どんこのアル中 日記

名古屋在住の【年金生活者】。方丈記&徒然草。

好きな 10回でも見たい邦画10選

はてなブログ10周年特別お題「好きな邦画10選」


ほう、邦画ですか・・・。


1. 小津安二郎秋日和
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【小津晴れ】。俺のオリジナルの造語である。秋の晴れ渡った青空を意味する。出自は、この【秋日和】である。小津の映画には、シーンの切り替わりに、青空がよく出てくる。【秋日和】を見ながら、この青空は小津映画の味わい。よし【小津晴れ】として、世間に広めよう。
小津と言えば、【東京物語】が世間一般の評価だが、俺にとっては【秋日和】がベストワン。【秋日和】は、世間一般には、母と娘のふれあいを描いた感動の名作と思われている。ラストシーンの「原節子」の微笑みは、印象的である。しかし、俺の解釈は違う。アルコール依存症の三人の不良老人、「佐分利信」「中村伸郎」「北竜二」による、エスプリあふれる群像喜劇!と言ったところか。アルコール依存症の三人不良老人は、次作の【秋刀魚の味】でも再登場。昼からビールは飲むし、夜は日本酒、ウィスキーとなんでもあり。当時すでにアルコール依存症だった小津は、この設定が余程お気に入りだったのだろう。【秋刀魚の味】では、佐分利信笠智衆が入れ替わっているが、三人のトーンは、同じだ。会話のやり取りが面白い。小津作品の中では、めずらしい。異色の光を放つ。願わくば、この三人だけの作品を見たかった。
原節子」は、もう、おばさんである。「司葉子」が美しく、上品である。「岡田茉莉子」は、とっても可愛いい、ファッションもイケている。そして、「佐田啓二」。相変わらずのカッコマンである。「司葉子」と「佐田啓二」が、二人でラーメンを啜るシーンは、何回見ても、微笑ましい。ずっと見ていたい。
次作の遺作【秋刀魚の味】では、【秋日和】の微笑む「原節子」は、寂しい「笠智衆」に変わる。【秋日和】がポジなら、【秋刀魚の味】はネガ。【秋日和】と【秋刀魚の味】は、姉妹関係だ。それを結ぶ絆が、「小津晴れ」である。【秋日和】は、人間性を調べるリトマス試験紙。この映画を退屈と思う人(結構多い)は、つまらない人間だ。面白いと思う人は、イケている人間だ。俺だ!
キネマ旬報ベストテン第5位、玄人受けはいまいちであったが、配給収入 は1億4500万円 。その年の松竹映画ではトップだから、興行的には成功した。


2. 瀬々敬久【64(ロクヨン)】
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わずか7日間で幕を閉じた昭和64年(1989年)に、起こった少女の誘拐殺人事件を描いた、横山秀夫の小説を原作にしている。同時期に映画版とテレビ版を見ているので、両方が頭の中でごちゃ混ぜになっている。映画は、主人公が佐藤浩市、TVはピエール瀧である。それ以外は、被害者の父親役が、永瀬正敏段田安則という違いしか記憶にない。TV版が2015年放映、映画版が2016年封切り。なんとも罪な話だ。邦画とは言え、TV版のことを書いているかもしれない。その点、ご容赦あれ。しかし、TVが先とはめずらしい。普通は、映画➡TVという順である。まぁ、そんなことはどうでもいい。
誘拐の脅迫電話により犯人の声を唯一知っていた被害者の父が、犯人が県内の人間であると検討をつけ、事件当時の電話帳に掲載された58万世帯の電話に対して、公衆電話から、「あ」行から順番に総当たりで無言電話をかけつづけ、ついに犯人の声を聴く。これは原作の力だが、公衆電話から電話をかけ続ける被害者の父の姿、かけ続けたために擦り減ってしまった電話の番号ボタンのシークエンスは、心震える。昭和は、63年で終わっているが、64年もあったという事実が、昭和人の俺の胸を刺す。「犯人は、まだ昭和にいる。」は、秀悦なキャッチコピーだ。
ちなみに、瀬々敬久の最新作【糸】で共演した二人が結婚した。まぁ、どうでもいいか、そんなこと。


