この記事は、パテントサロンが主催される、“知財系ライトニングトーク #17 拡張オンライン版 2022 夏” の発表として記載いたしました。

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様々なものの値段、とりわけ飲食料品や日用品といった購買頻度の高い品々の値上げが相次ぐ中、イオンのトップバリュを筆頭とする流通企業のプライベートブランド(PB)への注目度が、これまでにも増して高まってきています。そこで、商標の視点でPBについて考えてみました。

 

PBと一口に言っても、様々な類型のものがあります。まずは、ブランドオーナーである商標権者が誰であるかの観点で整理してみます。

 

類型①:留型

これは、流通経路を限定して特定の小売企業の店舗のみで販売される商品ではあるものの、ブランドの商標権はメーカー側が有しているものです。

 

類型②:WB

二つ目は、流通企業のブランドと、メーカーのブランドの両方が付された商品で、ダブルブランドなどと呼ばれます。

 

類型③:狭義のPB

最後は狭義のPBで、流通企業のブランドのみが付された商品、純粋たるPBです。

 

類型は必ずしもきっちりと分けられるものではなく、中間的なものも存在します。例えば、類型②であっても、メーカー側のブランドがメーカー品(NB)としては使用されていない、そのWB専用のブランドであるという、留型的なWBも存在します。また、類型③の狭義PBであっても、表示欄に生産者としてのメーカー名を表示してあるものと、販売者としての流通企業名しか表示のないものが存在します。

 

もう一つ、別の切り口でも整理してみます。

 

類型A:ハウスマーク商標(あるいはカテゴリマーク)のみ、またはこれらに普通名称や品質表示がついただけという構成のもの

 

類型B:ハウスマーク商標に加え、その商品個別の商品名も識別力のある商標であるもの

 

さて、類型を整理したところで、ここからは、メーカーの商標担当の視点で、PB生産の話が持ち込まれた場合に、どう対応すべきかを考えてみたいと思います。

 

今、仮に食品メーカー甲社に、スーパー乙社からPB生産の打診があったとします。甲社の商標担当者は、どの類型に誘導していくべきでしょうか。つまりは、どの類型がメーカー側有利であるのでしょうか。

 

最初の観点の分類でいくと、類型①>類型②>類型③の順になるでしょう。商標は、業務上の信用を保護する(商標法第1条)ものですから、商品の販売を通じて獲得される消費者の信頼は、その商品に付された商標に蓄積されていきます。そして、その蓄積された信用こそがブランド価値です。ですから、商標を所有する側が、その商品のブランド価値も握ることになります。類型①の留型では食品メーカー甲社、類型②のWBでは双方で折半、類型③の狭義PBではスーパー乙社がブランド価値を握ります。

 

ブランド価値を自社で握れないとどうなるのでしょうか。例えば、食品メーカー甲社が、類型③の狭義PB商品について、原料価格高騰を理由に値上交渉に入ったとします。でも、多くの場合、値上げの実現は難しいでしょう。なぜなら、スーパー乙社は別の食品メーカーに乗り換えて商品を作らせることができるからです。信用の蓄積が進んだブランド価値の高い商標をそのまま使えますので、乗り換えることで、ブランド再構築のコストも生じません。これが、商標から見たPBが低価格を維持し続ける構造です。

 

一方、類型①の留型であったらどうでしょう。スーパー乙社のメーカー変更のハードルは高くなります。メーカーを変えるということは、これまでの販売を通じて価値を高めてきたブランドを使えなくなり、一から再スタートすること意味するからです。他のメーカーに乗り換えられるリスクが低ければ、食品メーカー甲社としては、交渉を優位に進めることができそうです。そして、スーパー乙社がその商品を売れば売るほど商標への信用蓄積がすすみますので、食品メーカー甲社の相対的優位が進むことになります。

 

ところで、食品メーカー甲社側でこのように考えるということは、スーパー乙社では逆のこと、つまりは類型③の狭義PBを望むということでもあります。そこで、二つ目の切り口での類型を考えることになります。

 

流通企業は、通常は類型AでPB展開することが多いです。これは、流通企業はメーカーに比べて取り扱い品目が多いため、権利維持や広告宣伝等のブランド投資の効率を考えると、個別商品名については、商標管理の必要性がない方が効率がいいからです。

 

一方で、ひねりの効いたネーミングの商品名というのは消費者を引きつけ購買を喚起する力のあることは、言うまでもありません。狭義のPB商品のパッケージが何となく味気なく見えるのは、この力に欠けているところも多分に影響しているものと思います。

 

スーパー乙社から、狭義PBを求められた食品メーカー甲社としては、このネーミングの持つ効果を提案に織り込むことで、類型Bに持ち込むよう交渉することが上策です。そして、流通企業は前述の通り、個別商品名部分の自社での商標登録を避けたがる傾向がありますから、個別商品名の商標を食品メーカー甲社で登録するように持って行ければ、成功です。結果、WBと留型の中間のような商品にすることができます。食品メーカー甲社が握る個別商品名の商標がブランド価値を高めていければ、食品メーカー甲社のスーパー乙社に対する交渉力も高まっていくことでしょう。

 

このように、PB生産においては、メーカー側が何らかの形で自社保有の商標権を確保し、流通企業による生産メーカー変更のハードルを少しでも上げていくことが、メーカー側が交渉力を確保するために有効な策となりそうです。