医師の就職難

イギリスでは(ジュニアポジションの)医師の就職難が起こっている。

原因としては、(1) 私のような外国人医師の急激な増加、(2) 医学部定員の大幅な増加、(3) それにも関わらず増えていないトレーニングポジション、(4) 運営コスト削減のための政府肝入りでの「医師と同じ」ポジションで働くCNS(Specialist Nurse)/ACP (Advanced Clinical Practitioner) やPA (Physician’s associates) の台頭、が主である。

私が就活した2年前にも(1)(3)(4)の議論はあったと思うのだが、目を皿にして情報収集していた私にもさほど目につかなかった。状況が変わったのは本当にここ1年のことだと思う。

“No ICU experience required”と仕事の募集要項にかいてあるにも関わらず、ICU experienceがないからと不採用になった医師(麻酔科トレーニングに乗れなかったので代わりにと仕事を探しているFY2の医師)など、この頃Redditには医師の就職難について嘆く若手医師のポストが溢れている。

(3)については私の今年のIMT recruitmentのポストでも言及した。IMT同様に、GPコースも過去最高に倍率が高くなっており、GP不足にも関わらず、GPコースに応募した人のうち6000人以上がGPのトレーニングを開始できなかった(General Practice ST1 Competition Ratios)。

(2)(3)(4)が(1)で増悪しているので、結果として、就職難への嘆きを見る機会が増え(Terrified of Looming Unemployment1000 applications for ONE trust grade post、What are F2s doing next yearRisk of unemployment for doctorsUnemployment f3Anyone else unemployment in their f3?unemploymentPossibility of being unemployed post F2the fear of impending joblessnessOvercoming the fear of becoming unemployment to pursue the locum life.reflections on my future as current F2)、

またIMGへの風当たりが強くなっている(Overseas doctors applying for HST posts without NHS experiencePoorly trained IMGs and inadequacy of PLABWhen did the government start allowing IMGs to apply for specialty training against UK doctors at equal footing?IMG opinion on the current training bottle neckSome numbers: it isn’t PAs that are driving our current competition/recruitment crisis)。

ただ、私自身IMGなのだが、ヘイトに満ちたコメントは別として、全体的に同調できるコメントが多いのが悲しいところだ。イギリスは英語圏で唯一の、本国出身の医師を他国の医学部卒の医師より優遇しない国である。英語が母語で私より英語ができる医師よりも、英語が非母語でもいくらかの業績のある私が高い面接点を得られるのがイギリスだ。

「イギリスの医学部出身者を優先すべき」「イギリスでの勤務経験のない医師がトレーニングプログラムに応募する際にはポストに見合ったイギリスでの勤務経験を要求すべき(ST1なら2年、ST4なら5年、など)」「イギリスでの勤務歴のないIMGはマナーがなってないし病院のルールがわかってない」などは完全に同意できてしまう。語学力が不十分だと感じる医師も前の病院ではまあまあ見かけた。現在の制度が私にいくらか有利に働いていること自体には感謝の念があるが、イギリスの医学部出身の若手医師には同情するし、私が同じ立場ならひどく憤っているに違いないと思う。

(4)のscope-creepについては、最近のもっぱらの火種はPAで、この頃は厚顔無恥な卒業したてのPAたち(TikTokやインスタグラムにたくさん投稿している)の他にも、コーンウォールで上部消化管内視鏡を指導医なしで施行しているPAが炎上していたところだが、医師の就活難によりACPにも飛び火している。ACPの中には処方資格のある人もいて、救急科などでは本当に若手医師と全く区別のない仕事内容で働いていることがあり、そういう存在が医師のnon-training jobやlocumの機会を奪っているとして批判を浴びている。イギリスの医師は今existential crisisに陥っている(What makes a doctor?, Air ambulance without a doctor on board?)。

今後政府の方針ひとつですぐに情勢が変わる可能性はあるが、これが最近のトレンドなので、イギリスでジュニアのポジションから働き始めようと思っている人は一応知っておいた方がいいと思う(ただredditの医師たちの嘆きを見ていると悲しくなるのである程度までに抑えるのが精神衛生に良い)。

仕事を確保するという観点からは、PLABルートではなくMRCPルートで、レジのポジションで仕事を始めることを検討するのが王道という時代が来るかもしれない(とはいえ現在はレジのポジションで働いているPAもたくさんおり、そのルートもかなり厳しくなってくる可能性はあり、本当に先行き不透明である)。

Author: しら雲

An expert of the apricot grove

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