3. 川島 雄三【洲崎パラダイス赤信号】
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超ポジティブな【新珠三千代】と、どうしょうもないネガティブ【三好達也】の腐れ縁の二人の組み合わせが絶妙。二人の所持金60円。特に三好の駄目さ加減は、底なしで愛おしい。己の姿を見ているのかもしれない。新珠は、すんなり居酒屋に雇われる。グダグダ三好は、なんとか、蕎麦屋の出前持ちになる。その蕎麦屋の店名が、だまされたと思って食べてごらん、絶対に美味しいからで、「だまされ屋」。クーッ俺はこういう細部に弱い。「だまされ屋」で、蕎麦を喰い、「嗚呼、だまされた!」と叫びたいぜ!
一緒にいると駄目になってしまう、でも離れられない。男と女の機微が凝縮された、橋の上のラストシーン。子どもが落としたチャンバラの刀が、所在なく流れていく。それは、二人を象徴しているのか。川面をぼんやり眺めている二人。
「これから、どこへ行く」
「どこへ行こうか」
「あんた方から、先行ってよ。あんたの行くとこ、ついていくから」
「そうか・・・じゃ、行こう」と男は女の手を引き、バスに乗る。
どうしょうもない。どうにもならない、新珠と三好。ただ、これからも二人で生きていく。カメラは二人を乗せたバスを追い、クレーンアップして、その先に続く街並みを映し、【終】。


4. 野村芳太郎砂の器
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監督の野村芳太郎には、悪いが、これは脚本家【橋本忍】の作品である。映画のクライマックス、「捜査会議」「コンサートの演奏」「過去の回想」三つのシーンが、テーマ曲【宿命】にのせて展開していく。これは「人形浄瑠璃」からの発想、渋すぎるぜ!特に「過去の回想シーン」は、確実に日本映画史に残る。ハンセン病で故郷を追われた、父と子が日本全国を流浪する。各地で迫害にあいながら、美しい四季の中を放浪する。自炊をする生活。石を投げられ、いじめられる。小学校を恨めしそうに見下ろす。命がけで父を助けた子どもが額から血を流す。等々が丁寧に描写されていく。セリフは一切なし。根性なしの野村芳太郎は、セリフなしの映像に不安を覚え、「セリフ有り」も試みるが、【橋本忍】がそれを許さなかった。自らのスタッフで撮影した膨大なフィルムを、自らの手で約10分間の映像にまとめる。だから、この映画は【橋本忍】の作品。
原作者の松本清張曰く「小説では絶対に表現できない」、当たり前田のクラッカー!原作は、超音波発生装置による殺人トリック等、清張作品にしては、いまいちの感が拭えない。だから、この映画は【橋本忍】の作品。


