【感想】『投身』白石一文|クフ王ってどんな人か、もう誰も知らない

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投身|白石一文

ケイチャン

ケイチャン

【2024年38冊目】
今回ご紹介する一冊は、
白石一文
『投身』です。

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【感想】「クフ王ってどんな人か、もう誰も知らない」

性愛小説

富豪が人生の最後に望むもの
女性たちに残したいと思う
終末の願いとは、なーに?
想いを託される女性の物語です

人はみな、エゴイスト

主人公はもうすぐ50代になる
女性の、旭(あきら)さん
未婚ながら人気の定食屋を営み
夜は常連の方々と飲んだりする
充実した日々が描かれてゆく

でも私、若い頃はいろいろあったんだ

自分の身勝手のせいで
恋人を亡くした過去を持つ、旭さん
自身が幸せになることを拒み
自身を罰するかのような思いが見えます

そんな旭さんに、奇妙な依頼が来る

定食屋の家主である
不動産会社経営のお金持ち、二階堂氏
70代なかばとなった彼が
旭さんに依頼した内容とは
いったいなんでしょうか・・

「クフ王ってどんな人か、もう誰も知らない」

旭さんの来し方を中心に物語は進む
美しい容姿の妹をもった旭さんは
カオでなく身体を磨くことにします
結果、抜群のプロポーションを手に入れる

一度関係を持てば
男たちは旭さんの肉体に夢中になる
性愛のテクニックも向上し
肉欲を満喫する日々が続きます

でも結婚に至らないのは
なぜだろう?

充実しているようで
何かが欠けているような
旭さんの半生に
いろいろと疑問が浮かびました

セッ〇スしていりゃ幸せって
人生そういうもんではないようです

そんな刹那的恋愛生活も
彼氏の死亡で終わりを告げ
お金持ちの二階堂氏との
約束の時が来る

以下、ものすごいネタバレとなります!

『何でも言うことを聞く』
これが二階堂氏との約束でした
呼び出された部屋で荒縄に縛られ
凌辱の限りを尽くされる旭さん
その後、二階堂氏は自殺します

そして語られるのが
二階堂氏の気持ちです
認知症を患う彼は誰かに自分のことを
憶えていてもらいたいと切に望みました

その答えが
強烈な体験の後での、自分の死です
これで女性は自分のことを
忘れなくなるだろう・・と

・・・うーん、どーなのかなー?
彼氏の死とは重みが違う
旭さんは二階堂氏のことなんか
すぐに忘れちゃうんじゃないかな?

そこで僕の頭に浮かんだのが
クフ王のピラミッドです

僕は若い頃、エジプトを旅した時
クフ王のピラミッドに登ったことがあります
40分ぐらいかけて上った頂上は
落書きだらけでした

もう誰もクフ王がどんな人か知らない
こんな巨大なピラミッドを作っても
誰も憶えてなんかいない
そしてピラミッドは落書きだらけなんだ

人って死んだら無になるんだなー
と思いました
それがわかっていながらも
ピラミッドを作る人のエゴイズムこそ
人間が文明を進化させた原動力なのかもって
そう納得しました

究極のエゴイズムを描く本作
あなたは二階堂氏の想いに
賛同できましたか?

作品紹介(出版社より)

人生と世界の営みの深淵を追い続ける作家が到達した、新たな極点

圧巻の書き下ろし最新長篇


最高の人生
永遠の快楽
その、極北


十字架を背負った女が、死にゆく男と交わした奇妙な約束――。
衝撃のラスト4ページの先に、あなたは何を見るだろうか。



介護に疲れて次々と男を買う女、妹の夫との際どい週末のひととき、両親・祖父母が遺した消えない禍根、忘れ得ぬ男との別離と心に刻まれた深い傷跡。そして、死にゆく男が示した奇妙な交換条件……。
いくつもの人生が響き合い、絡み合う。そして物語は、衝撃のラストへ。


人生と世界の営みの深淵を追い続ける作家が到達した、新たな極点

作品データ

タイトル:『投身』
著者:白石一文
出版社:文藝春秋
発売日:2023/5/26

作家紹介

白石一文(しらいし・かずふみ)


1958年、福岡県生れ。早稲田大学政治経済学部卒業。
文藝春秋勤務を経て、2000年『一瞬の光』でデビュー。
2009年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞受賞。
2010年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。
他に『不自由な心』『すぐそばの彼方』『僕のなかの壊れていない部分』『草にすわる』『どれくらいの愛情』『この世の全部を敵に回して』『翼』『火口のふたり』『記憶の渚にて』『光のない海』『一億円のさようなら』『プラスチックの祈り』『ファウンテンブルーの魔人たち』『我が産声を聞きに』『道』など著書多数。

白石一文 の作品

『一瞬の光』(2000/01/01)
『不自由な心』 (2001/02/01)
『すぐそばの彼方』(2001/07/01)
『僕のなかの壊れていない部分』(2002/08/01)
『見えないドアと鶴の空』 (2004/02/19)
『私という運命について』 (2005/04/26)
『もしも、私があなただったら』  (2006/04/20)
『どれくらいの愛情』 (2006/11/15)
『永遠のとなり』(2007/06/15)
『心に龍をちりばめて』( 2007/10/01)
『この世の全部を敵に回して』 (2008/04/24)
『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 下』(2009/01/27)
『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上』(2009/01/27)
『ほかならぬ人へ』 (2009/10/27)
『砂の上のあなた』 (2010/09/01)
『翼』(2011/06/18)
『幻影の星』 (2012/01/16)
『草にすわる』 (2012/04/05)
『火口のふたり』( 2012/11/09)
『快挙』 (2013/04/26)
『ほかならぬ人へ〈2巻〉』 (2013/10/01)
『彼が通る不思議なコースを私も』( 2014/01/06)
『神秘』 (2014/04/26)
『愛なんて嘘』 2014/08/22)
『ここは私たちのいない場所』( 2015/09/30)
『光のない海』 (2015/12/04)
『記憶の渚にて』 (2016/06/30)
『一億円のさようなら』(2018/07/21)
『プラスチックの祈り』( 2019/02/07)
『君がいないと小説は書けない』( 2020/01/20)
『恋の絵本 (4) こはるとちはる』 (2020/02/15)
『我が産声を聞きに』 (2021/07/07)
『道』 (2022/06/28)
松雪先生は空を飛んだ 上』( 2023/01/30)
松雪先生は空を飛んだ 下』 (2023/01/30)
かさなりあう人へ』(2023/10/12)
投身』2023/5/26

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