このままでは飢える! 食料危機への処方箋「野田モデル」が日本を救う

このままでは飢える! 食料危機への処方箋「野田モデル」が日本を救う

この本は意外にも分厚いですが、読みやすく、一気に読み終えることができました。筆者は様々な観点から、近い将来に起こりうる世界的な食料危機について議論し、特に日本が直面する危険性が非常に高いと指摘しています。食料自給率が38%と報告されていますが、種の輸入などを考慮に入れると、実質8%まで低下するとのことです。

筆者が提示する様々な危険性には、しっかりとした根拠があり、それによって説得力を持っています。本書で取り上げられている「野田モデル」とは、ある野田さんが開発した新しい農産物の直売モデルのことで、このモデルでは直売所が規模を拡大し、生産者が新たな販売チャネルを持つことが可能になります。これにより、将来に希望を持てると述べています。

私はこの本の多くの原因や予測には賛成しますが、農政を変えることに関する最後の期待には懐疑的です。もちろん、可能な限りこの方向への変化を試みることは重要ですが、それに先立って、自分の自給力を100%に高めることが最も実現可能で重要だと感じます。そのためには兼業農家になることが最善の策であると強調したいです。このような取り組みが、個々の生活だけでなく、国全体の食料自給率を向上させる鍵となるでしょう。

本の概要

いま、日本の食料事情がかつてないほどの危機に瀕している。そしてこう警告する「このままでは、間違いなく近い将来、日本を飢餓が襲う」と。著者はこうした状況に至った主な4つの理由を「クワトロショック」と呼び、度々警鐘を鳴らしてきた。「クワトロショック」とは以下の通りだ。
(1)コロナ禍による物流の停滞
(2)中国による食料の「爆買い」
(3)異常気象による世界的な不作
(4)ウクライナ戦争の勃発

こうした地球規模ともいえる動向の変化は、ただでさえ厳しい状況下で生きる日本の農業従事者をさらなる苦境へと追こんだ。コロナ禍による物流の停滞は、生産物の価格上昇を招き、消費者の購買、消費を著しく低下させた。また、ロシアのウクライナ侵攻によって、現在の日本農業には欠かせない化学肥料の価格が高騰し、生産者の経済的負担を著しく悪化させた。経済の低迷によって購買力を低下させた日本は、農業生産物の購買はもとより、肥料、飼料などの農業資材、畜産資材の購買においても、中国の爆買いをはじめとして、国際競争力を失いつつある。

そして、近年続く異常気象によって壊滅的被害を被った生産者も数多い。こうした状況下、日本の農業従事者の数は右肩下がりに低下している。結果、日本の食料自給率はますます低下をつづける。「食」は生命の源だが、このままでは「食」を支える農業が成り立たなくなるのは火を見るよりも明らかだ。こうした日本農業の危機、それによって食料自給率の低下は、「日本の飢餓に直結する」と著者は警鐘を鳴らす。

本書において、こうした状況を招く要因となった戦後の米国の対日本戦略、近年の新自由主義者主導の「今だけ、金だけ、自分だけ」政策の問題点を明快、かつ構造的に抉り出す。そのうえで、この「食」をめぐる現代日本の状況をドラスティックに変えるシステムとして、和歌山で誕生した「野田モデル」をあげる。「野田モデル」は、生産者の利益を最優先しながら、消費者の購買志向に合わせた生産物を流通させるシステムで、これまでとはまったく異なる「直売所」である。この「野田モデル」は多くの生産者が抱えていた構造的問題打開の突破口となり、2002年第1号店設立以来、現在では和歌山県をはじめ奈良県、大阪府などで30店舗以上を展開している。農産物だけではなく水産物の取り扱いも開始した。現在では、関東エリアでの展開も始動しつつある。著者は、絶望的状況にある日本の食料事情において、その状況を救う確かな光明として位置付ける。日本の「食」の危機と解決策を考えるうえで、最上の書といえる。

著者 鈴木 宣弘

1958年三重県志摩市生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科教授。1982年東京大学農学部農業経済学科卒業後、農林水産省に入省。九州大学大学院教授などを経て、2006年より現職。コーネル大学客員教授、食料・農業・農村政策審議会委員、経済産業省産業構造審議会委員、国際学会誌Agribusiness編集委員などを歴任。食料安全保障推進財団・理事長。
著書は2022年食農資源経済学会学会賞を受賞した『協同組合と農業経済学 共生システムの経済理論』(東京大学出版会)、一般書としては『食の戦争』(文春新書)、『農業消滅』(平凡社新書)、『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社+α新書)、『マンガでわかる 日本の食の危機』(方丈社)など多数。

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