【 ファーマコフォア 】薬学に重要なファーマコフォアの見つけ方と化学構造式をわかりやすく解説!

雑記

「 ファーマコフォア 」という言葉をご存知でしょうか?

薬学部でたくさん勉強する化学、とりわけ有機化学は創薬化学でしか活かせないと思っている方も多いかもしれません。

化学を苦手に感じている方も少なくない印象ですが、今回はそんな薬学に超重要なファーマコフォアと化学構造式、その有用性や見つけ方などについてわかりやすく解説していきます。

近年では薬剤師国家試験でもよく出題されるので薬学生の方も復習しておきましょう!

難しい反応機構を考えなくても大丈夫なので、比較的取り組みやすいと思います。

ファーマコフォア

ファーマコフォア とは?

ファーマコフォアの定義自体が定まっていないようですが、薬学用語解説サイトで以下の説明文が出てきます。

ファーマコフォア(pharmacophore)

医薬品ターゲットとの相互作用に必要な特徴を持つ官能基群と、それらの相対的な立体配置も含めた(抽象的な)概念

日本薬学会 薬学用語解説

簡単に言えば、相互作用に必要な化学構造や部分構造、置換基のことで、同じ受容体で似た相互作用や空間配置であれば、例え化学構造式が違っても似た作用を持ちやすくなります。

同種同効薬の化学構造式を比較したことはありますか?

基本的な構造(基本骨格)が似ていることに気付くと思います。

ファーマコフォア 、化学構造でわかること

ファーマコフォアなど、化学構造や相互作用からわかることはたくさんあります。

  • 作用機序
  • 作用の強さ
  • (受容体)選択性
  • 半減期
  • 薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)
  • 相互作用
  • 副作用
  • 安定性(光・熱・水など)
  • 溶解性
  • 着色性

などなど、、
一覧にしようとしてもキリがないくらいですが、臨床現場に活かせる可能性も大いに秘めているのです。

ACE阻害薬の ファーマコフォア

ファーマコフォアを学ぶ上で代表的なものの一つが、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬です。

アンギオテンシンIをアンギオテンシンⅡへ変換する酵素を阻害することで降圧作用を示します。

アンギオテンシンⅠはアミノ酸がペプチド(アミド)結合で繋がったもので、酵素(ACE)によりペプチド結合が切断されるとアンギオテンシンⅡに変換されます。

ACE阻害薬が薬として作用を発揮するためには、①アンギオテンシンⅠに似ている(誤って酵素に取り込まれる必要がある)、②酵素によって切断されない(酵素と持続的に結合し機能を阻害する)、といった特徴をもつ薬剤であれば良いわけです。

アンギオテンシン変換酵素阻害薬のファーマコフォアの図
アンギオテンシンⅠ、カプトプリル、エナラプリルの化学構造を、原子の位置関係がわかりやすいように便宜的に並べたもの

カプトプリルもエナラプリルもアンギオテンシンⅠの切断部位に似た構造になっているのがわかりますね。

これにより、酵素はアンギオテンシンⅠではなく、誤って薬剤の化合物の方を取り込むことになります。

カプトプリルではチオール(-SH)基と炭素Cの単結合で切断されず、エナラプリルも窒素Nと炭素Cの単結合で切断されません。

酵素とくっついたまま分解もされず離れないため、その機能を阻害することができます。

エナラプリルではアンギオテンシンⅠのPheに模した構造が追加(合計3残基分のアミノ酸に相当する構造で構成)されていて、疎水性相互作用により酵素との親和性が強くなり、カプトプリルに比べても強い作用を持つ薬剤になっています。

