吸血鬼映画 ロストボーイ 「入会式は終わった。今日から君はメンバーだ」 | 何でもアル牢屋

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ロストボーイと言うタイトルから吸血鬼を連想する人は殆ど居ないだろう。

日本語で訳すと<失われた少年>。この映画が制作された80年代、アメリカで少年少女の失踪事件が続発していた。戻ってこない、帰って来ない少年少女達。消えた場所の殆どが盛り場、ヒッチハイク、行楽地などで、いわゆるシリアルキラー(連続殺人者)によって殺され、人の寄り付かない場所にバラ撒かれたのだろうと言うのが定説になっていた。そこに着想を得て作られたのが87年作のロストボーイだった。つまり少年少女は吸血鬼によって葬られたのだと言うファンタジーな設定。
 

物語の舞台はサンタカーラと言う街。ルーシー、マイケル、サムの母子家庭は、この街にやって来た。母親のルーシーは夫と別れ、二人の子を連れて父の住むサンタカーラに帰って来た訳だ。ルーシーの父は変り者で、妻に先立たれ、動物の剝製や、何処からか集めてきた趣味だかゴミだか判らないガラクタや木材を部屋に飾り、新しい恋人を作って悠々自適な生活をエンジョイしていた。

実家に帰ってきた三人は、それぞれが動きだす。ルーシーは仕事を求め、夜のサンタカーラの遊園地に来ていた。サンタカーラは他所とは変わった街だった。昼間は賑やかで明るいが、夜になると不気味な霧が立ち込め、昼間の賑わいが嘘の様な街に変わる。この街で困った事が起きていた。アッチコッチに張り出されている<尋ね人>の張り紙と、行方不明の少年少女達の顔写真。それを見たルーシーは憂鬱になってきた。

夜の遊園地を歩いているとビデオ屋の前で子供が迷子になっていた。母性本能をくすぐられたルーシーは子供を介抱し、目の前のビデオ屋に飛び込む。

「すいません。この子が迷子みたいで・・・」

そこまで言うと丁度、子供の母親がビデオ屋に入って来て、礼を言うとスッと出て行ってしまった。ビデオ屋の店主は迷子の子供に「はい、これ」と言って飴を渡す。直後、四人の不良グループが店内に入ってくると、「此処には来るなと言った筈だ」と一言。不良のリーダーは不敵な笑みを浮かべて無言で去って行く。

「困った奴等だ。今時の若い子たちは」

「私も若い頃はそうだったわ。でも今の人達は御洒落」

「優しいんですね。私はマックス」

「ルーシーよ」

「此処はビデオ屋です。古い物から最新の物まで何でも揃ってますよ。どうぞ見ていって下さい」

「実は探しているのはビデオじゃなくて・・・」

「仕事?」


マックスは眼鏡を掛けた長身の中年紳士で、二人はロストボーイに成りかけた子供を切っ掛けに仲良くなっていった。

 

 

一方のルーシーの長男・マイケルは愛車のバイクに乗って、母と同じく夜のサンタカーラでバイトを探していた。街を歩くマイケルは弟のサムと合流し、通り掛かったコンサート会場で足を止める。そこでマイケルは不思議な魅力を持った17~18歳くらいの女に目を止める。女はマイケルの視線に気付いた様だった。コンサートを出てサムと別れ、帰宅する際中、遊園地の道端でピアスの穴を開ける少女を眺めていると後ろから声を掛けられた。

「ボラれるわよ。穴開けたきゃ私がやってあげる」

その女は、先ほどマイケルが魅了された女だった。名前はスター。切っ掛けを掴んだマイケルはスターをデートに誘おうとするが、直後、四人の暴走族に行く手を阻まれる。

「何処へ行くんだ、スター」

穏やかな口調だが、奇妙な威圧感があった。言い放った男は四人のリーダー格・デビット。マイケルは無視して行こうとするが、デビットが再びスターの名を呼ぶと、スターはマイケルのバイクを降り、デビットのバイクへと向かう。デビットは勝ち誇るでもなく、マイケルに言う。


「海に突き出たハドソン岬を知ってるか?」

「このバイクじゃ追い付けないよ」

「競争しようってんじゃねえ。いいから後から付いて来い」


デビット達とマイケルのバイクは唸りを上げ、海岸の砂浜を疾走し、霧の立ち込める森を突っ切って行く。岬まで来るとマイケルとデビットのチキンレースが始まった。両者はバイクのスロットルを全開。スピードを緩める気配を見せない。横並びになる両者。マイケルはチラチラとデビットの表情を伺うが、デビットの表情は冷静だった。何故か判らないが、まるで自分の負けは無い事を確信しているかの様な余裕に満ちていた。遂に岬の先端まで迫ってきた両者。だが霧が濃くて前が見えない。余裕の急ブレーキで止まるデビット。マイケルは横倒れで何とか落下を防いだ。危うく崖から死のダイブ寸前だったマイケル。キレたマイケルはデビットの頬に一発の拳を浴びせる。

