今年の2月24日、5回目の放射線治療が終わった後のことでした。私は、放射線科部長のS先生に呼ばれ、診察室に入りました。先生のデスクの上のPCには、CT画像が二つ並んでいました。
S先生「・・・手術直前と、2月12日に撮ったCT画像を比較していたんだけど・・・」
私はドキリとしました。先にも書いていたように、私は手術後、全くCT検査を受けていませんでした。私が拒んだのではなく、乳腺外科の先生の指示に従って、「ポート埋め込み」「抗がん剤治療」「ポート抜去」に進んでいたんです。何度か「他に転移がないか、検査しなくてもいいんですか?」と尋ねましたが、どの先生も「その必要はないです」と答えました。
S先生「この2つの画像・・・ここの部分、解る?」
私「・・・何か白いのがありますね・・・」
・・・今だからこそ、こんな絵が描けるほど落ち着いているのですが、それを聞いた瞬間、私は耳を疑いました。
私「え・・・でも、抗がん剤治療したら、ガンはなくなるって・・・」
S先生「いや、抗がん剤治療は100%じゃないから」
私「だったら、途中でもっとCT検査してくれたらいいのに・・・」
S先生「この大きさだから初めて、CTに写ったんでしょう。乳腺外科と画像診断科にはもう連絡してあるから、この後、乳腺外科に行って。今日は手術日だからT先生じゃなく、部長のM先生が話をしてくれるから」
さすがに手際のいいS先生でした。でも、その時はそんなことを感じる余裕なんてありません。
私はトボトボと乳腺外科に向かいました。抗がん剤治療をやって、放射線治療をやって、あとはホルモン剤を10年間飲んでおけばいいんだ、と楽観的に信じていました。
でも、抗がん剤は100%じゃないんだ。
抗がん剤治療が終わった途端に、息を吹き返す場合もあるんだ。
CT画像に写り込むまでには、ガンが、ある程度大きく成長しなきゃいけないんだ・・・。
どれもこれも、私の想定外のことばかりでした。
乳腺外科で少し待っていると、名前が呼ばれました。診察室に入っていくと、優しそうな白髪頭の男の先生・部長のM先生がいらっしゃいました。
M先生「今、T先生は手術の最中だから、僕がCT(←今度はもっと精密なCTらしい)の予約とT先生の診察を入れておくからね」
私「あの、抗がん剤治療が終わったばかりで転移が見つかるって・・・こんなのあるんですか?」
M先生「悪性度が高い場合は、ありますね」
私「これからどうなるんですか? また抗がん剤治療をするんですか?」
M先生「まぁ、それも手段の一つですけど、あなたのガンはホルモン治療が有効だから、そちらが優先になるかも知れません。とにかく、次のCTの後に、乳腺外科と放射線科と画像診断科でカンファランスしますから、安心してください」
私「それなら、CTを早く撮ってください」
M先生「今すぐだと、12日との比較ができないから・・・3月19日にしましょう。それで、T先生の診察は22日で」
あと1ヶ月近く、こんな気持ちのまま過ごしていかなきゃいけないんだ。
抗がん剤をくぐり抜けるほど強いガンなのに。
次はもっともっと広がるかもしれないのに。
私は、初めてガンだと診断された時よりも、ショックでした。お医者様に対する不信感で心がいっぱいになりました。
S先生が見つけてくれなければ、どうなっていたんだろう、S先生ありがとうございます、と今だから思えますが、その時は、「なんでこんなの、見つけたのよ!」と勝手に憤っていました(反省)。
帰宅して、リモートワークしている弟に報告しました。かなり動揺している私に弟は、「今さらジタバタしても仕方ないやろ? とにかく、お医者さんに任せよう? 姉ちゃん、あんまりネットで色々調べんどきや」と冷静に言いました。
そうかも知れません。
確かにそれが正解なのかも。
でも、私は、その夜、徹底的に調べ尽くしました。そして、暗く落ち込みました。調べれば調べるほど、辛い事実ばかりが目に付くんです。
ああ、もしかしたら私は、母の最期を看取ってやることができないかもしれないんだ。
来年の春を迎えることができないかもしれないんだ。
そんなネガティブな考えで、頭の中がいっぱいになりました。
母には、そのことは話しませんでした。(今でも話していません)
弟は、翌朝、いつもより早く5時に家を出て、いくつもより多くの神社を回って、私の病気平癒を願ってきてくれていました・・・。(私がガンだと診断された時から、毎朝、彼は神社を参拝しています)