5. 庵野秀明シン・ゴジラ
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俺は、【庵野秀明】ことをよく知らない。【エヴァンゲリオン】の作者ということは知っているが、【エヴァンゲリオン】の事をよく知らない。しみじみ見た経験がない。俺のアニメ体験は、【宇宙戦艦ヤマト】あたりで止まっている。もうすぐ64歳になる初老人としては、アニメの存在はそんなとこか。ただ、NHKのドキュメンタリーを見て、その才能の香りが、立つさまを感じた。
シン・ゴジラ】。そのタイトルを見た時、おゃっと思った。「シン・ゴジラ」か、「シン・ゴジラ」ねぇ~。これが「新ゴジラ」だったら、そのままスルーしたと思う。ハリウッド映画がゴジラ映画を何本も作ったが、その日本版と思い、食指も動かなかっだろう。俺は、(自分で言うのもなんだが)言葉の国の人間である。言葉に関する嗅覚は他の人よりは鋭い、気がする。【シン・ゴジラ】、そのタイトルのつけ方に、庵野の才能の匂いを嗅いだ。
シン・ゴジラ】は、あの庵野が監督をする!と前評判がすごくよかった。封切りされると、「今までのゴジラ映画とは全然違う」と、その評判は、うなぎパイならぬ、うなぎ上り。少し、胸騒ぎがした。ハリウッド映画の日本版ではないということか。すでに見て来た、無口のご子息も、よかったと賜った。胸がぐるぐるしてきた。どこかのアホが、「こんなの、ゴジラ映画とは認めない」と叫んだ。もう、胸騒ぎの放課後!
まさしく従来のゴジラ映画ではない。というか、怪獣映画ではない。自然災害対策映画だ!と直感した。自然災害を前にした人間の無力さ、それをなんとかしょうとする人間の力強さを描いた映画だ。
なんという庵野の才能。今なお残る日本人の3.11への不安を見事にすくい上げた。日本の、日本人しか作りえないゴジラ映画。それは、放射能におびえる日本人を体現化した、初代のゴジラ映画の再現。温故知新。
なんという庵野の才能。面倒くさいことは、すべて他人に任せて、「総監督」として、おいしいところは、すべて独り占め。いいんだ天才は。それも才能のひとつだ。・・・だからといって、【エヴァンゲリオン】を見る気にはなれないけどね。


6. 是枝裕和海街diary
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樹木希林】【大竹しのぶ】【風吹ジュン】【綾瀬はるか】【長澤まさみ】【夏帆】、そして【広瀬すず】。日本の各世代を代表する女優による、バチバチの演技対決の映画。最終的には、一番演技未熟の【広瀬すず】の映画なんだけど。
幻の光】【誰も知らない】【そして父になる】【三度目の殺人】【万引き家族】、是枝の映画は、傑作のオンパレードだ。しかし、みんな暗い。俺は、暗い映画は嫌いだ。♪~こっちまでブルーになるの(BYユーミン)。しかし【海街diary】は、明るい。広瀬の魅力もあり、底抜けに明るい。自転車で桜並木を通り抜けるシーンは、ヒーリングである。
原作者【吉田秋生】曰く「是枝【海街diary】を拝見しました。幸福な時間だった。そしてなんかちょっぴり、くやしかった(笑い)」 (笑い)って、最大限の賛辞じゃないか、よかったなぁ~、是枝!なんか偉そうか、是枝は、今は無き早稲田大学第一文学部の後輩じゃ、文句あるか。


7. 北野武ソナチネ
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「自分の最後の作品にしようと思って、好きなもん撮ってやろうって作った作品」と自ら語るように、一番【北野武】らしい作品。
【緊張感】が、この映画を支配する。特に印象的なのが、役者【ビートたけし】を含めた三人でが砂浜でジャンケンして銃を撃つ、ロシアンルーレットの場面。静謐。美しい海と砂浜を背景に、無邪気な遊びのように行われる、死へのゲーム。たけしは、本当に二人を殺すのではないかという死への予感、ヒリヒリとした【緊張感】に襲われる。されど、静謐。この対称的な組み合わせは、まさに【北野武】ならでの世界だ。
【緊張感】の次に来るのが、【衝撃】。エレベーターの中、突如として始まる銃撃戦。近距離で銃を打ち合う、その迫真。唐突に表現される、その迫真。銃の本場であるアメリカのハリウッド映画の銃撃戦にはない、【衝撃】が見る者を撃つ。銃撃戦が直接描かれない場面でも、その【衝撃】の影を引きずり、ピリッとした【緊張感】が、終始一貫、貫かれている。
「自分の最後の作品にしようと思って」と語ったように、北野ワールド全開。冒頭のナポレオンフィッシュが銛に串刺しされた映像は、その宣言である。だだし「好きなもん撮ってやろうって作った作品」は、興業的には振るわなかった。まぁ当然の結果ではある。その痛恨は、後の【アウトレイジ】シリーズのヒットにつながる。
ちなみに、宣伝のキャッチコピーは「凶暴な男、ここに眠る。」今市。


