レッド 1969〜1972

『レッド 1969〜1972』は山本直樹さんの作品です。いわゆる学生運動と言っていいのでしょうか?共産主義に走った若者たちが、どうやって身内を粛清するに至ったのかを描く漫画、だと私は思いました。

若者たちは既に指名手配され、交番という交番には彼らの顔写真が手配書として貼られています。

ここから先は、完全ネタバレで、私なりにあらすじをまとめ、そのあと感想を述べています。ご注意下さい。

メンバーたちは都内のアジトに集まって作戦を練ったり武器の調達を図ったりカンパを募ったりしますが、指名手配されているメンバーはいつ逮捕されるか気が気でなく、激しく消耗します。

基本的には交番を襲って警官を数人ずつ殺していくゲリラ戦を考えているようです。しかし彼らの言動には確固とした展望がなく、とても民衆を巻き込んで政府を転覆させられそうな視野がありません。あくまで目先の交番撲滅活動しか考えていないようにしかみえません。

そんな彼らは逮捕の危険のある都会を避けて山中にアジトをつくり、そこと都内拠点を連携させるという作戦を考えました。そこで、山中の無人のバンガローに無断で入り込んでアジトを作ったりします。

そんな中でも交番襲撃事件を起こしたところ、仲間の一人が警官に射殺されてしまいました。以降、彼の死を無駄にしないためという理由で彼らは暴力行為をますます肯定するようになります。

そんな仲間についていけなくなったり、単純に山での不潔で過酷な生活に耐えられなくなったりして脱走した仲間を、かれらは処刑します。理由は、いつ国家権力に協力して仲間の秘密を売るかわからないからです。

武器を使って狙撃訓練も始めるようになった彼らですが、仲間うちで性愛行為があったとか、女として髪にパーマをあてたり指輪をしているとか、後世の目から見ると些細なこととしか思えない理由で仲間をリンチし始めます。

多くの仲間の悲惨な行く末が明らかにされている中、物語は終わります。

物語の最初から、各話ごとに人物については「このときxx歳、〇〇で逮捕されるまでxxx日、死刑判決をうけるまでxxxx日」「このときxx歳、〇〇山中で死ぬまでxxx日」と紹介されるので、なんともいえない圧迫感があります。最初はキャラクターの区別もつかないし、ついていくのがなかなか大変です。

その時代にその渦中にいないとわからないことはたくさんあります。中でも、学生運動というのはいったいなんだったのか。私はそういう時代でなく、余計なことにわずらわされずに大学生活を謳歌でき、就職も今の学生さんみたいに完璧な面接テクニックなども要求されずにすんだことがラッキーだったと思っている世代です。

三億円事件奇譚 モンタージュ』では、3億円事件は過激派学生をあぶり出すためのローラー作戦を行うための警察主導の事件だったと描かれ、『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』でも学生運動は事件が起きる重要なファクターになっていました。それらを読んだこともあって、学生運動とは何だったのか気になりました。共産主義に傾倒していたはずの彼らが起こした大きな事件といえば、樺美智子さんが亡くなった安保紛争、成田空港反対の三里塚紛争、浅間山荘事件、その他の凄惨な身内でのリンチ事件が浮かびます。よりよい社会を目指していたはずの彼らが何故身内を殺したのか、TVの特集などを見ていてもわからなかったことを、この漫画ならわかるかもしれない、と思ったのが読んだきっかけでした。

そして読んでみて、やっぱりわからないのは、彼らが目指した世界はなんだったのかということ。私は共産主義について勉強していないので、わかっているのは、東欧で共産主義が長い時間をかけて失敗に終わったこと、共産主義が倒れた後の世界もひずみがあること (特に、今ロシアがウクライナに侵攻しているし)、中国共産主義はなにか独特のものであり、力をもって世界をおびやかしていることです。

この物語の中でも、ハイジャックで北朝鮮に行ったひとたちの話もでてくるし、中国に渡って革命のために学ぶなんて思想もでてきますが、彼らの活動が、結局は世の中を動かすことにむかず、仲間の悪いところ、あるいは気に食わないところをあげつらって、気に入らない奴は殺す、という結果しか生まなかったことを考えると、もう虚しい気持ちでいっぱいになります。

