チェス雑学トリビア集

結果から見るチェス世界チャンピオン決定戦で最も大きな逆転劇とは

頭脳戦代表格ともいわれるチェス。
その人間界頂上決戦と言っても過言ではないチェス世界選手権、つまりチェス世界チャンピオン決定戦というものがあります。

今回はそんな過去のチェス世界選手権で最も大きな逆転をご紹介したいと思います。

※これは2021年12月18日時点の記事です。

今回の逆転の定義と前提知識

逆転ってどういう意味での?と思う方はとても鋭いですね。
チェス世界選手権はたった一回の勝負でチャンピオンが決するわけではないのです。

じゃんけんの3回勝負、のようにチェスでも何回も勝負をして勝利回数が多かった方が世界チャンピオンになる方式を取ります。
1対1で何度も勝負をして勝利数が多かった方が最終的な勝者とするものを『番勝負』と言います。
7回勝負の場合は『7番勝負』、10回勝負の場合は『10番勝負』です。
普通は現在のチャンピオンと今からチャンピオンに挑戦する挑戦者の2人の間で番勝負が行われます。

この記事でいう逆転は、5番勝負0勝2敗から3勝2敗で逆転勝利、というように最初は勝ち星の数で負けていた側が最終的な勝利者になった例を紹介するという意味で使っています。
スポーツや競技によっては、勝利数から敗北数を引いて、プラスの場合は『貯金』、マイナスの場合は『借金』と表現するものもあります。
ありていに言えば、この借金が多い状態からの勝利を逆転と今回表現しています。

しかしチェスは2人の勝負なので、例えば3番勝負だと2人で3回勝負をすることを意味しますが、チャンピオン自身とチャンピオンの座が欲しい人合わせて2人とは限りません。
沢山の人がチャンピオンの座を欲しがっているのです。

チェス世界選手権はほとんどが番勝負でチャンピオンが決定しましたが、選手権の決まり事の変遷や、チャンピオン自身がチャンピオンの状態で亡くなった例などもあり、チェス世界選手権は必ずしも1対1の番勝負で決したわけではないこともご注意ください。

今回は番勝負で決まった世界選手権のみをピックアップして記事を書いています。
(番勝負ではなかった選手権は無視しています)

チェス世界チャンピオンは普通、番勝負で決まる

 

 

最も勝者の劣勢状態が大きかった番勝負

1886年以降の国際チェス連盟が公認している世界選手権のうちの約50回分の番勝負を調べましたら2つありました。

1886年チェス世界選手権

1886年のヴィルヘルム・シュタイニッツ氏vsヨハネス・ツケルトート氏の対決です。

この番勝負は、のちの時代に国際チェス連盟が勝者を初代チャンピオンとすることにした、いわば第一回チェス世界選手権と言ってもいいような勝負です。
そのため、どちらがチャンピオンでどちらが挑戦者かといった区分はありません。
しいて言うならどちらも世界一を自称していたそうです。

この番勝負のルールは、勝負数無制限10回勝利先取です。

R1 R2 R3 R4 R5 R6 R7 R8 R9 R10
シュタイニッツ 1 0 0 0 0 1 1 = 1 =
ツケルトート 0 1 1 1 1 0 0 = 0 =
R11 R12 R13 R14 R15 R16 R17 R18 R19 R20
シュタイニッツ 1 1 0 = = 1 = 1 1 1 10
ツケルトート 0 0 1 = = 0 = 0 0 0 5

チェスでは昔から勝利を1ポイント、敗北を0ポイントとしています。
現代ではチェスは引き分けを半分勝利、半分敗北として0.5勝(1/2勝)とカウントしますが、この場合は引き分けをカウントしない方式のため表記を「=」とします。

上図は番勝負に勝利したシュタイニッツ氏の勝利をプラス1、敗北をマイナス1としてX軸の開始をラウンド1、終わりをラウンド20として両対戦者の勝利数の開きを折れ線グラフにしたもので、ゼロに近いと拮抗していて、絶対値の数字が高ければ暫定では優勢になっている状態です。

この勝負では勝者のシュタイニッツ氏が借金3差を先に取られながら貯金5勝差で最終的に勝利し、世界チャンピオンに輝いた番勝負でした。

1935年チェス世界選手権

次にあげるのは1935年、世界チャンピオンのアレクサンドル・アレヒン氏vs挑戦者のマックス・エイべ氏の対決です。

この番勝負の勝利条件は、勝利を1ポイント、引き分けを0.5ポイント、敗北を0ポイントとして「勝負数無制限で6勝以上かつ15ポイントを超えるスコアを先取」というものでした。

