「洞窟オジさん」に学ぶサバイバル人生

2024/03/23

読書

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今回は本の紹介です。僕の人生観を変えてくれた1冊です。

その本とはこちら、「洞窟オジさん」。


13歳のときに群馬県の自宅を家出して以来、43年間にわたって北関東周辺の山の中でヘビやウサギを食べながら生きていたという男性の回想録。より正確に言うと、本人が話した内容をライターが筆記した口述自叙伝。もちろんノンフィクションです。

僕はこの本を読み終えたとき、「これはまさに現代のロビンソン・クルーソーじゃないか! 今の日本列島に、貨幣経済に組み込まれていない正真正銘の狩猟採集生活者がいたなんて…」と驚愕してしまいました。

とにかく普通の日本人―――屋根と壁のある家に住み、洋服を着て、お金を払って手に入れた食べ物を当たり前のように食べている人々―――からすれば、想像もつかないようなサバイバル人生です。

というわけで、この方、加村一馬さん(今もお元気なら77歳)の半生を、この本に基づいて超ダイジェストで辿ってみます。


13歳で家出して廃坑道に住みつく

加村さんは敗戦翌年の1946年(昭和21年)、関東平野の北端に位置する群馬県大間々町(現みどり市)で生まれました。人並み外れて家が貧しく、兄弟も多かったため、幼少期からよく野山で山菜や川魚を獲って空腹を満たしていたといいます。

空腹のあまり家の食材をつまみ食いすることも多く、そのたびに父親から殴られる毎日。ついに13歳のとき、すなわち1960年(昭和35年)、「もうこんな家にはいたくない」と思いつめて家出して、足尾銅山の洞窟(廃坑道)で愛犬シロと一緒に暮らし始めます。

そのサバイバル生活の記述が実にリアルで興味深い。

洞窟の中にかまどのような火床を設けて暖を取り、敷き詰めた丸太の上に枯草を重ねてベッドにする。

食事はカタツムリやヘビ、ネズミを捕まえ、焼いて食べる。

体調を崩して熱を出したら、焼いたミミズを煮え湯に入れて飲む。

……といった感じで、幼少期に身につけたサバイバル知識を総動員してたくましく生き抜いていきます。

髪の毛を燃やしてヘビを誘い出す

特に僕が「へえっ」と感心したのはヘビの捕らえ方。少し引用してみましょう。


ヘビのつかみ方は親父のやり方を見ていたのでわかっていた。まず自分の髪の毛を数十本鉈で切り、燃やす。そうすれば、焼けたにおいに誘われてヘビがニョロニョロとはい出してくる。そこで後ろから首根っこをつかんで、口のところを持って尾に向かって一気にバリッと裂くんだ。こうすればはらわたもきれいに取れる。首をもぎ取り、肉は食べやすいように木の枝で叩き、ヘビに多い小骨を粉々に砕いておく。


どうですか、この手際の良さ。

僕も四国の田舎育ちなので、少年時代にアオダイショウやシマヘビを捕まえて遊んだ経験はあるけど、さすがにこんな知識は持っていません。脱帽です。

それにしても、人間の髪の毛を燃やすとヘビが集まってくるって本当なのでしょうか?

本書によると、加村さんの父親は、効率よくヘビを捕まえるために、よく床屋から捨てる予定の髪の毛をもらっていたそうです。気になった僕はインターネットで色々調べてみたけど、結局のところ、真偽はよくわかりませんでした。どなたかヘビの生態に詳しい方、教えて下さい。

さて、こんな生活を何年も続けているうちに加村さんのサバイバルスキルはどんどんレベルアップし、罠を仕掛けてイノシシを仕留めるまでに成長しました。

その一方、彼は愛犬シロとは死に別れ、その悲しさから逃れるように足尾銅山を去り、北関東を中心に新潟、福島、山梨あたりの山々を転々としながら放浪生活を続けるようになります。

日本が高度経済成長を遂げたことも、東京オリンピックが開催されたことも、世の人々がバブル経済に浮かれていたことも知らないまま……。

なお、さきほど加村さんのことを「貨幣経済に組み込まれていない狩猟採集生活者」と書きましたが、厳密にいうと、こんな彼も各地を転々とする中でたまに下界の人々と遭遇することがあり、山菜を売って現金を手に入れたりもします。

