タクシー運賃値上と労働条件改善について考えたこと

東京都内のタクシー運賃が11月14日から値上げになります。そこで、運賃値上と労働条件改善について考えてみました。

初乗りが420円から500円、加算運賃が233メートル80円から255メートル100円になります。

次のグラフは東京都内の新旧運賃の逓増グラフです。

東京地区のタクシー運賃変遷と新運賃
図1.東京地区タクシー運賃新旧比較表

このように、新運賃では5941メートルで2500円になりますが、現行の運賃では2,100円です。14.24%の改定率になるようです。

 

タクシー運賃と賃金の関係は少し前にも書いています。今回は、運賃が上がるので、出来高制賃金の歩率を下げる、という話を聞いたので改めて書いてみました。

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三河地区のタクシー運賃値上げについて、賃金は上がりますか?

運賃値上と労働条件の改善

今回の運賃改定においは、国土交通省から次の説明がされています。

運賃改定はタクシー乗務員の労働条件改善が重要であることから改定率の14.24%のうち約8%を賃金アップ等のタクシー乗務員の労働条件改善に必要な費用増と見込んでいて、人件費に適切に反映すること

2022年9月28日 Tranouva

2022年9月28日 Tranouva 運賃値上と労働条件改善

運賃値上げと運転手の賃金の関係

タクシー運転手の賃金は営業収入に対する出来高制賃金です。出来高に対する歩率で賃金が決まります。

例えば、歩率60%で営業収入が10万円では6万円が賃金になります。したがって、今回の14.24%値上げで、営業収入も114,240円になります。その結果、賃金は68,544円に上昇します。

タクシー事業は、価格弾力性が小さい業種なので、値上げしても需要は低下しないと予測されます。

どちらかというと、運転手の営業収入(=賃金)は、需給バランスに影響を受けます。(ですから、国は需給調整をしています)

今回、売上は14.24%増、とまではいかないにしろ、値上げ前よりも落ち込むことはないはずです。(後に書きますが、歩合制賃金なので、増減は運転手次第になります)

次の図2は、営業収入と運賃の関係をしめしたグラフです。

東京タクシー新旧運賃 増収率
図2.運賃値上げ時の新旧賃金比較表

現行運賃は青い線です。黄色が8%増収時、赤が14%増収時になります。

図3は、数字は図2の元にした表です。

 

東京タクシー運賃改定表

図3.タクシー運賃改定率と営業収入増加表

歩率56.84%

60%の歩率を56.84%にします。そうすれば、14.24%の値上げ分の8%だけを賃金に反映できます。その歩率が、56.84%ということです。

図3の1番上の数字を見て下さい。

現時400,000円の営収は456,000円になります。そのまま歩率60%では(これまでの14.24%増の)273,600円の賃金になります。これを8%だけ増やすと259200円の賃金になります。

259,200/456,000=0.5684、すなわち歩率54.84%ということです。

運賃値上げにともなう歩率下げ

「改定率の14.24%のうち約8%を賃金アップ等のタクシー乗務員の労働条件改善に必要な費用増と見込んでいて、人件費に適切に反映すること」という国交省の説明があったので「8%にしました」と言うことです。

8%ルールの適応で、歩率を下げるということが実際行われています。頭の良い経営者は考えたわけです。知恵の結晶、ということです。

運転手次第になりますよね?

でも、本当に14.24%の増収になり、運転手の賃金が8%上昇するのでしょうか?

そうではないのです。賃金が出来高制なので、結局、運転手次第になるのです。

この出来高制による歩合給こそが、タクシー業界の労働条件改善と健全な発展を阻害してきた宿痾なのです。

最近話題になった累進歩合制にしろ、長時間労働にしろ、不当な運転手負担にしろ、運転手次第の歩合給が原因なのです。

固定給であれば、8%の賃上げがあれば8%賃上げされるのです。

病気になれば、怪我をすれば、事故や違反で免停になれば、一気に賃下げになります。あるいは、このまま不況になり、需給バランスが壊れると、8%なんて一気に下がります。

コロナ禍がそうだったように。

それでも歩合給から離れられない

本当に、出来高制、成果主義での分りやすい賃金のほうが良いのでしょうか。「万収当てた」「ロング引いた」というギャンブルのような仕組みが好きなのでしょうか。

ボクはなにか違うように感じます。

そして、タクシーが公共交通で、エッセンシャルワーカーであるのなら、出来高制や歩合給とは相性が悪いのです。車椅子利用者への乗車拒否問題が端的にそのことを現しています。

8%の賃上げになっても、労働条件はこれまで通りではないですか?そしてその8%の賃上げが運転手不足を解消し、タクシー事業者の収益が改善される、なんて簡単な構造でもないはずです。

このまま運転手不足になれば、ひとりひとりの運転手の収入は上がります。ところが、事業者の収益は下がる一方です。労務倒産を引き起こす会社も出てきます。

運賃値上=労働条件改善=人手不足解消、なんて簡単にはいかない、それがタクシー業界なんです。というか、この国のすべての企業の抱える問題、なのです。

どうします?

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