元外交官であった東郷和彦氏の『プーチンvs.バイデン』を読み終わったので感想を書いてみます。

 

著者は以前から鈴木宗男氏や佐藤優氏などと共にロシア外交を行なってきたからか、ロシア寄りの人と思われており今回のウクライナ戦争でもネット上ではかなり批判されていたので現在の戦争をどのように考えているのかを知ろうと思いこの本を手に取ってみた。

 

東郷氏は「いかなる理由があれ、プーチンがウクライナに攻め込んだことを肯定することはできない。この戦争の第一義的な責任がプーチンにあることは間違いない。」と書いているので、ウクライナばかりを批判している鈴木宗男氏とはかなりの違いがあるようだ。

 

それでも「ロシアを批判することと、ロシアを知ることは矛盾しない」となぜプーチンが無謀な行動をとったことをいろいろ推察されている。

 

プーチン大統領の目的はロシアをもう一度「大国」の座に押し上げることだとプーチンに数回あったこともある東郷氏は見ていた。ところがプーチンの目には、アメリカを筆頭とする西側はロシアを三流国の地位に止めようと考えており、その大きな要因がNATO拡大問題にあるというのだった。

 

ウクライナのゼレンスキーも大統領に当選した当初はロシアともうまくやろうとしていたという。ところがバイデン大統領が当選した直後からゼレンスキー大統領はロシアに対して強硬な態度を取るようになっていった。

 

その背景にはもともとバイデン大統領がオバマ大統領の副大統領時代にウクライナのNATO加入に対して積極的だったこととロシアがウクライナからクリミアを奪う契機となった2014年のマイダン革命をアメリカ側から煽っていたネオコンのヌーランドがアメリカの国務省のナンバー2の地位についたことも何らかの影響を及ぼしたのではないかと推察されている。

 

プーチンはウクライナに侵攻する直前の2021年12月にもウクライナをNATOに加盟しないような条約草案を出したのだが、西側はそれに対しても一顧だにしなかった。

 

その時に東郷氏は祖父である東郷茂徳が太平洋戦争直前にアメリカから届いたハル・ノートを突きつけられた時に感じた失望と同種のものをプーチン感じたのかもしれないと想像している。

 

私はハル・ノートを見た時の東郷茂徳外務大臣が「目もくらむほど」という表現を使っていたことを今でも覚えていて、この表現は第一次大戦の時にセルビアに駐在していたロシアの外交官がオーストリアからの最後通牒を見た時にも全く同じ表現をしていたのを読んで不思議に思った経験がある。

 

『ワシントン・ポスト』に戦争が始まる直前の出来事を特集した記事でもロシアの首脳部はウクライナをNATOに入れないという保証を一貫して西側に求めていたことは確かなので、プーチンが「目もくらむほど」の衝撃を受けたかどうかはわからないが、いずれにしろこの問題が戦争に結びついていたことは間違い無いだろう。

 

東郷氏はプーチン大統領が今回の戦争を始めた責任を認めつつも、今何よりも大切なことはこれ以上の犠牲者を出さないためにも停戦を実現することだと主張されている。

 

私もそのことについては賛成だが、一旦始まった戦争がそう簡単に停戦に結びつくとも思えず、どちらにとっても現在の状況は不利になったとは考えていないようなので、停戦に至るまではもっと時間がかかるのではないかという悲観的な考えしか浮かんでこない。12月7日に行われたプーチン大統領のテレビ演説でもこの戦争が長期化することを初めて述べていた。

 

今回の戦争についてマス・メディアに流れているナラティブとは違うものを求めている人はこの本を読んでみるといいかもしれない。