えらそうにふんぞり返って「おつきのもの」に生活の面倒をみせさせて、でも逮捕されたら自殺したという北の言動にはただただヘドがでるばかりですし、後に死刑判決をうけるという赤城の行動も、さいしょのうちはわかるのですが、途中からサッパリわからなくなってしまいます。

そもそも、彼らに、共産主義を世の中に広めたいのだ、共産主義のためだったらどんなことでも耐え、人民に尽くすのだ、という姿勢がありません。厳しい状況に耐えることが目的になっているように見えます。権力に逆らい、権力の象徴のお巡りさんが少数で交番にいたら、それを殺してやろうとするのに、機動隊に対処するにはどうするのか、機動隊も権力の手先である前に一人の人民なのでそれをどうやってひるませるか、などの思想がまったくないのです。

そういうのを知りたければ、三里塚闘争を調べたほうがよさそうですが、その話も、実際の土地権利者の方が「これ以上はもう無理だ、と何十年も戦ったあげく国と和解したとき、紛争にクビを突っ込んできた人たちはもういなかったし、わずかに残っていた人たちからは長年の苦労を労われるどころか罵倒された」とおっしゃっているのを何かでよんだことがあったので、やっぱり運動家の皆さんが本当にやりたかったことが何なのか、どうしてもわからないのでした。

この作品では、指名手配されていて、リーダーとして裏切り者の殺害を決意し、その後逮捕され死刑判決を受ける赤城が、最もクローズアップされているかもしれません。赤城が何故運動家になったのか問う前に、既に彼女は幹部なので、特に殺人の指示を出すところは辛いし、「脱退者は裏切っただけでなく敵に組するもの」と判断する気持ちはわからないでもないのですが、処刑という決断はやはり受け入れがたいものがありました。機動隊には抵抗せずに逃げ隠れしよう、そのかわり交番のお巡りさんを殺そう、それをゲリラ戦と称す気持ちが既に理解が難しいのに、お巡りさんを殺す前に身内を処刑しようっていうのが…本当に、これは当事者でないと理解できないかもしれません。射撃訓練とかもしてるんですが、組織だった感じがまるでなく、場当たり的にできることをしているように見えるのです。

さらに、北のチームと合併してからは、女っぽい容姿の天城に対する敵愾心はわからないし、痴漢された薬師はスキがあったからいけないんだと断罪するところはもう、北に考えることを任せて(そしてその北がまた狂ってるのですが)、思考停止になっているようにしか見えませんでした。女の長髪や指輪が許せないのはブルジョア的だからなのか、自分が我慢しているのにおしゃれされるのがいやだからなのか。でもおしゃれしてたってお風呂も入れないのだから大した問題じゃなく思えるんだけど。これは日本人だからそういうところを責めるのか、それともかつての東欧でも権力者以外の女にはおしゃれは許されなかったのか。興味深いです。

私だったら、山に入って、不潔なトイレ環境とかお風呂に入れないとか、男女混ざって体をくっつけあって雑魚寝とか、絶対無理!!!それで山を下りたら処刑されるとか、ほんとに地獄。

当事者のことはわかりません。そのときの空気がわからないので、やみくもに批判もできません。ただ、こんな事件を起こした彼らの目指したものはなんだったのか。それはこれからも機会があるたびに探っていきたいと思います。

カンパを募るところは非常に興味深かったです。社会人にアジトを提供してもらったり、ごきげんを取るようなことをしたり、脅迫したり、ジャーナリストの取材費として出させたり。そういう活動をしてたというのは初めて知りました。そうですよね。何をするにも資金は重要ですよね。

登場人物の気持ちがわからないなどと、あたかも作品を批判しているかのようになってしまいましたが、そうではありません。理解できないことは多いけど、人の動きが丁寧に描かれた作品で、夢中で読んでしまいました。絵も好きです。決してとっつきやすい作品ではありませんでしたが、よみごたえがありました。

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