「掛かってこい!」

殴られたデビットは笑みを浮かべて言う。「カッカするな。まだ先がある」

デビットに連れられて来た場所は85年前、サンフランシスコ大地震で陥没して廃墟と化したリゾートホテルだった。そこは丁度、崖の真下で廃墟の入り口には海の波が荒々しく波打ち際にぶつかっている。<危険!立ち入り禁止>の札と禁止線が引かれていた。平たく言えば洞窟の中にホテルがある。そんな奇妙な内装の中で、デビット、ポール、ドゥウェイン、マルコの四人、スターとスターの弟の様な少年・ウィザーの六人が生活しているのだと言う。デビットは奇妙な事を言う。

「イイ所だろ、マイケル。言えば何でも出て来る」

そう言って夕食を振舞おうと出してきたのは東洋の中華だった。渡された容器の焼き飯を口に入れるマイケル。直後、デビットは言う。

「ウジ虫は美味いか?」

「???」

「ウジ虫だよ。ウジ虫の味はどうだ?」


マイケルは焼き飯の箱の中を覗いた。見ると米がウジ虫の群れに変わっていた。箱を地面に投げ捨て吐き出すマイケル。だが不思議だった。地面に落ちたウジ虫は又、米に変わっていた。どうなってるんだ?とばかりにデビットを見つめるマイケル。

「すまなかった。ちょっとふざけただけだ。怒るなよな」

「ああ・・・」

「お詫びにヌードルだ」


デビットの持つヌードルの容器には大量のミミズがビチョビチョと不潔な音を立てて、のたくっている。

「おい、寄せよ。ミミズだ・・・」

「ミミズ?何言ってんだよ」


デビットはフォークでヌードルを一口。ミミズはヌードルに戻っていた。
何やら釈然としないマイケルだったが、仲間のマルコが赤い液体の入った瓶を持ってきてデビットに渡した。デビットは瓶の液体を一口飲むとマイケルに瓶を渡し、こう言った。

「これを飲めば、君も仲間だ」

何を言ってるのか戸惑うマイケル。横からスターが阻止する。

「マイケル止めて!血なのよ」

「そんな馬鹿な・・・」


マイケルは瓶の液体をグッと勢いよく飲む。一口、二口、三口・・・デビット達は拍手喝采で喜ぶ。「いいぞ!マイケル」

 

 

マイケルがデビット達と怪しい儀式をしている頃、次男のサムはサンタカーラの本屋に居た。
滅茶苦茶に並べられた漫画雑誌。店内をローラースケートで走り抜ける不良少年。サムは、この本屋に呆れていた。スーパーマンの漫画を物色していると、同い歳位の二人の少年が寄ってきた。二人は本屋の店員で兄のエドガー・フロッグ、弟のアラン・フロッグと言って、二人そろってフロッグ兄弟だと名乗る。何故か兄のエドガーがサムに関心を持つ。

「何処から来た。クリプトンか?」

初対面でブラックジョークを飛ばすエドガーは、一冊の本をサムに渡そうとする。タイトルは<吸血鬼の全て>

「俺、ホラーは嫌いなの」

「生き残る為の術だ。為になる。読んでおきな」

アランはサムに言う。「この街は、他所とは違う事に気付いたか?」

「全然。明るくてイイ街だよ」

「俺達は真実と正義と平和の為に動いている。本屋の店員は隠れ蓑だ」

「そりゃあ、御立派だね」


ルーシー、マイケル、サムの三人は、それぞれがサンタカーラと言う箱庭で、新たな出会いを果たした。三人の物語は、やがて一つの一本道へと繋がって行く。

吸血鬼には選択肢がある。血を吸って仲間にするか?只の栄養として葬るか?殆どの吸血鬼映画で両方のパターンがある。このロストボーイの吸血鬼は一味違う。御丁寧に首筋に噛みつきに行くなんて事はしない。頭に牙を立て、喉仏を喰いちぎり、首をへし折って血肉を貪る。残虐なシリアルキラーとして描かれている。

オープニングからして幻想的で、闇夜の海面を何かが飛行している。その飛行する何かはサンタカーラの遊園地に向かい、次のシーンでメリーゴーランドに四人の若者が現れる。この時点で視聴者は、この四人の若者が普通の人間ではない事を感じる。
吸血鬼と言うモンスターに飛行能力がある事は大体の人が判っている訳だが、この映画の吸血鬼はバイクを乗り回しロックに興じる。吸血鬼と乗り物の関係も中々興味深い。吸血鬼の元祖・ドラキュラ伯爵は元々、貴族出身だから馬車に鞭打って自ら運転したりする。変わった所では、スティーブンキングの短編小説「ナイトフライヤー」と言う吸血鬼モノでは、顔を見せない黒マントの吸血鬼が、夜な夜なセスナ機を運転して人間の生き血を吸いに出かけて行く。セスナ機を運転する吸血鬼・・・想像するだけでシュールな光景が浮かんでくる。やはりホラーの帝王・スティーブンキングの発想は並じゃない。
長年、吸血鬼映画を観てきたが、おそらく、この映画でしか見られない演出があって、見所の一つになっているので紹介したい。中盤、フロッグ兄弟とサムが吸血鬼の巣窟へ探索を始めるのだが、隅々まで行っても吸血鬼の棺が見つからない。そこでサムがボヤく。

