コンテナガレージ

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手紙とは本心を伝えるデバイスである1-2

「ああ、すいません。気にしないでください。今は休憩中ですから」

「はっきりと仕事と休息を分けていらっしゃる?」

「一人の仕事ですし、ペースは人それぞれ。仕事によっては時間の使い方を変えたほうが、よりよい効率や仕事の出来栄えに繋がる。一日だけなら体は堪えてくれるが、数週間、数ヶ月単位であると、日々の疲労は非効率となって襲ってきます。安易に今日だけなら、という誘惑に駆られないように、こうして日々のメンテナンスが欠かせないんですよ。エレベーターもそういえば、点検をしてました」

「差し支えなければ……、社長に何を進言しようとしていたのでしょうか」話題を逸らしかけた、熊田は見逃さない。

 武本はコーヒーを一口飲む。躊躇って息を吐いた。明らかに言いにくそうな雰囲気である。「……都市開発の事業を前々から頼まれていました。私の専門外の仕事なので、内密にお願いします」武本は小声で話す。

「なぜ、内密にする必要があるのです?」

「建築に関する仕事、建築デザインは専門が設けられて、仕事はそこへ流れるようになっています」

「益々、理解に苦しむ。専門も窓口が用意されるのでしたら、あなたに仕事が舞い込むことはないのでは?」

「私は個人的な仕事も請け負っています。会社の仕事と個人名、名指しで過去の仕事が評価されたので、単体で仕事もこなす立場です。当然のごとく、会社の仕事もこなし、個人の仕事も期日は一日限り。それができないようなら、会社の仕事に専念するか、独立して個人の仕事を請け負うかの選択を迫られる。ただ、私は両方をこなしている身ですので、個人的に私宛に送られる、今回のような特殊な、つまり他の領域を侵した仕事も舞い込んで来るのですよ」

「しかし、会社が目を通しているのですよね、依頼内容には」

「たぶん。見られているでしょう」

「建設に関する知識があなたにはない、だから、請け負えないと、私は思えません。むしろ、デザインならば新しい発想、凝り固まった"かつて"を払拭する新しい風のようなアイディアが求められる」

「ええ、刑事さんのように理解してくださる方もいますが、建築は長期間、それそこ数十年、デザインが残るので、あまり奇抜な建物はうちの会社でも作らないよう決めているのです。元々社長も建築に関しては後から始めた事業、専門からは程遠い。それに住まいは、シンプルがもっとも長く使われ、奇抜さよりも落ち着きが通年に影響を与える、これが私たちや会社の意見です。しかし、私がもし手がけると、その培ったある種の伝統のような会社のテーマを崩しかねない、デザインする前から懸念はおかしいですが、……それで社長に相談に伺ったのです」