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法定帳簿を作成して保存してないと仕入税額控除はみとめられないの?

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はじめに

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はじめに

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今回は法定帳簿の作成・保存に関しての仕入税額控除の是非について争われた裁判(平成23年3月30日裁決)のご紹介となります。

もちろんこの事例をもって、どのような事例にもそのまま適用できるわけではありません。

一方で、その判断の理由を知ることで実務にも活かせる部分があるのではないかと感じますので、しっかりと学んでいきたいと思います。

 

今回の事例では税務調査で無申告を指摘され期限後申告をすることになるわけですが、無申告ということは帳簿や請求書が適正に整っていないことも多いはず。さて、今回はどのように判断されたのでしょうか。

 

どんな内容だったのか

型枠工事業を営む個人事業主の消費税申告に関して、職人に対する外注費の仕入税額控除の是非を争ったものとなります。

他にも論点はありますが、仕入税額控除の論点に絞ってみていきたいと思います。

まず、今回の事例では、原処分庁側は、以下を理由に仕入税額控除を認めないものと主張します。

以下のとおり、本件職人対価は、そのすべてが課税仕入れに係る支払対価に該当するとはいえず、また、法定帳簿の保存がないので、課税仕入れに係る消費税額の控除を認めることはできない。
1 法定帳簿の保存の有無
本件出面帳は、請求人が職人の従事状況を管理するための手控えにすぎず、申告の基礎資料ではないから、その大半につき、法定記載事項のうち、課税仕入れに係る支払対価の額の記載がなく、本件出面帳から課税仕入れの額を算定することは到底不可能である。したがって、法定帳簿の保存を定めた消費税法第30条第7項の趣旨に照らしても、本件出面張を法定帳簿と認める余地はない。
2 法定請求書等の保存の有無
別表2に記載された「支払対価」欄のうち、一部については請求書等の保存がなく、また、保存がある部分についても、請求人が法定帳簿を作成、保存していない以上、原処分に何ら影響を及ぼすものではない。
3 本件職人対価が課税仕入れに係る支払対価に該当するか否か
請求人は、事業者であり、事業として、手配した職人から役務の提供を受けているが、本件職人対価は報酬日額に各人の従事日数を乗じて算定されるほか、その一部には残業手当を支給し、給与支払明細書を作成、交付するものがあることからすれば、全額が給与等を対価とする役務の提供に係るものでないとはいえず、本件職人対価の全額が消費税法第2条第1項第12号に規定する課税仕入れに係るものであるという請求人の主張はにわかに認められない。

今回の事例では、出面帳というノートはあったものの職人の従事状況を管理する手控えに過ぎないし、そもそも、大半は法定記載事項を満たすものでもない。法定帳簿を作成・保存してない以上は仕入税額控除は認められないと。

なお、3の外注費ではなく給与ではないかという点については、最終的に審判所は雇用関係に基づくものではないと判断するのですが、この部分の詳細は割愛することにします。

さて、このノートが法定帳簿と認められたのでしょうか。

 

どのように判断されたのか

まずは、審判所の法令解釈から見ていきたいと思います。

 

審判所の法令解釈

まず、帳簿等の保存が要件とされている趣旨にふれています。

イ 法令解釈等
(イ) 法定帳簿及び法定請求書等の保存について
A 事業者が、国内において行う課税仕入れに係る消費税額の控除を行うためには、消費税法第30条第7項により、事業者が当該課税期間の課税仕入れの税額の控除に係る帳簿及び請求書等、すなわち、法定帳簿及び法定請求書等を保存することが要件とされているところ、当該保存が要件とされた趣旨は、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、薄く資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、法定帳簿及び法定請求書という確実な資料を保存させ、権限ある課税庁職員の必要あるときは法定帳簿及び法定請求書を検査することが可能であるときに限り、課税仕入れに係る消費税額の控除の適用ができることを明らかにしたものであると解される。

