コンテナガレージ

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手紙とは本心を伝えるデバイスである1-3

「前例を壊すような印象でした、先ほどのお会いした場面では」社長室で捉えた武本タケルの第一印象をはっきりと言葉に変える。既存に縛られない、先端、エッジの効いた鋭さ。

「いつも既存の形を壊しているわけではありません。エレベーターだって、もう何十年もあの形です。時にははじめから最良の形というものもあれば、時代によって変わるべきものもあるのです。まあ、大抵は耐用年数に応じて形態は変わりやすい性質。ですが、例えば、ペンなどはあまり形が変わらない、変わる必要がないからです」

「そうですね」熊田は相手の言葉が切れたのでカレーを口に運んだ。複雑な味が高濃度に染み込むルーが深い味を作り出していた、口の中で滞在をやめない。毎日は食べられない、重たい味。「社長さんとは個人的な面識はあったのですか?あなたの名前を知っていたのですかね?大きな会社ですから、一人一人の名前を覚えるのはさぞかし大変でしょう」

「さあ、どうかな。接触の機会も少ないですし。会議では座る場所は大抵、ばらばら、しかし、社長は私の質問には私の顔を見て答えていたと思います」

「コンサートで歌手が自分と目があったという錯覚ではありませんかね」

「いいえ、距離が近いですから。刑事さんは、冗談も言うんですか」

「私はまじめに質問したつもりですよ」熊田は水を流し込んだ。「あなたは最初に会議室に訪れた。そして、次に安藤アルキさんがやってきて。しばらく、十分ほどですか、室内で待ったが、一向に社長が姿を見せない。そこで、二人はドアを開けて、社長室を覗いた。あなたが会議室に入った正確な時間は覚えていますか?」

「どうでしょうか。会議は十二時に始まる予定でしたので、その十分前には入っていたと思います」

「セキュリティについては、開錠の時間などは記録されているのでしょうか?」

「どうかな。警備に聞いてみては。私は専門外なので。思うに、ロックの時間を記録しているとは考えにくい」

「なぜそう言い切れるのです?」簡単にすり抜けようとする、相手の裾を掴む。

「会議が始まる十分前までに当日会議に出席する人物は事前に登録されて、それ以外の人物、設定時間外は社長室のある六階フロアには入れませんし、降りられません」

「だから、十分前にあなたは会議室にいたと証言できる」

「まあ、そういうことです。だからこそ、時間に厳しい社長の様子が気になったのです」

「ありがとうございます。……大変参考になりました」熊田は武本を邪魔者扱いするように、カレーをかっ食らう。

「もう、私戻りますよ」腰を上げた、武本の皿に乗ったどら焼きは消えていた。

「ええ、どうぞ、はぐっつ。仕事に戻ってください。また、お帰りになる際に声をかけるかもしれません」