「夏の夜の夢」@日生劇場 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ウィリアム・シェイクスピア

演出 井上尊晶

中村芝翫/南果歩/生駒里奈/髙地優吾(Six TONES)/堺小春/元木聖也/宇梶剛士/野林万稔/中村松江/原康義/林佑樹/大堀こういち/プリティ太田/鳥山昌克

 

 舞台は日本の森。大木が鬱蒼と茂る中に大石段が高く造られていて、そのてっぺんに鳥居がある、神が宿る世界。そのセットを見た瞬間に蜷川さんを感じました。蜷川幸雄さんの演出助手だった演出家 井上尊晶さんの、2018年「オセロー」に続くシェイクスピア劇です。「オセロー」では舞台セットがあまりに(その2年前に亡くなった)蜷川さん色が濃厚で苦笑いしたのですが💦 今回観て、それが井上さんのカラーになったということかなと。 

 

 最初に子役ちゃんが石段を降りてきて舞台中央の小舞台に立ち、邦楽に合わせて三番叟を踊ります。いきなり祝祭感~😅 次いで、蓑(ミノ)と笠をまとった役者全員が、石段の向こう側からワラワラと登場、蓑を取るとそれぞれの役の衣装になっていて本編が始まります。この始まり方も蜷川味があるけど、プログラムによると、これは役者たちが神の依り代(神霊が宿るモノ)であることを「演じる」こと=憑依するという意識の象徴であり、山から降りてきた「夏の夜の夢一座」が劇中劇として本編を演じることでもあると。

 

 役者たちが役の衣装になったとき現代の街の騒音が聞こえ、舞台と私たちの世界とがつながります。終盤ではオーベロン(芝翫)が玉串を手に舞を披露しました。あれは奉納の舞かな。役者が私たちに一夜の夢を見せてくれたと同時に、これを神に捧げるということか(例えば、コロナ禍が早く治るように祈る……みたいな?)。この解釈、この重層的な構造、ちょっと飛躍しすぎかもだけど、「夏の夜の夢」の場合はこれもアリかなと思いました。

 衣装も和テイスト。オーベロンとティターニア(南果歩)のゴージャスな純白の衣装が、装飾冠とも相まって神々しく、パックや妖精たちは子役で(年少の子どもは神の子だと言う伝承を参考にしたのだと)童子水干姿だった。そして、黒衣が彼らを操って宙に浮かせるとか、扇子を媚薬花に見立てるとか、黒衣が差し金を使って蝶を舞わせるとか、歌舞伎エッセンスがいっぱいでした。

 

 芝翫のオーベロンはさすがにセリフに力があり、時々歌舞伎調になるのもご愛嬌で、この演出には合っていたと思う。ティターニアに人間との浮気をたしなめられるところは原作通りのセリフとはいえ、つい芝翫の実生活と重なってニヤニヤしちゃった😆 もう一役のテーセウスも堂々としていて、ヒポリュテ(この公演での呼び名通り)をさらって無理やり妻にするみたいな荒々しさはなく、保守的だけど理性的でもある公爵っぽかった。

 南果歩さんのティターニアが華やかでとてもチャーミング。恐妻という感じではなく、自由でおおらかな妻に見えました。ボトム(宇梶剛士)に一目惚れしてメロメロになるところも、媚態はほどほどであくまでも妖精の女王としての気品は失わず、それでいて楽しんでいる感。もう一役のヒポリュテは凛とした気品があり、意にそぐわない結婚を強いられるハーミアに同情し、父権的なイジーアス(中村松江)に不快感を表すところも見せていた。自分がテーセウスと結婚することについては普通に受け入れているようでしたけど。

 

 恋する若者を演じた4人、生駒里奈髙地優吾(Six TONES)堺小春元木聖也、みんな上手かった。厳しいことを言えば、ヘレナが頭一つ抜けていてハーミアはやや生硬。それを別にすれば、女の方が強そうな感じなのがやっぱり面白い。ライサンダーの高地優吾くんは好青年のままかと思いきや、ハーミアとヘレナが喧嘩している時のコミカルなリアクションがちょっと可愛らしかった。ディミートリアスの元木聖也くんは前半のヘレナへのディスりが振り切れていて、あとで180度変わったときにそれが効いていました。男同士の喧嘩では剣を交えたらカッコよかったかも。

 ボトム(宇梶剛士)とティターニアのシーンが意外と大人しくてちょっと拍子抜け。もっと弾けた感じでもよかったかも? ちなみにボトムは宇梶さんのルーツであるアイヌの衣装を着ていて、ティターニアを目覚めさせる歌もアイヌのテイストを取り入れてあり、それは良かったです。

 

 最後の職人たちによる宮中芝居は、予想はできたけど、ツケ打ち(中村松江の二役目)も入ったパロディー歌舞伎でした。ティスベ(シスビー)役は以前に三代目猿之助の門下だった林佑樹で、赤姫の姿で登場し、ノリノリの演技で見事なエビ反りも披露。ライオン役(鳥山昌克)は白い獅子毛を被って出てきたので毛振りを見せるかと思ったら、毛は黒衣が回すという笑わせ趣向でした。ただ、このシーンって個人的にはいつもちょっと飽きるんですよね。今回のも、力が入っていたけれど長く感じてしまった🙇‍♀️

 

 そしてパックなんだけど、実は子役ちゃんのセリフが聞き取りづらかったんだよね😔 発声は良いのだけど、声変わり前の、成長過程ゆえの弱点? 発音が不明瞭と言うか……なんだろう、単語や文のメリハリがなくて言葉として聞こえてこない。とても残念です。

 そういえば、パックは最初に登場したとき車椅子に乗っていて、そこから立ち上がるものの地面に崩れ落ち、黒衣が出てきて抱き起こすと両脚で歩けるようになるという、この意味が不明でした。また、最後は2人のパックが出てきてちょっと踊るんだけど、1人は役名に「パックの分身」とあり、その意味も???で、モヤ~😑

 

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