伊坂幸太郎「火星に住むつもりかい?」あらすじ・感想

火星に住むつもりかい?

伊坂幸太郎さんの長編小説「火星に住むつもりかい?」。

もしも正義と信じているものが正義じゃなかったら。

人には絶対に話せない、正義の裏に隠れた悪と立ち向かう人がいました。



あらすじ

危険人物を、犯罪を犯す前に捕まえることができる国の制度「平和警察」。

「安全地区」に指定されると、その地区の住人が周りにいる危険人物を密告し、「平和警察」が取り締まる。

取り調べにより危険人物とみなされたものは大衆の前で処刑される。

犯罪を未然に防ぐことができるため犯罪件数が減り、平和になる。

はずだった。

 

住民に知らされることのない、「平和警察」の拷問による取り調べ。

一度捕まったら最後。やっていない罪でも認めざるを得ない状況。

残虐さを楽しむ嗜好を秘めた警察官たち。

「平和警察」の実情は、一般市民たちの信じる正義とはかけ離れている制度だった。

 

警察に都合の悪い人物や、警察の犯罪を隠蔽する目的で捕まえられ処刑される人々。

危険人物と信じ、処刑される様子を見に集まる人々。

もしも自分だけが偶然そのことに気づいてしまったら…

 

感想

大衆の中に潜むのは、恐怖に隠された興奮。

警察を正義と信じて疑わない人々は、最初は処刑を残酷だと思っても、次第に危険事物が処刑されることを喜び興奮すらおぼえるようになります。

例えそれが自分の身近にいた人の好い人物だとしても。

「いい人に見えたけれど悪い面を隠していたんだね」と納得し、警察側を疑うことはあまりありません。

この物語の中には色々恐怖が出てきますが、そういう盲目さ、鈍感さが持つ恐怖が特にずーんときました。

自分が知っている情報は本物だと信じて疑わない恐怖。

まるで現代社会の抱える闇みたいじゃないですか。

さらに嘘の情報、嘘の密告、警察の嘘。

そもそも平和ってなんだろう、何が目的で始まった制度なんだろう、何故本当の悪い奴が捕まらないでいい人たちが捕まるんだろう。

読んでいるうちに持つ疑問が正しいことを願って読み進めました。

 

平和警察による拷問シーンなどかなりむごいシーンもあります。

「平和警察」の警察官に選ばれるのが、残虐さを楽しむ嗜好を秘めた人物というところも怖い。

でも普通に暮らしている普通の人は、警察が悪だなんて想像しないですよね。

そんな平和な普通の人がなんと、ある日突然「平和警察」に連行されて行きます。

そして二度と帰ってこられません。

 

ところが!

そんな不条理な世の中に立ち向かう、ヒーロー(ダークヒーローか?)が現れます。

ああどうか、この人を助けて…という場面に出てくるヒーローなのですが、すべての冤罪や犯罪の場面に出てくるわけではありません。

そりゃそうですよね。

一人で全員救うのは無理があります。

それでも自分の決めたルールの中で立ち向かうヒーローはカッコイイ存在でした。

だけど本人は「人を助けるという口実で本当はただ悲しみを紛らわすために戦っているのではないか。人を助けることで犠牲者を出してしまった」と罪の意識に苦しみます。

多分その苦しみは人生が続く限り続いてしまう。

難しいですね。

人を助けるためなら何をしてもいいわけではないけれど、一人で大勢に立ち向かうにはそうなってしまうこともある。

上手くいかないことばかり。つらい。すべて捨ててしまいたい。

それでも望みを捨てない人が、世界のバランスを整えてくれていました。

 

他にも警察のやっていることに疑問を持ち、密かに少し世の中を変えようと身を張って動く人もいます。

本の中のセリフで「世の中が全部良くなることはないけれど、バランスが崩れたらもう片方の方に戻す、その繰り返しで世の中はできている」みたいなところがあるのですが、それを話した人物が私は特に好きでした。

確かにそう思っていれば、過度な期待も過度な落胆もなく、平常心を持ちやすいのかもしれませんね。

右へ行きすぎたら左へ戻す。

進み過ぎたらブレーキを踏む。

バランスを整えながら生きていこう。

 

今回もやはり最後が最高でした。

明るい話ではないけれど、今読む必要があって読んだような気がします。

本に導かれたような。

面白かったです!

 

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