特別展「本阿弥光悦の大宇宙」

東京国立博物館 平成館

2024年2月1日(木)


 

満足度の高い展覧会でした。本阿弥光悦の魅力がよくわかります。

 

本阿弥光悦(1558年〜1637年 、享年 80歳)は安土桃山時代から江戸時代初期にかけて、日本美術に多大な影響を与えた人物です。書、琳派、茶の湯、陶磁器、漆器など、この時代をテーマに据えた企画展であれば、欠かせない。国宝展のような日本美術を代表する内容なら、メインキャラクターの一人です。しかしながら、本人を冠した展覧会は意外と少ない。

 

本阿弥家は刀剣の研ぎや鑑定を生業とする家柄。光悦は刀剣の仕事が本職で、他は趣味、いわゆる数寄者であちこち手を出していて、単なる作り手ではありませんでした。

 

この時代の刀剣の価値は現代では想像もつかないもので、武家の社会の美意識の中心にありました。本阿弥家 十三代 光忠のまとめた「亨保名物帳」(きょうほめいぶつちよう)は、古今東西の優れた刀剣を選んだもので、「名物」と呼ばれる刀剣はこの本に記されているものです。(狭義ではとの注釈つきだそうですが。)そんな家系を継いだ光悦は洗練された感性の持ち主だったでしょう。

 

展覧会には日本刀の展示もありました。光悦との関わりは分かりませんが、本阿弥家によって評価を得ているものです。

 


刀 無銘 正宗(名物 観世正宗)

シロートながら日本刀は幾度も見てきました。模様がゴチャゴチャしているものよりスッキリしている方が好みです。刃文は「直刃」、あまりピカピカしていなくて、実用性が高そう、つまり切れ味がよさそうなものがいいですね。解説では正宗は「沸(にえ)」が特徴でギラッと光る方らしいのですが。

 

写真はこのサイトで見れますので興味があればどうぞ。解説つきです。

 



13  短刀 銘 兼氏 金象嵌 花形見 (かねうじ きんぞうがん はながたみ)
14   刻鞘変塗忍草 蒔絵合口腰刀 (きざみさやかわりぬりしのぶぐさ まきえあいくちこしがたな)


これは光悦の指料だったといわれています。指料(差し料ともいいますが)とは、短刀のことです。

武士は長い刀と短い刀(大小とも言います)を腰に差していました。戦では敵を長い刀で斬り殺して、短い刀で首を切って持ち帰るという具合に使いますが、戦に出る機会のない平時でも短刀は帯刀していました。

 

朱塗りの鞘に金の蒔絵の繊細な忍草の模様。刀には「花形見」の文字が金象嵌(きんぞうがん)で入っています。象嵌(ぞうがん)とは削った部分に金属をはめ込む技法です。花形見は能の演目「花筐」(はながたみ)から来ていると言われています。慕う人から贈られた花籠がきっかけになり恋が成就する物語です。光悦ほどの人物が何の意図もなくこの指料を持っていたとは思い難い。


秘めた想いを忍草の鞘の内に納め、片時も手離すことなく懐に入れ、いつか成就するのを待つ。その想いが、恋なのか、芸術なのか、武家としての野心なのか。妄想がつきません。


 

55  舟橋蒔絵硯箱

ふなばしまきえすずりばこ

 

 

前述した妄想はこの作品のせいです。日本の国宝の中でも最も好きな作品のひとつ。


二艘の船の間の水面の小さな波の繊細な表現、繊細な蒔絵の仕事に、加工もしていないような鉛の板を大きく被せてしまう大胆な使い方、更に和歌の書を重ねて文芸的な主題を組み込む構成、そして日本の工芸の中でも他に類を見ない丸みを帯びたフォルム。「光悦蒔絵」と呼ばれる漆器の中でもこの作品の独自性は突出しています。

 

パッと見の造形的質の高さと、知れば知るほど面白味を増す仕掛け。書くことにネタは尽きません。


写真はこちらもどうぞ。

 


85   鶴下絵三十六歌仙和歌巻
本阿弥光悦は書の名人で、寛永三筆の一人に数えられています。極端に太い線、細い線を組み合わせかっちりした楷書、描き散らかすような自由な筆致の草書。それくらいなら私でもわかります。


その卓越した書の技量で絵師と数々のコラボをしています。今回何点か展示作品を比較して見ることができてよくわかりました。この俵屋宗達とのコラボがやはり一番です。他の作品では絵は背景でしかない。この鶴下絵は、光悦の書と宗達の絵が戦って相乗効果が現れています。


俵屋宗達の絵が横に長い一枚の絵になっていて、1本のアニメーションのようでもあり、独立した和歌がつながって読める効果を産んでいます。


写真はこちらからどうぞ。

 


99  赤楽茶碗 銘 乙御前

丸ごとの赤が鮮烈な茶碗。乙御前とは、おたふく、おかめのこと。肉厚が薄くて少しよれよれした茶碗ですが、丸みを帯びた形が変化に富み愛嬌があります。固い茶席を朗らかな空気に変える、笑顔を引き出す茶碗。

 

光悦の立体造形の感覚は当時としては日本人離れしているようにも感じます。鎖国に入る以前に生きていますから舶来の文物に接することも多かったはずで、それまでの形式にとらわれない自由な発想の持ち主なのでしょう。



97  黒楽茶碗 銘 雨雲

三井記念美術館所蔵。これまでに幾度が見たことがあります。やはりかっこいい。黒から灰色にグラデーションしている胴の部分が、その名の通り雨雲を連想させ、天を封じ込めたようなスケール感があります。「乙御前」のようなカワイイものも「雨雲」のようなカッコいいものも作ることができる幅の広い作り手です。

 


さて、代表作ばかり取り上げました。いいものから選ぶとそうなります。それにしても違うジャンルで、国宝、重文ばかりというのは、刀剣を超えて、あらゆる意味で「美」の目利きだったということの証しでしょう。

 

会期も終わりが近づいてきましたので、お見逃しなく。 


 

↓ランキング参加中!押していただけると嬉しいです!

にほんブログ村 美術ブログへ