるわけです。基本技術が全然できていないうえに、自分が「見える」ことを明言化できない。そのため最初はチームメイトともかなりギクシャクします。

でも、破天荒だけど憎めないアシトに徐々にアドバイスしてくれる仲間もでてきます。

中でも、富樫というチームメイトがアシトの個人練習に付き合う回は、勉強のコーチとしても膝を打ちました。

なかなか具体的な「こうしろ」を言わない富樫にアシトがしびれを切らしますが、その中でタイトルにも書いた

「自分で見つけた答えなら忘れないだろ?」

が出てくるわけです(正確には、富樫の回想シーンであり、これを言ったのは福田コーチですが)。

また、この練習を通じてアシトは

すべての基本動作には意味がある

と悟ります。

「自分でもなぜかわからないけどできてしまう」で終わりにせず、「言葉にしよう」と切り替えられたアシトはさすがだと思いますし、そう気づかせた福田コーチはすごい。

 

この回を先日アニメで見て、大いに考えさせられました。

私はここでも再々「簡単に答えを教えるコーチはダメコーチ」と言っております。

 

mikoto2020.hatenablog.com

 

今現在勉強が苦手な子というのは「とことん考え抜く」ことが苦手なわけです。

考えるのを投げだして「わからない」と言えば大人が解法を教えてくれる、そんな「作業のような勉強」に慣れてしまっています。

だからギリギリまで考えさせなければいけない(その「ギリギリ」を見極めるのがコーチの力量でもあります。どうやっても解けない問題をひたすら考えさせるのも無意味ですので)。

ですから、「自分で見つけた答えなら忘れないだろ?」には我が意を得たりと膝を打ったわけです。

 

しかし、その次の「すべての基本動作には意味がある」と子供が真に理解するまできちっとやらせていたか?と問われると自信がありません。

たとえば、何十ぺん言っても「3.14を最後にまとめてかける」ことができない子に、「それをやるまで先には進まない」という、スポーツのコーチングなら当たり前のことができていたか?というと、正直できていません。

それには、いくつか理由があります。

数学にはいくらでも別解があり、別解をたくさん考えることこそ思考の柔軟さや俯瞰能力にかかわってきます。あるやり方を強制すると思考停止する生徒も多いので、そこは二の足を踏んでいました。

また、学業の指導において、やはり親御さんは「到達度=スピード」を重視されます。

私の場合、最初のミーティングで徹底した基礎重視と「お作法」重視、それによる塾や学校の進度とのギャップもご理解いただいてはおりますが、やはり限度があります。

0.75をかけるときに4分の3倍と「考えられない」、98をひくときに100を引いて2を足すと「考えられない」ことは、単に計算が遅い以上の深刻な意味(数量のイメージができていないという根本的な問題)があります。

アシトが「パスをきちっと『止める』ことは、次にパスを出すために必要だったんだ」と気づくまで「止める練習」だけをさせられたように、基礎こそ「できるまで応用には進ませない」という覚悟がもしかしたらコーチ側にも必要なのかもしれません。

この問題は、いつまでも答えの出ない悩ましい問題のような気もしています。

 

最後に、私信です。

過去記事にコメントをいただいていたのですが、個人情報に準ずる部分があるように感じましたので、念のため元コメントを承認せずにご返事だけ書かせていただきました。私の考えすぎだったら申し訳ありません(汗)。いつもコメントや応援ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m