さらに続きます。

このうち、法定帳簿については、その対象物が帳簿であること、すなわち、継続的に記帳され、日々の取引を証ひょう書類等の原始記録を基に記録されるものであることはもとより、同条第8項により、課税仕入れに係るまる1相手方氏名等、まる2課税仕入れの年月日、まる3その役務等の内容及びまる4対価の額の法定記載事項の各記載が必要である。
そして、法定請求書等については、別紙3の10のとおり、課税仕入れに係る資産又は役務の内容、支払対価の額等の同条第9項第2号所定の内容が記載された一定の請求書等に限られている。なお、法定請求書等について、当該課税仕入れに係る支払対価を金融機関等に振り込む方法で支払った際に、金融機関が発行する振込金受取書等の文書を保存している場合、当該振込金受取書等には、同条第9項第2号所定の内容のうち「課税仕入れに係る役務等の内容」について記載されないが、他の文書と共に保存することで同条第9項第2号所定の内容が客観的に網羅されると認められるときは、法定請求書等の保存があると解するのが相当である。
B また、課税仕入れに係る消費税額の控除の適用要件として「帳簿及び請求書等」の保存が求められていることからすれば、法定帳簿及び法定請求書はそれぞれ独立して上記Aのとおりの消費税法上の要件を満たし、その保存がなされている必要があると解するべきであり、したがって、例えば、ある課税仕入れについて、法定請求書等の保存があったとしても、法定記載事項を満たさない帳簿の保存しかない場合には、課税仕入れに係る消費税額の控除の適用は認められないと解するのが相当である。

当然、請求書等の保存があったとしても、法定記載事項を満たさない帳簿の保存しかない場合には、課税仕入は認められないと。

 

認定事実

次に、審判所による調査の結果により認められた事実を確認します。

(ロ) 本件職人対価に関する本件出面帳以外の請求人の作成文書等
請求人は、平成20年課税期間中において、得意先に対して作業に従事する職人を明らかにするため、各職人の氏名、生年月日、住所及び電話番号等が記載された名簿等(以下「本件名簿等」という。)を備え付けていた。
(ハ) 本件出面帳の記載内容等
請求人が日々記帳する本件出面帳には、平成20年課税期間における請求人と各職人との日々の取引が継続的に記帳されており、さらにその記載内容として、作業日付、工事現場の名称、具体的作業内容、作業をした者の名称(請求人及び職人)等が記載されているが、月末に記載される本件職人対価の額等について、金額ではなく各職人のその月の作業量(人工量)が記載されている場合がある。
 なお、本件出面帳には、上記作業量から本件職人対価を算出する計算方法等の記載はなく、本件の全証拠によっても、各職人のその月の作業量から本件職人対価を算定すべき方法が記載された文書等の存在を認めるに足りない。
平成20年課税期間における各職人に係る本件出面帳の記載内容等は、以下のとおりである。(以下省略)

納税者が作成していた出面帳というノートには、対価の額ではなく、作業量しか記載されていない場合があり、さらには、対価を算出する計算方法の記載もなかったようです。この辺りはどのように判断されたのでしょうか。

 

結論

結論としては、出面帳というノートから確認される部分については、法定帳簿の要件を満たすものと認めています。

そして、原処分庁の主張に対しては、以下のように述べています。

(A) 原処分庁は、本件出面帳について、その大半につき、法定記載事項のうちまる4課税仕入れに係る支払対価の額がないことから、法定帳簿の保存を定めた消費税法第30条第7項の趣旨に照らして、法定帳簿と認める余地はない等と主張する。
確かに、上記イの(イ)のとおり、法定帳簿については、継続的に記帳され、日々の取引を原始記録等を基に記載される必要があり、さらに、課税仕入れに係るまる1相手方氏名等、まる2課税仕入の年月日、まる3その役務等の内容及びまる4対価の額の法定記載事項の各記載が必要であり、これらの要件を欠く帳簿を法定帳簿として認めることはできないものの、上記ロの(ロ)のとおりの本件出面帳の記載内容等を上記イの(イ)のとおりの法定帳簿の保存を法が定めた趣旨に照らせば、本件出面帳のうち、法定記載事項のすべてを満たしていると認められる部分のみを法定帳簿と認めることが法定帳簿の保存を定めた法の趣旨に反するとはいえず、当該原処分庁の主張を採用することができない。

 

 

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まとめ

帳簿や請求書のルールについては、厳格でハードルの高いものであると感じるわけですが、一方で、今回のようなノートから要件を拾えるならそれでも良しという事例は結構重要ではないかと。

知っておいて損はないですね。

 

今回の記事のあとがき

記帳の際に摘要にどこまで厳格に記載できているかと不安を感じる方もいらっしゃるのかもしれません・・・。そういう意味でも今回の事例は知っておきたいですね。

 

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