かと思えば、山中でクマに襲われ、その手首を鉈で切り落して返り討ちにするという、命がけの経験をしたりもします。



自販機荒らしがきっかけで放浪生活に幕

さて、そんな想像を絶する生活を続けていた加村さんに、人生最大の転機が訪れたのは2003年(平成15年)のこと。すでに50代半ばになっていた彼は、このころ人里近くに活動の場を移し、茨城県の小貝川の河川敷で釣りをしながらホームレス生活を送っていました。

ある時、何日間も魚が釣れなくて腹をすかせた加村さんは、小銭ほしさから近くにあった自動販売機をこじ開けようとして通報され、窃盗未遂容疑で逮捕されます。そして、警察による取り調べの中で、彼の驚くべき半生が明らかになったのです。


この時点で加村さんの両親はすでに世を去り、彼自身の戸籍は削除されていたそうです。結局、裁判所で執行猶予付きの判決を受けた加村さんは、マスコミ報道によって一躍時の人となりました。

この僕も当時、新聞記者をしていましたが、彼のニュースを耳にしてびっくり仰天した記憶があります。

ああ、今の日本にこんな人間が実在するのか、と。しかし、あのときのニュースの主がこれほど壮絶な体験を積み重ねていたとは、この本を読むまで全く知りませんでした。

もちろん、加村さんの人生はまだまだ続きます。この本では、彼が社会復帰した後の様子も色々とつづられているのですが、その辺りは省略します。だって、僕にとってはサバイバル時代の方がはるかに面白いから。

小野田少尉を超える逸材か

振り返ってみれば、僕は物心ついたころからこういう人間に憧れてきました。

ロビンソン・クルーソーの物語を読み、そのサバイバル能力に感動したのは小学生のころ。フィリピンのルバング島で30年近くジャングル生活を続けた旧日本軍の小野田寛郎少尉の著書を読み、その任務遂行力と生命力に驚いたのは大学生のころでした。


ですが、ロビンソン・クルーソーは架空の人物であり(モデルはいるらしいですが)、小野田少尉は陸軍中野学校でゲリラ戦のノウハウを叩きこまれたある意味特別な人間です。

しかし、この加村さんは違います。

人並外れて貧しい家庭に育ったとはいえ、どこにでもいるような普通の少年だったはず。その彼がこれだけのサバイバル生活を成し遂げたのだから、小野田少尉以上の逸材と言うべきかもしれません。いずれにせよ、世の中には驚くべきサバイバル能力を持った人間がいるのだなと思い知らされました。

はっきりいって、彼のこの壮絶な人生を知ってしまうと、サラリーマンが早期退職することなんて冒険でもなんでもない、という気がしてきます。ましてや、「株式市場の大暴落が怖い」とか「生活防衛資金がいくら以上ないと心配だ」とか言ってる自分が、いかにちっぽけな存在であることか……。

そういう意味で、最初に述べた通り、この本は僕の人生観を変えてくれた1冊となりました。

圧巻の巻末付録

最後にひとつ付け加えておくと、この本、加村さんの話し言葉でつづられた本文も面白いのですが、巻末の特別付録「洞窟オジさんのサバイバル術」がさらに圧巻です。

加村さんの体験をもとにヘビ、ネズミ、コウモリ、ウサギ、イノシシといった野生動物の捕獲方法や調理方法、山中で野宿する際のねぐらとなる穴の掘り方、枯れ草を使った寝床の作り方などを懇切丁寧に解説しているのですが、そこに添えられたイラストがめちゃくちゃ味わい深い。

これを描いたのは、後藤範行さんというイラスト作家で、僕はいっぺんにファンになってしまいました。

しかも、この特別付録、加村さんのテクニックをさんざん紹介したあとで「これらのサバイバル術は、あくまでも加村さんが43年間、実践してきた方法です。危険ですので、絶対に真似をしないでください」とエクスキューズを打っているあたりがまた最高!

ちなみに僕は、髪の毛を焼いてヘビを誘い出す技だけはそのうち試してみたいと考えています。

みなさんもぜひ、本書を読んでサバイバル人生に思いをはせてみて下さい。


電子書籍版はこちら。


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コロナ禍のなか、45歳で新聞社を早期退職し、念願のアーリーリタイア生活へ。前半生で貯めたお金の運用益で生活費をまかないながら、子育てと読書と節約の日々を送っています。

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