otaku8’s diary

映画のこととか

映画批評月間『恋するアナイス』感想(ネタバレなし)

 アンスティチュ・フランセ日本主催の映画批評月間で『恋するアナイス』を観た。日本未公開の作品が上映されるので、あと何作かは観に行きたい。


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 本作はシャルリーヌ・ブルジョワ=タケ監督の長編デビュー作品とのことだが、傑作だったと思う。主人公アナイスが疾走するスピード感溢れる冒頭からグッと引き込まれ、力強いラストまで目が離せない。饒舌で自由奔放な彼女はエネルギッシュであるが、一方で彼女は自他問わず永遠ではない人生に恐れを抱いている。彼女は恋愛が長続きせず、博士論文も仕上がらない。将来不透明な人生を歩んでいる。また、彼女にとって大切な人が居なくなることに対する不安も抱えている。その人間らしさがとても魅力的で、演じるアナイス・ドゥムースティエが非常に良かった。

 そんななかで出会うとある女性とのクィアな物語がメインになってくる。本作は基本的に軽快でコメディチック(笑いも起きていた)であるのだが、彼女とのドラマが始まるあたりから『キャロル』を想起させるような雰囲気が入り混じっていく。ポスターにもなっている海岸の場面はとても美しく、同時にちょっと驚いた(『燃ゆる女の肖像』『ハンズ・オブ・ラヴ』『スペンサー』といった作品でもやはり浜辺や海岸のイメージが前景化しているので、既視感がないといえば嘘になるが)。

 一方で、二人の女性が互いに似た者同士だということも何度か強調される。つまり、本作はアナイスの自己愛の物語にも見える。将来不透明な彼女が、自分自身を再発見し、肯定し、愛するまでの話だとも捉えられるのだ。