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動詞 ausgehen

ドイツ語には本当に多義語が多いです。いやまあドイツ語に限ったことではないんですが。 今回はそんなドイツ語の動詞の中から aus|gehen という自動詞を取り上げてみようと思います。特に気象に関係する動詞、というわけではないのですが、ちょくちょく見かける上にいろんな意味で用いられているので前々から気にはなっておりました。 ところで、英語で動詞 aus|gehen に語形的に対応する語は、おそらく go out ではないかと思われます。実際ドイツ語の aus|gehen にも「出る」「外出する」という文字通りの意味はあります。 ただ、ドイツ語の aus|gehen の場合、そこから「尽きる」「なくなる」「〜という結果に終わる」、さらには「議論の出発点とする」「想定する」など実に様々な派生義でも用いられています。実際辞書を見ても、意味分類の仕方は様々ではありますが、例文量は派生義の方がはるかに多いくらいです。 なので、今回はドイツ気象局の、主に気象ブログの例文から、この動詞の様々な用法についていくつかご紹介してみようかと思います。さすがに全ての意味を網羅的に扱うことはできませんが、よく見かける例を中心に取り上げていきます。なお、今回の翻訳文例はいつにも増して直訳と意訳が混在した不自然な訳文になるかと思います。あらかじめお詫びしておきます。 まずは与格を取る例文から比較的わかりやすいものをいくつかあげてみます。 Tief ANDREAS geht allmählich wortwörtlich die Puste aus , wird er doch zwischen einem Hoch im Westen und einem Hoch östlich von uns "eingeklemmt", wodurch er sich mehr und mehr auflöst. 低気圧 ANDREAS は次第に文字通り 息が切れる 。しかも西の高気圧と、我々の東にある高気圧との間で身動きが取れなくなって(字義:「挟み撃ちに遭って」)しまうため、次第に消滅してしまう。 ドイツ気象局の

降雨にまつわる様々な語句、文表現

降雨にまつわる表現のうち、 Regen (m. -s/-) およびその派生語については既に以下のページでも触れていますので、そちらもご覧ください。 Regen 「雨」、 regnen 「雨が降る」、 regnerisch 「ぐずついた」 Regen 「雨」を基礎語とする複合語 Regen 「雨」で始まる複合語 また、降雨をはじめとする降水現象の開始や終了などを表す表現については以下も参考になるかもしれません。 気象の発生・持続・解消をあらわす語句、文表現 以下では上記のリンクで触れられなかった表現を中心にいくつかランダムに取り上げていこうと思います。多少かぶるネタもあるかもしれませんがどうかご容赦くださいませ。 降雨の発生、雨(粒)の落下 単純に降雨の発生を表すだけであれば、上のリンクでもあげた es gibt Regen Akk . 「降雨がある」や es entsteht Regen Nom . 「降雨が発生する」などのような表現がまずは考えられます。これらの一般的な表現は Regen に限らず様々な降水現象とともに用いることができます。 雨や雨粒の「落下」を具体的に表す表現としては、単純に落下物を主語として fallen 「落ちる」を使うことも多いですし、 nieder|gehen 「降る」、 nieder|schlagen 「降水がある」、 nieder|prasseln 「雨あられと降り下る」など前綴り nieder- を付加した動詞や、 herunter|gießen 「(天から)降り注ぐ」など前綴り herunter- を付加した動詞を使用したりなど、様々な表現があり得ると思います。 変わったところでは、 ab|laden 「(荷を)下ろす」や sich Akk entladen 「(負荷が)下ろされる」などの動詞を用いた表現をたまに見かけます。 Zudem sorgen die schwachen Höhenwinde dafür, dass sich

