【怖い話42】電話ボックス

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心霊系の怖い話

よくある怖い話

 調べたわけではないが、おそらくどの都道府県にも『幽霊が出る電話ボックス』という怖い話はあるのではないだろうか?

かくいう私が住む県にも、そう囁かれる電話ボックスがあった。※ 現在は撤去されている。

 しかし私は常々疑問に思っていた。

視世陽木
視世陽木

なんで電話ボックスに幽霊がいるんだろう?

もしそこで亡くなった人の霊だというなら納得はいくが、そもそも電話ボックス内で亡くなること自体が稀有なはずだ。

 問いかけた相手はもちろん坂本。

坂本
坂本

知らねえよ。

何か未練があったりして、生きてた頃の記憶を頼りに誰かに連絡したいんじゃねーの?

 返事はすげないものだったが、内容は的を射ていた。

視世陽木
視世陽木

じゃあ電話ボックスに現れる霊は、その誰かと連絡がつくまで成仏しないのかな?

坂本
坂本

そうかもしれないし、時間の経過で諦めたり忘れたりするんじゃね?

視世陽木
視世陽木

忘れる?

坂本
坂本

自分が誰に連絡したかったか、何を伝えたかったか、それすら忘れてしまうぐらい長い時間そこにいるんだとしたら……

 最後まで言わずに坂本は黙った。

視世陽木
視世陽木

電話ボックスに関するイタズラも多いし、いろんな噂が混在して幽霊側も戸惑ったりするのかもな。

 ついそんなことを考えてしまった。

夜に無人の公衆電話が鳴るという怖い話は、9割方はいたずらだと考えている。

『59話 ピンク電話』で書いたように、公衆電話にもそれぞれ番号が割り振られているので、番号を把握して電話すれば鳴るのが道理だ。

しかも番号は筐体の裏に書かれていることが多いため、比較的誰でも知ることができる。

地元の心霊電話ボックス

 私の住む県にあった電話ボックスは、山沿いの道に設置されていた。

設置された当時はどうだったかわからないが、周囲に民家が少なく、電話ボックスが使われそうにない場所だった。

 オカルト好きな友人や先輩が何度かその電話ボックスを夜中に見に行ったらしいが、誰も何も視ることはなかったという。

お調子者がふざけて電話ボックスに入ったらしいが

なんてことない、普通の電話ボックスだったよ。

と笑っていた。

 過去の地方紙を調べてみても、その電話ボックスで誰か亡くなったというニュースを見つけることはできなかった。

 しかしある程度幅広い世代で「あそこの電話ボックスは幽霊が出る」という噂が知られており、明確な根拠もないのに噂が広く知れ渡っていることが怖かった。

 そんなある日、「あの電話ボックスで幽霊を視た!」という人物が現れた。

噂話に飽きがきていた私の心は躍ったが、そう発言した人物の名前を聞いて冷めてしまう。

なぜなら、発言者は同じサークルの先輩だったのだが、様々な心霊スポットに行っては「幽霊がいた!」「追いかけられた!」などと言って、注目を浴びたいだけの人だったからだ。※ 偏見などではなく、陰で本人が「俺、霊感なんてまったくないんだよ。」と話していたのを聞いた。

 完全に冷めきった私と坂本の視線に気づかず、先輩は後輩達に嬉々としてその時の話(おそらく作り話)を聞かせていた。

私と坂本は少し離れたところで聞き流すようにしていたのだが、途中で私にしか聞こえないぐらいの小さな声で

坂本
坂本

電話ボックスに出る幽霊って、だいたい女って設定だよな。

と坂本が嘲笑する。

 先輩の話もそうだったが、えてして日本の怖い話は主役たる霊が女性であることが多い。

歴史ある怖い話だと白装束に天冠というスタイルの幽霊がパッと思い浮かぶが、近年の幽霊のイメージは白いワンピースをまとった長い黒髪の女性というのが圧倒的だ。

これは大ヒットホラー映画に出てくる半端ない呪いの力を持った女性の霊から来たイメージだろう。

 そんなことも相まって、私も

視世陽木
視世陽木

どうせ白い服で長い髪の女だぜ。

と囁くと、案の定その先輩が「白い服を着てて、顔は長い髪で隠れてて見えなかったんだけど……」と言い出したため、笑いをこらえるのに苦労した。

考察

 しかし今回話したいのは、こんな作り話ではない。

本当に怖かったのは、坂本が後に語った考察だった。

坂本
坂本

たぶん、人間のイメージが電話ボックスの幽霊を作り上げたんだと思う。

 彼は真面目な顔をして言った。

視世陽木
視世陽木

どういうこと?

