金次郎、エリザベス女王陛下を追悼する

英国のエリザベス女王が96歳で亡くなりました。国民への献身を誓い、70年間その誓いを守り続けてこられた、一国の君主として尊敬に値する存在であったと思います。気難しい印象も無いわけではないですが、実際はとてもチャーミングな方だったようで、長年護衛を務めたSPと共に別荘の近くを散策されていた時に、米国人旅行者のハイカーと遭遇した際のエピソードがネット記事で紹介されていました。普通にお互い挨拶を交わした後、米国人がこのあたりにお住まいですかと尋ねたところ、山の向こうの別荘に80年ほど通っていますと女王。それではこの辺にお住まいのエリザベス女王に会ったことが有るのでは、と米国人が全く気付かずに尋ねると、私は有りませんがこの人(護衛官)は有るようですよ、としれっと答える女王。女王はどんな方でしたかと問われた護衛官は如才無く、ユーモアのセンスたっぷりな方でした、と返答したとの由。この旅行者は事も有ろうに、記念に女王陛下に会ったことの有る護衛官との写真を撮ってくれ、とエリザベス女王自身に頼むというウルトラKYの展開になったそうで背筋が凍りますね(笑)。おばあちゃんもついでに、ということで女王も一緒に写真に納まり別れた後、護衛官に、おまけの写真に写っている自分が女王だとあの人たちが気付くところを見たくてたまらない、と仰ったとのことで、茶目っ気たっぷりで非常に可愛らしい一面だと感じました。

エリザベス女王は、歴史的にみて偉大な王に贈られる〈大王=The Great〉の称号にふさわしい存在とされているようですが、歴史上でもヨーロッパで大王や大帝と呼ばれているのはアレクサンダー大王やフリードリッヒ大王、カール大帝やイヴァン、ピョートル、エカテリーナのロシア皇帝など数える程しかいません。ブリテン島という意味では、太陽の沈まぬ帝国を統治したヴィクトリア女王でさえ大王とは呼ばれていない中、仮にそういう認識が定着すれば9世紀のウェセックス王であったアルフレッド大王以来史上2人目の〈エリザベス大王〉ということになり、征服者に与えられがちなこの称号を、君臨すれども統治せずでたいした権力を持たなかった彼女が平和への希求と国民への献身のみによって手にするというのは、なかなかいい話だなと思いました。女王にはチャールズ、アンドリュー、エドワード、アンという4人の子女、更に8人の孫と12人のひ孫がおり、日本の皇室とは違いなかなかの安定感で羨ましい限りです。チャールズ皇太子は即位してチャールズ3世となり、ウィリアム王子は皇太子としてコンウォル・ケンブリッジ侯を名乗ると同時にPrince of Walesの地位を新国王から与えられたとのことです。知りませんでしたが、この地位は王位継承順位1位に自動的に与えられるものではないとのこと。そして、新たにQueen Consort(王妃)となったカミラ夫人がこれまで遠慮して名乗っていなかったPrincess of Walesの称号がキャサリン妃に与えられ、ダイアナ妃以来久々に英国にこの肩書が登場することになります。ちなみに2位以降はジョージ王子(9歳)、シャーロット王女(7)、ルイ王子(3)とウィリアム家の子女が続き、その後は意外にもまだサセックス公であるハリー王子(37)とその子女のアーチー王子(3)、リリベット王女(1)と続いていきます。リリベットはエリザベスに因んで名づけられていると思うので、彼らの確執を考えるとなかなかに意味深なネーミングと感じました。

さて本の紹介です。「小説イタリア・ルネサンス」(塩野七生著 新潮社 1ヴェネツィア2フィレンツェ3ローマ4再び、ヴェネツィア)はヴェネツィア共和国の名門貴族であるマルコ・ダンデロの視点で、繁栄を誇った海の都ヴェネツイアを中心に諸勢力が入り乱れた16世紀ヨーロッパを描いた歴史小説です。「ローマ人の物語」を読破した身としては塩野先生はローマ愛・カエサル愛の人かと思い込んでおりましたが、ヴェネツィア愛も尋常でないぐらいのレベルであることがこのシリーズを読むとよく分かります。政治、経済、外交、文化、宗教から市民生活に至るまでストーリーの中でくまなく描写されるので、実際にこの時代のヴェネツィアに立っているような気分にさせられます。破竹の勢いで台頭するオスマン・トルコのスレイマン大帝(こちらも大帝ですね)と外交的に対峙する1巻から始まり、メディチ家中の争いに巻き込まれる2巻、ローマの歴史と法王庁の在り様に触れる3巻、レパントの海戦で海賊を仲間に引き入れたオスマン・トルコ(ワンピースの世界ですね)をどうにか退ける4巻と非常に充実した内容となっています。3巻では、塩野先生の出世作である「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」(同)の主役であるチェーザレ・ボルジアと関連する記載も多く塩野ファンにはたまらない一冊となっております。すぐに熱は冷めると思いますが、ヴェネツイアに滅茶苦茶行きたくなりました(笑)。

こちらは日本の歴史小説ですが、江戸時代の架空の藩である神山藩を舞台としたシリーズ作品である(と言っても登場人物や時代は重なっていませんが)「黛家の兄弟」(砂原浩太朗著 講談社)を読みました。家柄や血筋が藩政における地位を通じて統治システムと密接に関連しているが故に、整然とした形式美の中にいかんともし難い閉塞感が満ち満ちているこの時代に、家老の家の三男坊という微妙な立場に生まれた主人公が二人の兄と共に、多くを失いながらもそのシステムに抗い矜持を貫く姿を描く物語になっています。フィクションなので当然歴史的に名の有る人物でもなく、剛腕無双というわけでもない普通の登場人物に不思議と感情移入させられてしまう筆力は凄いなと思いました。

「嫌いなら呼ぶなよ」(綿矢りさ著 河出書房新社)は4編を収めた短編集です。どの作品も流石の綿矢節で文章のテンポがポンポンと心地よく、結構過激な内容なのにするすると読めてしまっているうちに、自分とは状況がまるで違うメンヘラ女子やYouTuberへの感情移入がマックスになって有り得ない分かりみを体験させられることになります(笑)。表題作は、妻の友人たちに一般論の正義を振りかざされマウントされまくる、自分はそんなに悪いと思っていないが勝ち目がないとわかっているので黙っている不倫男が非常に面白く描かれています。「眼帯のミニーマウス」では、メンヘラ女子の逆襲がとても痛快ですし、「老は害で若も輩」では綿矢先生自身が有り得ない理不尽キャラの作家として登場し、フリーライターと編集者と噛み合わぬバトルを繰り広げるという設定になっており、他作品同様随所に鏤められたユーモアにくすりとさせられて最高です。

最近追悼ばかりで気がめいりますが、来週はもっと楽しいことが書けるといいなと思っております。そんな中でもELLEGARDENの新曲公開はいいニュースでした!

 


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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