天気・天候を表す非人称構文

ドイツ語には中性単数の3人称代名詞 es を主語とした非人称構文があります。これは例えば英語の it rains. 「雨が降る。」などに相当する構文ですが、英語よりもやや頻繁に用いられるようです。用法は多彩ですが、中から天気・天候に関係したものをいくつかピックアップすると、以下のようなものがあげられます。和訳は大体の仮訳です。 降雨 es regnet. (雨が降る)/ es gießt. (雨が滝のように降り注ぐ)/ es schüttet. (雨が土砂降りである)/ es nieselt. (霧雨が降る)/ es tropft. (雨がポツポツと降る)など 降雪 es schneit. (雪が降る) 降雹 es hagelt. (雹が降る)/ es graupelt. (あられが降る) 露・霜 es taut. (露が下りる or 雪や霜、氷が融けてぬかるむ)/ es reift. (霜が降りる)など 風 es weht. (風が吹く)など 発雷 es blitzt. (稲妻が光る)/ es donnert. (雷が鳴る)/ es wetterleuchtet. (幕電が光る)/ es gewittert. (雷雨がある)など その他 es nebelt. (霧が発生する)/ es friert. (凍る)など 他にも辞書を引けば非人称用法の記述のある動詞はいくつも見つかります。また、これらの中には何らかの名詞を主語に置いて、人称動詞としても用いることが可能な動詞(例えば Der Himmel regnet. (空から雨が降ってくる)や Konfetti regnet. (紙ふぶきが舞う)の regnen など(小学館「独和大辞典」コンパクト版の regnen の例文より))や、むしろ人称動詞としての用法の方がメインの動詞もあります。 元々このタイプの非人称動詞は、特に主語や目的語とな

Regen 「雨」で始まる複合語

Regen- で始まる語は結構多いので、ここでは比較的よく見かける語に絞って紹介したいと思います。 降雨現象 降雨現象そのものを表す語としては、まずは Regenfall (m. -(e)s/-fälle) 「降雨(字義:雨の落下)」があげられます。通常は Regenfälle のように複数形で用いられることが多いようです。後半の Fall (m.) は「落下」を意味する一般的な名詞で、ドイツ語では雨も「落ちる」 ( fallen ) ものとして扱われます。英語やフランス語も同様で、落下を意味する動詞は降水の意味でも使えます。当たり前だろ、と思われるかもしれませんが、例えば日本語では雨はあくまでも「降る」ものであって「落ちる」ものではありません。(日本語で「落ちる」のはあくまでも「雨粒(あまつぶ)」や「雨滴」「雨だれ」などであって、雨そのものが「落ちる」と表現されることはありません。)当ブログ筆者が大学時代に研究対象にしていたとある中東の言語でも、降水現象には「下りる」「下る」くらいの意味を持つ別の動詞が使われ、「落下」を意味する動詞は使われていませんでした。他にもそういう言語は探せばそれなりにあるのではないかと思います。 雨滴、雨雲 その「雨つぶ」は、ドイツ語では Regentropfen (m. -s/-) (字義:雨のしずく) と呼ばれます。(ちなみに雪の場合は Schneeflocke (f. -/-n) 「雪片」という言い方をします。)それらが形成される場所である「雲」は Wolke (f. -/-n) といいますが、雨を降らせる雲であれば Regenwolke (f. -/-n) という言い方がされることも多いです(通常は複数形 Regenwolken の形で使われます)。文字通り「雨雲」です。雨雲が大量の水分を含んで大雨が降りそうになっている状態を指して、 regenschwer (adj.)(字義:雨で重い)という形容詞が使われることもあります。 にわか雨(驟雨) 「にわか雨(驟雨)」を表す語としては、通常は Schauer (m. -s/-) (英語の shower とも同根語です)が使われます

Regen 「雨」を基礎語とする複合語

ドイツ語で雨を表現する語はいくつかありますが、今回は Regen (m. -s/-) 「雨」を基礎語として、その前に何らかの要素を付け足すことによって作られた語を取り上げてみたいと思います。雨を表す語彙としては、他にも Schauer (m. -s/-) 「にわか雨(雪)」とか、あるいは Guss (m. -es/Güsse) 「どしゃ降りの雨(字義:注ぎ)」や Nass (m. es/ ) 「雨(字義:濡れ、お湿り)」などのような迂言的な表現もありますが、それらの語や表現については別稿にゆずるとして、今回は Regen を基礎語(一番最後に来る要素)とする複合語に限っていくつか見てみようと思います。 (なお、 -regen で終わる語は当然ながら全て男性名詞ですので、以下では文法表示の (m. -s/-) は省略しています。) Dauerregen Dauerregen は「長雨(字義:持続雨)」を表します。日本語の「地雨」と異なり、降り続いていればたとえ豪雨であっても Dauerregen です。警報基準としての Dauerregen は、 ドイツ気象局の警報基準 においては、予想雨量に従って3つの段階に分けられています。訳は仮訳です。 Dauerregen 長雨 25 bis 40 l/m 2 in 12 Stunden ( 12 時間に 25-40mm ) 30 bis 50 l/m 2 in 24 Stunden ( 24 時間に 30-50mm ) 40 bis 60 l/m 2 in 48 Stunden ( 48 時間に 40-60mm ) 60 bis 90 l/m 2 in 72 Stunden ( 72 時間に 60-90mm ) ergiebig er Dauerregen 長時間の大雨(字義:雨量の多い長雨) 40 bis 70 l/m 2 in 12 Stunden ( 12 時間に 40-70mm ) 50 bis 80 l/m 2 in 24 S

