2022年9月23日金曜日・祝


2022年シーズンも佳境を迎えるこの段階は、タイトルや表彰の議論が一層熱を帯びてくるころ。今回は、サイ・ヤング賞が誰の手に渡るのか、その選考パターンを調べるとともに、いろいろな説があるのでそれを紹介していきたいと考えている。

まずその前に、サイ・ヤング賞の選考方法を説明しよう。全米野球記者教会の記者60名が、1位票(7点)、2位票(5点)、3位票(3点)、4位票(2点)、5位票(1点)、の5種の票をを投じて、合計得点が最も高い選手がサイ・ヤング賞に選出される。各記者の投票内容はすべて公開される。

なお、選考対象は必ずしも規定投球回(162.0回)に到達している必要はない。例えば2021年ALでは規定に及ばなかった(157.0回)ランス・リンがファイナリストに残ったし、デニス・エカーズリー(1992AL)やエリック・ガニエ(2003NL)のようなクローザーが選出されたことも有る。しかし、規定に到達していない先発投手のサイ・ヤング賞受賞は1984年を最後にない。また、クローザーの受賞も2003年を最後にない。歴代受賞者はこちら参照。



それでは、サイヤング賞の選考パターンを説明する。WARが浸透してきた2015年から2021年の受賞者とその成績を一覧にした表を掲載する。

太字はリーグ1位。K/9の太字は規定到達中の順位。fWAR/rWARでは打撃は除外。fWAR/rWAR順位の対象は投手のみ
年度・リーグ受賞選手投球回防御率奪三振K/9FIPfWARfWAR順位rWARrWAR順位
2015ALDallas Keuchel2322082.482168.382.915.726.51
2015NLJake Arrieta2292261.772369.282.35728.32
2016ALRick Porcello2232243.151897.633.45.134.79
2016NLMax Scherzer228.3332072.9628411.193.245.646.21
2017ALCorey Kluber203.6671842.2526511.712.57.227.91
2017NLMax Scherzer200.6671662.5126812.022.96.417.21
2018ALBlake Snell180.6672151.8922111.012.954.787.11
2018NLJacob deGrom2171091.726911.161.99919.52
2019ALJustin Verlander2232162.5830012.113.276.437.43
2019NLJacob deGrom2041182.4325511.252.676.917.21
2020ALShane Bieber77.333811.6312214.22.073.213.21
2020NLTrevor Bauer73541.7310012.332.882.6331
2021ALRobbie Ray193.3331372.8424811.543.693.996.61
2021NLCorbin Burnes1671152.4323412.611.637.515.66


各項目1位がサイ・ヤング賞を受賞したケースは(AL,NL)

・投球回・・・4回(3,1)
・勝ち星・・・8回(6,2)
・防御率・・・7回(4,3)
・奪三振・・・5回(2,3)
・K/9・・・2回(1,1)
・FIP・・・3回(1,2)
・fWAR・・・5回(1,4)
・rWAR・・・9回(5,4)

では、各項目を詳しく見ていこう。

【投球回】・・・4回(3,1)

規定ギリギリでの受賞は2021年NLのコービン・バーンズくらいで、こちらによるとそれも10ポイント差での接戦だった。基本的には、リーグを問わず規定を大きく上回る(200回前後)投球回数が求められる。ただし1位である必要性はない。

【勝ち星】・・・8回(6,2)

意外にも重要性が高いのが勝ち星。先ほど紹介した記事では2010年が勝ち星重視が転換点ということがかいてあるが、歴代受賞者を見ると、特にALではまだ勝ちの多い投手が受賞する傾向が強く残っている。一方で、NLでは5年ほど前から本格的に勝ち数への依存が弱まっていて、10勝・11勝程度でも選ばれるようになっている。

【防御率】・・・7回(4,3)、【FIP】・・・3回(1,2)

防御率はリーグを問わず重視されている。サイ・ヤング賞投手はFIPトップが3回に対して、防御率トップが7回。さらにFIP1位でサイ・ヤング賞の投手はすべて防御率も1位だ。また、2021NL除く13/14では、(防御率)<(FIP)になっている。こういったことから、FIPより防御率が圧倒的に重視されていることがわかる。防御率1位の受賞は50.0%と強い結び付きがある。

【奪三振】・・・5回(2,3)、【K/9】・・・2回(1,1)

K/9についてはトップの受賞回数こそ少ないものの、2017年以降はすべてK/9が11を超えている。さらに、奪三振数は投球回数とK/9から合成されるので、一覧には多くの三振を奪った選手が並ぶ。リーグを問わず奪三振数リーグ上位が受賞する傾向は強いが、それでも、奪三振数トップの受賞は5回で、防御率、勝ち星、rWARには及ばない程度である。

【fWAR】・・・5回(1,4)

fWARはFIPベース。MVP選考ではかなり重要なfWARだが、サイ・ヤング賞では、防御率・投球回・奪三振・勝ち星の優秀な投手を選んだら結果的にそれがfWARの高い選手だった、というくらいで、fWAR上位が受賞する傾向は強いが、rWARに比べてさほど重要視されているようには見られない。直近の2021年ALでもfWAR9位のロビー・レイが受賞しているという例がある。

