中野剛志さんの『世界インフレと戦争』という本を読み終わったので感想を書いてみます。

中野さんの経済関係の本は現在起こっている現象を最新の学説を紹介しながら解説してくれており、さらに複雑な数学を用いていないこともあって私にとって大変助かります。

今回はインフレについて詳しく書かれています。インフレーションには大きく分けて2つのパターンが存在し、現在世界を覆っているコストプッシュ型のインフレと景気が加熱して需要が拡大し供給不足で起こるデマンド・プル型のインフレになります。

この2つのタイプのインフレは質が全く違うので、それを防ぐ方法も全く違うはずなのですが、アメリカやヨーロッパがやっている金利を上げるやり方は現在の処方には適さないと中野さんは批判しています。

というのも現在のコストプッシュ型のインフレは、コロナ禍で起きたサプライ・チェーンの断絶やウクライナ戦争で起きた資源高の問題なので、それは金利を上げることでは決して解決しないからだと鋭い分析をされていました。

現在アメリカやヨーロッパがやっているような高金利にしてしまえば、景気を不必要に悪化させることになり一般庶民に余計な苦しみを与えるのではないかと懸念しています。

またアメリカの高金利が世界に与える影響については、日本のように自国通貨を発行できる国はせいぜい円安になるぐらいですが、新興国はアメリカやヨーロッパの金利に合わせないと自国から投資が逃げる可能性があるのでこの高金利によってどこかの国が破綻してしまう可能性を指摘しています。

そして中野さんは現在のようなインフレになった原因については、2008年のリーマンショックからはっきりしたようにアメリカが冷戦が終わった後で遂行してきたグローバリゼーションが終了したからだとしています。

「二〇二〇年代のインフレもまた、ウクライナ戦争にその典型を見るように、アメリカのリベラル覇権の失効による世界秩序の危機を反映している。」

このように現在の秩序が揺らいでいるから世界中でこのようなインフレが起こっているのだと説き、次に来るのはどのような秩序なのかまでは書いていませんが、当分のあいだ不安定な状態が続くだろうと予測されています。

その上で、「軍事、食料、エネルギーさらには経済全般に及ぶ安全保障の抜本的な強化、サプライチェーンの再構築、ミッション志向の産業政策、内需の拡大、格差の是正と社会的弱者の保護」をやらなければ日本の存立は危うくなってくるので、そのためには国家が全面的に出てこなければならず、それは「恒久戦時経済」(the Permanent War Economy)の様相を呈すようになるのではないかと書かれています。

果たして世界がこのような状態になっているときに民を弱らす増税ばかりを狙っている財務省と岸田政権は日本をうまく運営させていくことはできるのでしょうか。