8. 伊丹十三タンポポ
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この映画は、「ラーメンウエスタン」と称した、売れないラーメン屋を立て直す物語。でも、それはメインストーリー。俺が好きなのは唐突に挿入されるサブストーリーの数々。

◎「マナーお勉強会」で、先生が仰々しく、巻いたパスタをスプーンに乗せて、音を立てずに食べる練習をしている。その脇で、豪快に音を立ててパスタを食べる外国人の太った男。それを見た生徒が音を立てて食べる。そして先生も・・・。

◎高級フレンチに行った重役連中が、慇懃なウェイターが注文を取りに行った際、メニューのフランス語が読めず、「舌平目のムニエル」を右で倣えで頼んだ際に、一番下っ端の男がワインの銘柄も確かめながら、次々に注文をしていく。

◎子どもがホームレスたちに連れられて、夜中の洋食店に忍び込む。ホームレスが、手際よくオムライスを作る。

◎スーパーに忍び込んで、桃、カマンベールチーズetc.に次々に親指でグチャグチャにする老婆とスーパーの店長の深夜の追いかけっこ。

◎歯痛の男と、歯医者と二人の色気たっぷりの女性助手。男は治療後、「無添加植物で育てています」と書かれた段ボール紙を首から下げる幼子に、アイスクリームを与える。

◎「東北大学名誉教授」の肩書を基に詐欺を重ねる初老の男が、刑事に捕まった際に、「もう一口だけ」と、未練がましく北京ダックを口にする。

◎妻が瀕死の状態になり、医師が看取ろうとする時、子供たちの前で、「母ちゃん、死ぬな!そうだ、飯を作れ」と言う夫に対し、幽霊のような妻がフラフラと起き出し、中華鍋で炒飯を作る。「できたよ」と中華鍋のまま、テーブルに置く妻。子供達に「食え!」と言う男の脇で、医者が「ご臨終です」。
 
他に、オフホワイトの三つ揃えのスーツと粋な帽子を被った男と愛人のサブストーリーがあるが、長くなったので省略!


9. 黒澤明【用心棒】
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黒澤明と言えば、おしなべて【七人の侍】であるが、俺はエンターテイメントに徹した【用心棒】の方が好きだ。娯楽映画だが、その年のキネ旬ベストテン2位。脚本の面白さも秀悦だが、主人公のキャラクターも、無精ヒゲに薄汚い着物、相手が悪人とはいえ、騙したり、腕を叩き落したり、殺される所を平然と見ていたり、それまでのチャンバラ・ヒーロー像のイメージを打ち破った。その後、マカロニ・ウエスタン【荒野の用心棒】に完全パクられ、マカロニ・ウエスタン世界的ブームの火付け役となる。ちなみに、【七人の侍】も、【荒野の七人】に完全にパクられる。今じゃ、考えられないことだ!


10. 宮崎駿千と千尋の神隠し
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俺は、この【千と千尋の神隠し】を「映画館」で三回見ている。DVDや動画配信サービスではない。「映画館」で!1回目は家族みんなで見に行った。しばらくすると、まだ幼子であった娘が、もう一回見たいという。子どもの純真な気持ちに応えないのも、親としては、如何なものかと思い、娘と二人で二回目を見に行った。しばらして、また見たいという。さすがに、もう勘弁してくれという感じであったが、配偶者が見に行かせるということになった。さすがに女二人で行かせるのも、夫として、父親として、どないやねんという感じで、3回目をつきあった。やれやれ。その後しばらくしてDVDが発売になる。俺は生涯で初めて「予約」して、そのDVDを購入した。



つぎは、「海外産映画10選」といくか・・・。