坂本
坂本

不幸の手紙なんかと一緒ってことだよ。

 取り立てて事件や事故があったわけではないのに、噂話に煽られて不安感や恐怖心が作り出されてしまうようなものだ。

坂本
坂本

繁華街の電話ボックスならそうでもないけど、人気のない道にポツンと佇む電話ボックスなんて、いかにもって感じじゃん?

だからこそ、『幽霊がいるんじゃないか…』『何か理由があって残されてるんじゃないか…』と、邪推されてしまうのかもしれない。

視世陽木
視世陽木

その結果、居もしない幽霊が生まれたと?

坂本
坂本

もちろん俺の想像でしかないけど、そう考えれば辻褄が合うんだよ。

 辻褄が合うとはどういうことかと小首を傾げると、「電話ボックスに出る幽霊が女性ばっかりな理由だよ」と、彼は続けて説明してくれた。

坂本
坂本

幽霊といえば白い服で黒髪の女性っていうイメージが強いからこそ、作り出された幽霊はイメージのままの姿なんだよ。

 坂本のこの解説に、私は感心してしまった。

これほどまでに納得がいく説明があるだろうか?

 偶発的なことを含めれば、幽霊が出る電話ボックスは存在してもおかしくない。

俗に浮遊霊と呼ばれる霊がたまたま電話ボックスを通る姿を、霊感が強い人や波長が合った人がたまたま目撃してしまい、「あの電話ボックスには幽霊が出る!」となるケースだ。

しかしこの推測が正解なら、その霊は男性でも差し支えないし、白いワンピースを着た黒髪ということもないだろう。

視世陽木
視世陽木

人間が作り出してしまったんだな……

坂本
坂本

だからこそ成仏しないんだよ。

別に未練があるわけでもないし、思いを伝えたい人がいるわけでもないからな。

 坂本の考察に思わず身震いすると、彼はさらに付け加えた。

坂本
坂本

俺も不思議に思ってたんだけど、今って公衆電話はめちゃくちゃ減ってるだろ?

視世陽木
視世陽木

携帯電話が普及したからな。

坂本
坂本

でさ、撤去された電話ボックスには、幽霊が出るって噂されてた電話ボックスもあるはずだろ?

視世陽木
視世陽木

撤去数からしたらその可能性は高いだろうな。

坂本
坂本

じゃあさ、本当に電話ボックスに幽霊がいたとしたら、電話ボックスがあった場所に未練がましく残るか、別の電話ボックスに移動すると思わないか?

 もしくは電話ボックス自体に思い入れがあった場合、回収先までしつこく憑いていくだろう。

坂本
坂本

でも、そんな話は聞かないんだよ。

撤去しようとした業者が呪われたとか、撤去後の保管場所に幽霊が出たとか、話としてはあってもよさそうじゃん?

言われてみれば確かに、電話ボックスが撤去されてなお佇んでるとか、別の電話ボックスに幽霊が2体出るようになったという類の話は聞いたことがない。

電話ボックスにまつわる怖い話を全部知っているわけではないが、坂本が言うように、曰く付きの電話ボックスも撤去されているはずなのだから、派生した話があってもおかしくはないはずなのだ。

なんせ2000年には約74万台あった公衆電話が、2020年には約15万台にまで減じているのだから。

坂本
坂本

そういう後日談が出ないってのも、電話ボックスの幽霊が人間によって作り出された存在だって根拠の1つになるんじゃないか?

あくまで電話ボックスに幽霊が出ることイメージしたのだから、電話ボックスがなければ考えなくなり、忘れ去られていくのだろう。

 これで話は終わりだと言わんばかりに私に背を向けた坂本。

ぐうの音も出ない彼の考察を受けて、私は改めて人間の怖さを思い知った。

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コメント

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