今日はずいぶん前に書こうと思っていたネタを処理します。
韓国語版の『スラムダンク』。
これについては、以前2回にわたって書いた。
1回目は、『スラムダンク』の韓国語訳が海賊版時代の流れを汲んでいるのではないか、という僕の意見。
2回目は、『スラムダンク』の登場人物や学校名が韓国語風に変わっている点について書いた。
で、2回目の最後に……
そのカン・ベッコ、実は本家の桜木とは性格がやや違う(ように見える)。
同じ漫画、同じストーリー、同じキャラのはずなのに、どうしてそんなことになってしまったのだろうか。
そのお話はまた次回。
と結んでから5か月もたってしまった。
忘れてたんじゃないんですが、ちょっと書くのがめんどくさくなってたんですね。
というわけで、今日はそのお話。
桜木花道といえば、先生や先輩といった目上の人には「タメ口」で話す。
なのに、晴子と彩子などの女性キャラに対しては、なぜか「丁寧語」で話す。
というキャラ設定である。
この設定は、「桜木」というキャラを立たせるために非常に重要な設定の一つだと思う。
例えば、下ようなの例だと……
「なんでオレがスタメンじゃねーんだ!!」
「どーゆーことだこりゃあ!!」
と、顧問の安西先生に対しても完全に「タメ口」で話している。
この遠慮のなさが「桜木」の持ち味である。
この全く同じ場面において、韓国版では下のように翻訳されている。
「어째서 내가 스타팅 멤버가 아니란 말예요?!(どうして俺がスターティングメンバ―じゃないんですか?!」
「어떻게 된 거에요!!(どうなってるんですか!!)」
…………
「丁寧語」になってる……。
これは正確には韓国語の「チョンデンマル(존댓말/尊大말)」。
日本語で言えば「丁寧語」にあたるが、やはり使い方がやや違うらしい。
下も同じような例ですが……
ちょっと画像が悪いですが、「オレは今なんだよ」と、やはり安西先生にタメ口をきく桜木。
背中を痛めた桜木が意地をはって交代を拒否するという、非常に印象的な場面なのだが……
「난 지금입니다!!(俺は今なんです!!)」
……やはり「チョンデンマル」になっている。
これを日本語の「丁寧語」で考えると、やはりかなりの違和感がある。
でも、韓国で高校生の桜木が初老の安西先生に向かって「タメ口」をきくのはNGだったようだ。
ここら辺は、感覚がどうしてもちょっと違う。
こんなの桜木じゃないんだけどなぁ、と思ってしまう。
逆に晴子に対しては「パンマル(반말/タメ口)」で話している。
下の部分の真ん中で桜木が話しているセリフ。
「그, 그러니까, 소연이의 남... 남자 친구이지... 않니...??(だ、だから、ソヨンのか…彼氏じゃ…ないの…??」(※「ソヨン」=「晴子」)
この場面、日本語の原文は覚えてないけれども、桜木は絶対に「丁寧語」で話しているはずである。
「だ、だから…晴子さんの…彼氏じゃないんですか…?」みたいな。
目上の人にものすごく失礼なのに、晴子や彩子には妙に礼儀ただしいというのが、桜木というキャラのおもしろみの一つなのだが、
韓国語版においては、そんな「おもしろみ」は完璧に無視されている。
やっぱり、韓国社会は日本社会よりも「上下関係」という建前・形式が強く息づいているということなのだろうか。
それを無視して桜木式に「タメ口」を乱用したり、妙なところで「丁寧語」を使ったりしてはいけないのだろうか。
たぶん、そうなのだろう。
それをやってしまうと、韓国人読者にとっては「おもしろみ」よりも「違和感」が先に立ってしまうのだろう、と僕は予測する。
「チョンデンマル」は「丁寧語」と完全に一致するのではない。
同じく、「パンマル(반말/半말)」=「タメ口」というわけでもない。
基本的には同じ機能を果たしているのだけれども、具体的な使い方や場面は微妙に食い違っている。
この「食い違い」は、日本語と韓国語の言語的な違いだけではなく、生活や人間関係といった文化の違いも反映しているのだと思う。
桜木花道のセリフの違和感は、そんな日韓文化の微妙な食い違いを如実に表している。
もしかして、翻訳機やAIがなかなか手の届かない部分って、こういうところなんじゃないか。
そして、それこそが外国語を学んだり、異文化交流する上での醍醐味の一つなのではないか。
などと、漫画を読みながら大げさなところまで考えてみる。
(終わります)
※ 次は水曜日に更新します
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