ACE阻害薬はペプチド(アミノ酸)を模した構造のため、水溶性が高くほとんどが腎排泄型。

そして経口吸収率が悪いため、エステル化し脂溶性を高めたプロドラッグ体という特徴も持ちます。

化学構造の類似性と ファーマコフォア

化学構造が似ているほど似た作用を持つようになります。それはファーマコフォアも似るためです。

よく『鍵と鍵穴の関係』にたとえられますが、薬が効果を発揮する本質は化合物-生体(主にタンパク質)間の相互作用です。

そのため、薬の化学構造は*内因性リガンドに似ている場合が多いです。

※内因性リガンド:生体にもともと備わっているホルモンや神経伝達物質などのこと

例えば、アドレナリン受容体に作用する薬は、アドレナリンに似た化学構造を持ち、ステロイド受容体に作用する薬はステロイドに似た化学構造を持つ場合が多いのです。

アドレナリン、サルブタモールの化学構造
ステロイドの化学構造

ステロイド外用薬の構造活性相関による強さの比較もしているので、興味のある方はぜひ読んでみてください↓

気管支拡張薬のテオフィリンとコーヒーに含まれるカフェイン、それぞれ過量摂取した時の中毒症の病態が似ているのも、化学構造がほぼ同じであることを見れば納得できますよね。

テオフィリン、カフェインの化学構造

最近ではX線結晶構造解析も進み、生体内リガンドに似ている構造ではないものでも同種同効薬として開発されることがあります。

化学構造が違っても同じ作用?

先述したように、X線結晶構造解析技術が進み、同種同効薬を開発するのに必ずしも生体内リガンドと似ている必要がなくなってきています。

これもファーマコフォアという特徴から同じ受容体に作用している説明になります。

オレキシン受容体拮抗薬の ファーマコフォア

スボレキサント(ベルソムラ®︎)とレンボレキサント(デエビゴ®︎)の化学構造式を見てみましょう。

スボレキサント(ベルソムラ®︎)、レンボレキサント(デエビゴ®︎)の化学構造

もはや共通点などほとんどないように見えますね笑

細かく見れば似た部分構造を持っているようにも見えますが、パッと一目でわかるような類似性は感じません。

受容体サブタイプへの親和性は異なるものの、それでも両者ともオレキシン受容体に拮抗作用を示す薬剤なのはファーマコフォアが似ているためです。

こちらも過去にファーマコフォアを比較した記事を書いています↓

ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬の ファーマコフォア

ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬も、近年はステロイド骨格を持たないものが開発されていて、受容体選択性の向上による副作用の回避が実現されています。

従来の薬剤はミネラルコルチコイドであるアルドステロン(ステロイドホルモン)に似た化学構造を持っていたため、ミネラルコルチコイド受容体以外のステロイドホルモン受容体にも作用してしまい副作用の原因となっていました。

これもファーマコフォアが解析され、ステロイド骨格を持たない薬理の最適化された薬剤が出ています。

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の化学構造
従来のMR拮抗薬(左)
新しいMR拮抗薬(右)

こちらも過去記事で詳しく解説しています↓

ファーマコフォア 、化学構造の有用性

2.2ファーマコフォア、化学構造でわかることでも書いたように、化学構造はいろんな情報を与えてくれます。

それらを活かすと以下のようなことを考えるのに役立ちます。

同種同効薬の比較

同種同効薬を比較するのに有用です。

もちろん、相互作用の類似/相違性が、臨床的にも意味があるものとは限らないので、ここの解釈は慎重である必要があります。

それでも、同種同効薬は基本骨格の同じ場合が多いので、部分構造や置換基の違いを見れば比較することができます。

アレルギーや過敏症の推測

ある成分にアレルギーや過敏症がある場合、それ以外の成分でも同様の反応が起きるかどうかは化学構造がとても役に立ちます。

臨床的な知見と合わせることで、より精度が高まり実用的になります。

副作用の見方にも通じる部分です。

相互作用や物性の推測

薬物間相互作用だけでなく食物-薬物間の相互作用や、物性(物理・化学的)、配合変化などの推測にも役立ちます。

脂溶性・水溶性、酸性・塩基性の情報以外にも、安定性(光・熱・水による分解性など)、溶解性や着色性などの情報を得ることにも繋がります。

遮光保存、冷所保存が必要な医薬品や、飲食物の影響を受けやすい医薬品など様々です。

化学構造を勉強するのにおすすめの本・書籍

最後に

化学構造やファーマコフォアを考えるといろんなものが見えてくるというのが少しでも伝われば嬉しいです。

最後に化学構造の勉強にオススメの本・書籍の記事も貼りました。

本来僕の中だけの虎の巻(大げさですが笑)な感じにしておいても良かったのですが、やはりこの分野はどんどん啓蒙していきたいので、読んだ内容と所感について共有させて頂くことにします。


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