15ポイントを超えないといけないので、少なくとも全勝だったとしても第16回戦(ラウンド16)まであるため非常に長丁場が予想される番勝負ですね。

R1 R2 R3 R4 R5 R6 R7 R8 R9 R10
エイべ 0 1 0 0 0.5 0.5 0 1 0 1
アレヒン 1 0 1 1 0.5 0.5 1 0 1 0
R11 R12 R13 R14 R15 R16 R17 R18 R19 R20
エイ 0.5 1 0.5 1 0.5 0 0.5 0.5 0 1
アレ 0.5 0 0.5 0 0.5 1 0.5 0.5 1 0
R21 R22 R23 R24 R25 R26 R27 R28 R29 R30
エイ 1 0.5 0.5 0.5 1 1 0 0.5 0.5 0.5 15.5
アレ 0 0.5 0.5 0.5 0 0 1 0.5 0.5 0.5 14.5

ラウンド30まで戦ってやっと勝負がついたようです。

上図は番勝負に勝利したエイべ氏の勝利をプラス1、敗北をマイナス1,引き分けをプラマイゼロとして、X軸の開始をラウンド1、終了をラウンド30とした折れ線グラフです。

借金3差を序盤につけられながら、逆転で番勝負勝利となり、マックス・エイべ氏が新チャンピオンになりました。

 

しかしながら、おなじ3勝差劣勢からの番勝負勝利でも、ラウンドが20ある中での3勝差劣勢とラウンド30ある中での3勝差劣勢は劣勢の重みが違うと思うので、苦しさでいえば最初に紹介したシュタイニッツさんが最も苦しんだのちに報われたチャンピオンだったと言えるのではないでしょうか?
(ここで紹介する番勝負に勝利はイコールでチャンピオンのため)

 

おまけ

調べていて、ちょっと気になったチェス世界選手権番勝負を紹介します

優勢劣勢が二転三転した番勝負

勝負ってシーソーゲームで勝ち星を取ったり取られたりを繰り返すものが一番見ていてはらはらする良い勝負だったりしないでしょうか?

そんな番勝負を探してみました。

1892年チェス世界選手権

1892年、チャンピオンのヴィルヘルム・シュタイニッツ氏vs挑戦者ミハイル・チゴリン氏の対決をご紹介します。

この番勝負は勝利1ポイント、引き分け0.5ポイント、敗北0ポイントで計算され、20番勝負で10-10のスコアで並んで終了した場合は、その先はタイブレークとして勝負数無制限でどちらかが先に10勝すると番勝負勝利というものだったそうです。

R1 R2 R3 R4 R5 R6 R7 R8 R9 R10
シュ 0 0.5 0.5 1 0.5 1 0 0 0.5 0
チゴ 1 0.5 0.5 0 0.5 0 1 1 0.5 1
R11 R12 R13 R14 R15 R16 R17 R18 R19 R20
シュ 1 0 1 1 0 1 0 1 0 1
チゴ 0 1 0 0 1 0 1 0 1 0
TBR21 TBR22 TBR23 勝数
シュ 0.5 1 1 12.5 10
チゴ 0.5 0 0 10.5 8

タイブレークまでもつれ込んで23戦したようですね。

上図は番勝負に勝利したシュタイニッツ氏の勝利をプラス1、引き分けをプラマイゼロ、敗北をマイナス1としたときの折れ線グラフです。

シュタイニッツ氏が借金1で始まり、次に貯金1勝になり、借金2になり、プラマイゼロになったり借金1になったりを繰り返しタイ状態でメイン戦を終了してタイブレークで勝利というものでした。

劇的ですね。

まとめ

最も勝ち星の借金が多い状態からの逆転勝利は、1886年のヴィルヘルム・シュタイニッツ氏vsヨハネス・ツケルトート氏の対決で、最も勝ち星の上でシーソーゲームしていたのは、1892年ヴィルヘルム・シュタイニッツ氏vsミハイル・チゴリン氏の対決という結果になりました。

今回調べて思ったのは「チェスって負けが込むと立ち直れない」ということでした。

逆転劇をピックアップしたものの、大体が逆転することなくそのまま序盤に負けてた人が勝負でも負けてしまいます。
序盤の大切さが身に染みてわかりました。

ABOUT ME
くろーりん
チェスブロガー、くろーりん。 チェスのルールを知らなくても楽しい。 ルールを知ってるともっと楽しいブログを目指します。 チェス情報発信歴10年くらい。 チェスの強さはいまいちなので、雑学やTIPSなど「チェスって面白い」と思っていただけるブログ制作を心がけます。 (当ブログはリンクフリーです) Vtuberとしてyoutubeで配信もしているので、ここの下のyoutubeアイコンからぜひお越しください。

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