「吸血鬼の棺は何処にあるんだよ」

洞窟の奥深くまで行くと行き止まりになっている。何処にも棺らしき物は見当たらない。だが鼻を突く嫌な匂いだけはしている。何処だ何処だと懐中電灯を照らすフロッグ兄弟とサム。

「畜生!上だ!」

照らした天井に吸血鬼が蝙蝠の様にぶら下がっている。

「棺で眠るんじゃなかったのかよ」

「この洞窟全体が大きな一つの棺なんだ!」


この後、フロッグ兄弟とサムがどんな行動を起こすのか?この後に展開されていくシーンは観てのお楽しみって事にして置きたい。

マイケル役のジェーソン・パトリックはメジャー級に有名なので敢えて語らないが、見所の人と言えば、圧倒的な存在感を放つデビット役のキーファー・サザーランド。日本でもジェットコースター・ムービーと話題になった<24>のジャックバウアー役で、やっと多くの日本人に認知された俳優だが、私自身は随分前から知っていて、この俳優を初めて知ったのがロストボーイだった。

9歳から子役デビューした彼だが、本当にどの役でも器用にこなし、存在感を放つ。このロストボーイの前年には有名な<スタンドバイミー>が公開され、主人公達と対立する不良グループのリーダー・エース役を演じているが、それを知っているとロストボーイは、まるで延長線上で作られた様な錯覚と偶然を感じてしまう。要するにキーファーには不良のリーダー役がハマっている。器用な彼は、このロストボーイの翌年の88年に<ヤングガン>と言うビリーザキッドと仲間達を描いた西部劇で、ドク・スカーロックと言う心優しきインテリ・ガンマンを演じている。
もう一人、この映画には当時無名だった俳優が出演している。アレックス・ウィンターと言う俳優。キーファー演じるデビットの仲間の一人・マルコ役で登場。二言、三言喋るだけで台詞は殆ど無いが、パーマのかかった金髪ロン毛を後ろに結び、バイクで疾走するシーンは中々カッコ良かった。そんな彼が、奇跡とも言える作品で一躍知られる事になる89年制作の「ビルとテッドの大冒険」

キアヌ・リーヴスの相棒を務めたビル役と言えば判る。個人的に残念なのは、日本人はキアヌ・リーヴスにしか興味を持たない事で、相棒のアレックスを取り挙げない。私なんからすれば、もう「ミスター・ロストボーイ、アレックス・ウィンター!」ってノリになってしまう。
驚いたのはサム役のコリー・ハイムの死去で、ロストボーイから23年後の2010年3月10日、肺炎で38歳の若さで世を去ってしまった。フロッグ兄弟・エドガー役のコリー・フェルドマンとは気が合うのか、ロストボーイの後も共演をしている。いっその事、フロッグ兄弟を二人がやれば良かったのにと思う。それでも違和感は無かったと思う。
 

幻の地上波放送について

地上波初放送は89年の8月26日で、フジテレビの「土曜ゴールデン洋画劇場」で放送。関東地方だけで言えば、その日を境に再放送は一切されていない。と言うか私自身も初回放送以降、一度も他の映画番組で観た事が無い。私は、この初回放送をVHSのビデオデッキで録画し、劣化を防ぐ為にDVDに焼いて保存して今でも持っている。かなりレアな物になったんだなと実感。
地上波どころかBSでもケーブルでも放送されない。おそらく劇中の音楽の権利問題がクリア出来ないからだと思われる。観ていると、かなり有名どころの楽曲が使われていて、パターン的には角川版・悪霊島のビートルズ問題と似ているかもしれない。

何故か作られた続編について?

コリー・ハイムが死ぬ前年の2009年。何を思ったのかロストボーイの続編を名乗る作品が映画ではなく、オリジナルビデオとして制作された。「ロストボーイ:ニューブラッド」「ロストボーイ サースト 欲望」という二本で、ロストボーイ大好きの私は当然観た。信じられないほどの駄作で、何故、作ったんだ?と思わざるを得なかった。

ロストボーイは、そもそも続編の必要性は無い作品だと思うし、オリジナルの終わり方を見れば十分満足。劇中に流れる音楽もカッコ良くて好きで、好き過ぎてサントラまで買った。音楽の使い方が凄く上手なのは85年の「フライトナイト」もそうで、フライトナイト&ロストボーイの二本は、80年代中期の最高峰の吸血鬼映画であり、ドラキュラ映画が終わって下火になった吸血鬼映画に息を吹き込み、その後の吸血鬼映画に大きな影響を与えた双璧だと私は思う。