【rWAR】・・・9回(5,4)

rWARは失点率をもとにし、守備指標DRSにより守備の影響を考慮することで、計算される。rWARトップの選出が9回というのは、全項目中で最も多い。特に、rWAR投手2位以内がサイ・ヤング賞を受賞する確率は78.6%と高く、リーグを問わず受賞者の予想に大変重要となる指標である。
また、rWARと勝ち星のいずれかが1位の投手がサイヤング賞を受賞する確率は、12/14=85.7%。よって、rWARと勝ち星のいずれかが1位であるということは、受賞者予想の大きなヒントになるだろう。


【まとめ】
・投球回は200回前後が目安
・勝ち星はALでは未だに重要だがNLではあまり関係ない、とリーグ間で差がある
・防御率はFIPより圧倒的に重要
・奪三振上位が受賞する傾向が強い
・K/9が11を超えるのが1つの目安
・fWARはさほど重要でない
・rWARがもっとも重要な指標で、2位以内が受賞する確率は約8割
・rWARか勝ち星のいずれかが1位であることは受賞の強いサイン


【2022年データ】

それでは、2022年のデータを紹介する。

こちらによると、9月21日終了時点でのrWARは、
AL・・・シーズ6.1、大谷5.3、バーランダー5.1、マノア5.1、ペレス4.7、シンガー4.3、バルデス4.2、ワカ3.9、マクラナハン3.9、など
NL・・・アルカンタラ7.3、フリード5.7、シャーザー5.2、ノラ5.1、ロドン5.1、ゴンソリン4.7、ダルビッシュ4.6、ガレン4.4、ウリアス4.2、アンダーソン4.1、など

・9月21日終了時点での勝ち星は、
AL(重視)・・・バーランダー17、バルデス16、シーズ14、マノア14、大谷13、タイロン13、・・・、マクラナハン12(11位タイ)、など。
NL(参考程度)・・・ライト19、ウリアス17、ゴンソリン16、・・・、フリード13、ロドン13、アルカンタラ13(9位タイ)、・・・、ガレン12(12位タイ)、・・・、ノラ9(27位タイ)、など。

・9月21日終了時点での投球回は、
AL・・・バルデス185.2、マノア183.2、・・・、シーズ173(8位)・・・、バーランダー157(18位タイ)、マクラナハン156.1(20位)、・・・、大谷148(23位)、など
NL・・・アルカンタラ212.2、マイコラス193.1、ウェブ187.1、ノラ186.1、・・・、フリード175.1(9位タイ)、・・・、ロドン167.2(13位タイ)、・・・、ガレン164(18位)、・・・、ウリアス158.2(20位タイ)、など

・9月21日終了時点での防御率は、

AL・・・バーランダー1.78、シーズ2.13、マクラナハン2.36、マノア2.40、バルデス2.57、など
NL・・・ウリアス2.27、アルカンタラ2.37、フリード2.52、アンダーソン2.52、ガレン2.52、ロドン2.84、・・・、ノラ3.38(17位)、など

・9月21日終了時点での奪三振は、

AL・・・コール236、シーズ217、レイ201、大谷196、ガウスマン194、マクラナハン190、・・・、バルデス176(10位)、マノア168、ギルバート167、バーランダー163、など。
NL・・・バーンズ223、ロドン220、ノラ210、・・・、アルカンタラ188(6位)、ダルビッシュ183、ガレン167、・・・、フリード159(16位タイ)、ウェブ156、ウリアス152(19位)、など

・9月21日終了時点でのK/9が11.00以上の投手は、
AL・・・コール11.65、シーズ11.29(※大谷は11.92も規定未満)
NL・・・ロドン11.81


【サイ・ヤング賞予想】

各方面の予想を紹介する。

こちらによると、9月22日に発表されたMLB公式の最新の投票によると、33人の投票者がおり、ALは1位バーランダー(1位票25)、2位シーズ(4)、3位マクラナハン(2)、4位バルデス(1)、5位マノア(1)、など。NLは、1位アルカンタラ(31)、2位フリード、3位ウリアス(2)、4位ロドン、5位ガレン、など。

サイ・ヤング賞オッズによると、2022年9月18日(現地)時点で、ALはバーランダー-320、シーズ+330、バルデス+1950、マクラナハン+1950、マノア+5000、大谷+6500、など。NLはアルカンタラ-263、ウリアス+575、フリード+900、ガレン+900、など。

@tangotigerによると、ALではバーランダーとシーズが接戦、NLはアルカンタラ1位など。こちらのTTサイ・ヤングポイントなども参照。




最後に、個人的な予想。ALはファイナリストがバーランダー、シーズ、マノア→バーランダー。NLではファイナリストがアルカンタラ、フリード、ウリアス→アルカンタラ

次のページでは、サイヤング賞受賞者の投球動画を載せている。併せて見ると理解が深まるだろう。