【審美歯科大学院】ロンドンでのスクーリング1日目。「どう論文を読むか」

こんにちは。歯科医師の松浦直美です。

2年前に始めた際に、コロナのため延期になっていたKings College London審美歯科大学院の1週間のスクーリングが、ロンドンで始まりました。

5年ぶりの海外。そして久しぶりの英語ワールド。

時差ぼけと疲れで少し頭痛が続いていたのですが、英語のシャワーをあびて頭痛が悪化。ロキソニンを飲みながらの研修となりました。

今回は、自分の忘備録として、そして同業の歯科医師や歯科衛生士にもわかりやすいように、1日目の研修を簡単にまとめてみました。

Contents

論文は、「自分がやっていることがどのくらい信憑性があるのか」を教えてくれる。

さて、1日目は、大学院教育の基本の基本。

「論文の読み方」

先日ご紹介した年間審美歯科研修(ADI研修:詳しくは下の記事で↓)でも痛感したのですが、とにかく医療従事者たるもの、論文を読まなきゃダメ。ADIの研修でも、これでもかとばかりに治療法の基本となっている論文が紹介されました。

「エビデンス」という言葉は、今では一般の方でも知っている方が多くなりましたよね。「治療方法」や、歯科でいえば「材料とその使い方」などに対して、きちんとした研究で検証され、信憑性がどのくらい高いのかを示す指標です。

私にしてみれば、昔習って、やり慣れた方法をやるのがもちろん楽だし、患者さんだって、「先生のやり慣れた方法で直してくれよ、その方が安心だよ」と思うかもしれません。

でも、その方法よりももっと人の体に優しくて、歯を長持ちさせる方法があったら。歯がいかに、(特に後半の)人生で大切かがわかっている方なら、そっちの方法を選ぶのではないかと思います。

さらには、もっと良い材料や、プロトコールが確立されているのに、それを知らなかったら。

そしてここが大切なのですが、同業者や、歯科材料を売っている業者などが、「この材料や、やり方がいいですよ」と言ったことが、本当に信頼できる方法なのか。

それを解決するには、やはり論文を読むことが大切なのです。

論文は英語で書かれているものが多いし、2〜5ページほどの短い記事が多いとはいえ、やはりいちいち読むのは面倒くさい。

何よりも、どの論文を選んだらいいのか、わかりませんよね。

その「コツ」を教えてくれたのが今日の授業です。

論文を読むなんてめんどくさい!?良い論文の見つけ方

大学院での論文の読み方は、「Critical Reading」と言われ、「批判的に論文を読む」という考え方です。

たとえ論文として世に出ているものでも、その信頼性の度合いはさまざま。業者の中には、明らかに自分たちに都合のいい信頼性の低い論文を出してきて、アピールすることもあります。

その論文が、どのくらい信頼性があるのか。

一番のチェックポイントは、どんなタイプの研究なのかを知ること。

論文のヒエラルキーと言われる、信頼性が高い研究のタイプは以下の順。

1。システマティックレビューまたはメタアナルシス(一つのテーマに対して出されている多くのランダム比較試験を集めて、その結果を統計学的に分析したもの)
2。ランダム比較試験(薬や治療方法を、ランダムに選ばれた患者に与えて、コントロール群と比較したもの)
3。コホート研究(病気に対する要因を持つ人たちを、持たない人たちと比べながらある一定の時間追跡調査する方法)
4。ケースコントロールスタディ(病気のある人とない人について、どのような要因の違いがあるかを調べる方法)
5。横断研究(ある疾患の有病率など、その時点での調査を一回だけ行う方法)
6。ケースレポート(自分が経験したある1症例などを、紹介するもの)
7。実験室内での実験や、動物実験
8。専門家の意見

面白いのは、「専門家の意見」が一番最後に来ていること。偉い方が言っているからといって、信用してはいけない!ということなんですね〜。

逆に最近思うのが、若い歯科医師の方でも、しっかりと論文を読んで、SNSやブログなどでその論文をもとにいろいろな発信している方がいらっしゃるなあ、ということ。その論文の選び方や、要約の仕方がしっかりしていて、これまたいちいち感心したり、自分の臨床のヒントにさせてもらったりしています。

もう一つのチェックポイントが、その論文が掲載されいる本の「格」。

「Journal Impact Factors」と呼ばれて、自然科学や医学の分野の論文掲載誌の格付けが毎年発表されています。

ちなみに昨年のインパクトファクター、1位は「ネイチャー」。私でも聞いたことがある「ランセット」は5位でした。

歯科の分野では、今回の授業では、以下の雑誌がインパクトファクターが高く、これに掲載されている論文であればかなり信頼性が高いということで、紹介されました。

Periodontology2000
Journal of Dental Research
Oral oncology
Clinical oral implants research
International journal of oral science
Journal of clinical periodontology
Dental materials
Journal of dentistry
Journal of periodontology
Journal of prosthodontic research

上に挙げた、「論文の研究の仕方」と、「掲載誌の格」。

この二つをもとに、自分が信頼すべき論文を「Pubmed」や「Google scholar」などのサーチエンジンで選ぶことで、信頼性の高いレポートが書けたり、自分の臨床に生かすことができる、というわけです。

そのほか、研修などで論文が紹介されることもありますので、それが興味のある治療法だったら特に、それらを鵜呑みにせずに読んでみる、という姿勢も大切かなと思います。(特に業者の出してくる論文は要注意です)

見つけた論文を「批判的に」読む。

数年前、イギリスのメジャーな大衆紙に、「フロスをするとガンになる」という記事が掲載され、オーラルBという商品名まで書かれ、根拠となった論文まで載ったことがあったそうです。

もし、それを呼んだ患者さんが、「先生、今まで先生の言う通り、フロスを一生懸命頑張ってきたのに、雑誌にガンになると載っていたよ!どうしてくれるんだ!」といってきたら、どう答えますか? 授業はこうやって始まりました。

こんな話を信用する患者さんが本当にいるかどうかは別として、こんな時、論文の正しい読み方を知っていれば、慌てずに済むと言うものです。

まずは、前述の研究のデザインの質と、掲載誌がなんなのかを確かめます。

そして、内容を読んで、実験のやり方や、対象となる人の数、種類(男女、年齢、国籍など)が適切なのかを「ダメ出し」していきます。

たとえば、研究の内容が、「1日に1回フロスをしている人で、現在ガンになっている人の数」だけをみている「横断研究」で、他の要因(持病や遺伝など)を一切考えず、しかも対象となっている人が「がん年齢」と言われる50歳以上の人に偏っていたら。

とても信頼できる内容ではないはずです。

ここまで酷い論文でなくても、論文は常に批判的に読むことが大切。そして、同じテーマでも「Aが良い」としている論文もあれば、「Bが良い」としているものもある。

批判的に読むことで、どっちが「自分が信頼できるか」をジャッジする力を養うことが大切。

感動的に力説した教授先生は、休み時間に私に「僕の英語が早すぎたら、いつでも言って下さい。何度でも言いますから」といってくれる紳士でした。(私が授業の6割くらいしか理解していないのを見抜いていたようです^^;)

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