Regen 「雨」、 regnen 「雨が降る」、 regnerisch 「ぐずついた」

雨および降雨現象にまつわる語形、構文等は実に多彩ですが、以下では Regen (m. -s/-) 「雨」およびその派生語の中からいくつかを選んで紹介してみたいと思います。 名詞 Regen 「雨」、動詞 regnen 「雨が降る」 まず、「雨」を表す最も一般的な名詞は Regen (m.) です(英語の rain に相当)。動詞形 regnen 「雨が降る」「雨あられのように降り注ぐ」もこの Regen を動詞化したものです。 この動詞 regnen は、主に非人称動詞として es regnet. 「雨が降る」(英語の it rains. に相当)の形で用いられますが、非人称主語の es を伴ったままで対格名詞を支配して他動詞的に用いられたり、さらには主格名詞を主語において人称動詞的に用いられることもあるようです。 これにさらに前綴りを付加することによって様々な派生動詞が作られます。例えば動詞 sich Akk ab|regnen 「雨として降り尽くす」、 etw Akk beregnen 「全体に水を雨のように降らせる」「灌水する」、 verregnen 「雨で台無しになる」およびその分詞形 verregnet 「雨に降られた」「雨で台無しになった」などです。派生形容詞としては、 regnerisch (adj.) 「ひんぱんに雨の降る」「ぐずついた」のほか、 regenarm (adj.) 「雨量が少ない」、 regenreich (adj.) 「雨量が多い」等々、多くの派生語、複合語があります。 これら Regen , regnen の派生語、およびこれら以外の語句による雨の表現については、また別のページで改めて取り上げることにして、以下ではとある形容詞について少しばかり論じてみたいと思います。 形容詞 regnerisch 「ぐずついた」 形容詞 regnerisch は、雨が降りがちでぐずついている空の状態を指す言葉です。小学館『独和大辞典』コンパクト版 (1985, 1990) にも、 雨がちの、よく雨の降る;雨の降りそうな、雨模様の と

日本語の文献に見る「降水」

今回はドイツ語についてはちょっとお休みして、日本語の「降水」についてちょっと文献を漁ってみた結果を以下にまとめてみようと思います。 各種事典・辞書類の記述 まずは専門書の記述から。三省堂『気象ハンドブック』第三版 (2005) の定義によると、「降水」とは 17.2.6. 降水(雨) 水蒸気が大気中で凝結したり、昇華してできた水滴や氷片、あるいはそれらが凍結、融解してできた氷片、水滴などが落下する現象、または落下したものを降水(通常は雨という)という。雪などのように氷片による降水を区別していう場合は、これを固形降水という。降水量とは、ある時間内に、地表の水平面に達した降水の量をいい、水の深さで表す。(以下略) 朝倉書店『気象ハンドブック』第三版 2005年 pp.242-243. とのことです。これを見る限り、降水には「落下」の意味が重要であり、雨量枡で捕捉可能な形態を主に想定していることが見てとれます。 次に一般向けの辞書の記述を見てみます。まずは『大辞林』第2版(三省堂)から。 こうすい  かう― ① 【降水】 地上に降下する、大気中の水分。雨・雪・霰など。 三省堂『大辞林』第二版 1988年 p.824. 次に『日本国語大辞典』(小学館)の記述を見てみます。 降水  カウ― [降水][名] 雨および雪、あられ、ひょうなど、大気中で凝結した水蒸気で地上に落下し、水になるもの。 *英和和英地学字彙 (1914) 「Kōsui Precipitation, Meteoric Water 降水」 *伊吹山の句に就て (1924) 〈寺田寅彦〉「何ゆえにこのような区域に、特に降水が多いかといふ理由について」 (以下略) 小学館『日本国語大辞典』第二版第五巻 1972, 1979, 2001年 p.337. これらはよりシンプルな書き方にはなっていますが、どちらも落下する水分という定義がメインとなっており、「露」や「霜」についても同様に言及はありません。 寺田寅彦『凍雨と雨氷』 なお、上記の