自然と人のダイアローグ 

フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで

国立西洋美術館 企画展示室

2022年6月12日(日)

 


 

 

国立西洋美術館に来たのは久しぶりです。施設整備のため2020年10月19日から休館、今年2022年4月9日にリニューアルオープンしました。

 

リニューアルオープン記念として、ドイツのフォルクヴァング美術館とのコラボ企画が「自然と人のダイアローグ」展。主に風景画を集めた展覧会です。撮影OKの作品もたくさんありましたので、今回は作品の画像とともに感想を書いていきます。




最初に展示されていたのはウジェーヌ・ブーダン。モネに大きな影響を与えた画家です。絵の具を持って屋外に出て絵を描きました。空を描くのが得意です。

 

1 トルーヴィルの浜 ウジェーヌ・ブーダン

 

写真で見るとわかりにくいですが、近くで見ると空もラフなタッチで素早く描いていて、絵の具もあまり混ぜていない。離れて見るとリアルに見える。印象派に通ずるところがあり、モネが影響を受けたというのもうなづけます。



10   ルーアンの大聖堂のファサード(朝霧) クロード・モネ



モネがルーアンの大聖堂を題材に、時刻によって変わっていく光の変化を描いた連作です。今まで何点も見てきましたが、ファザード(朝霧)の実物を見るのは初めてだと思います。フランスも朝は青い。全部で30バージョンあると言われており、日本でもポーラ美術館が所蔵しています。


 

13 ナポリの浜の思い出 ジャン=バティスト・カミーユ・コロー


先に白状しますが、私はコローの風景画が好きではありません。全体に黒いんですよね。木々の葉の緑、晴れの空の鮮やかな青がない。絵が汚れているのかとも思っていたのですが、どれも同じ調子なので元のままなのでしょう。コローにとって森は黒いんだと思います。私はヨーロッパに行ったことは数回しかありませんが、日本ほど太陽の光りが強くないイメージがあります。パリにいた画家が南の方へ行き、光に溢れた豊かな色彩の風景に触れて作風が激変するという話がありますが、つまりコローにとってこの明暗が日常なのでしょう。ちなみにこの写真もiPhoneのカメラが明るく補正していて実物より明るく見えます。

 明暗を別にすれば、この絵は好きです。遠くの浜辺の明るい背景の手前、日差しを避けて涼しげな林の木陰を歩く、リゾート感もある気持ちの良い景色です。


 

16 ブラン氏の肖像 エドゥアール・マネ

 

どこかで見たことがあるような気がしますが思い出せません。マネはちゃちゃって人物を描くのがうまいです。演出されたポーズではなく普通の仕草を捉える目の力。加えて光の差し込んだ背景が、印象派っぽいです。画像で見るとペタっとした模様みたいで、輝いて見えませんね。やはり実物でないと伝わらない部分はあります。


 

17 ラーレンの通学路 マックス・リバーマン


この絵、何を描きたかったが気持ちはよくわかる。

林や森の中で空から差し込む木漏れ日がいい感じの時があります。そういう景色に出くわした時、スマホでパチリと撮っても見たままの印象に映らない。微妙な違いなんですが、むしろ絵画の方が上手く再現できる時もあります。

 

 

25 雲 ゲルハルト・リヒター


リヒターいいですねー。今月から国立近代美術館で回顧展が始まりました。見に行くのが楽しみにです。この企画展の中では異次元の絵ですね。余計な要素は全くない雲、抽象的でもあり、心象風景でもある現代アートです。

 

 

28 夕日の前に立つ女性 カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ

 

良いです。もっと大きい絵と思っていたので気づかず通り過ぎてしまうところでした。こんな小さな絵を展覧会のチラシのメインに据えるとは、これを選んだ人は偉いですね。画廊やギャラリー、自宅のプライベートな居室に飾って見るのが適正なサイズでしょう。

 昼と夜、東と西、光と闇、対極にあるものの狭間に立っているような、スケール感がある作品です。近づかないと見落としかねないくらい小さいですが。


 

30 ピルニッツ城の眺め ヨハン・クリスティアン・クラウンゼン・ダール

 

絵から80センチ位の距離から見ると画角的に丁度いい。本当窓から外を景色を眺めているように見えます。何かのメタファーかもしれませんが、それより薄暗い部屋の窓から、外の景色を眺めた時にいい形で景色が四角く切り抜かれる瞬間があるんです。それを絵にしたかったのではないでしょうか。

 


43  聖なる象(ペリ) ギュスターヴ・モロー



象徴主義の絵は自然といえるのだろうか。ペリとはペルシアの妖精のことだそうです。国立西洋美術館サイトの解説を読みましたが何かの伝説の場面ではなくキャラクターを自由に組み合わせた作品でした。モローらしいです。

このあとオディロン・ルドンの絵の展示があり、更に、シュールレアリズムや抽象主義の絵も展示されています。単なる風景画の展覧会では終わりません。



63 ブローニュ=シュル=メールの月光  テオ・ファン・レイセルベルへ

 

テオ・ファン・レイセルベルヘは知らなかったのですが、ベルギーの画家でスーラの影響を受けて、一時期、点描絵画を描いていたそうです。夜の景色というのも珍しい。青く綺麗で月明かりが輝いています。


 

64 サン=トロペの港 ポール・シニャック 

 

点描絵画といば、スーラかシニャック。海辺の夕暮れ時、マジックアワーを捉えた作品です。色彩の美しさは点描ならでは。描くのが大変な割に良くも悪くも同じような仕上がりになってしまう。方法論として限界があるとも言えます。


 

84 刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑) ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ

 

晩年の一枚。レリーフのように盛り上がった筆致ですが、色の分け方、境界が塗り絵のようにハッキリしていて、勢いだけで描いたのではないようです。画面に溢れんばかりに実った麦に農民が立ち向かっています。エネルギッシュなところに自然の生命力を読み取って選んだ一点かと思います。


 

98   睡蓮、柳の反映 クロード・モネ


最後に紹介するのはモネの睡蓮。


2016年にルーブル美術館に保管されていたものが発見され、松方コレクションと判明、返却後にご遺族から国立西洋美術館に寄贈されました。酷く傷んでいて上半分は跡形もありませんが下半分は修復されました。


その後2019年の松方コレクション展に展示されました。当時破損する前のモノクロ写真からこの実物の情報と合わせて、AIを用いて全体をカラー再現したデジタル画像が話題になりました。


興味深い作品ですが普通の展覧会ではなかなか展示しにくいでしょうから、リニューアルオープン展に持ってきたというところでしょうか。



取り止めもなくダラダラ書いてしまいました。



他にも取り上げたい絵がありますが、この辺で終いにいたしましょう。



本格的に再始動した国立西洋美術館の今後の企画が楽しみです。


 

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