お客様は神様です。16

お客様は神様です。

恐怖のあまり声が出なかったが、早く何かしらのアクションをとらないともっと近づいてきて声をかけられても困る。僕はドキドキする心臓よりも早く「はい!」と返事をした。

サラリーマンは、ゆっくりとした口調で「あのう。隣の席に座ってもよろしいでしょうか?」と聞いてきた。500席くらいある中からなぜか僕の隣に座りたかったようだ。よっぽど寂しいのか変人なのかどちらかだろう。きっと後者に間違いは無いが、迷惑なのは僕だ。

せっかくもう少しでご飯が食べ終わる所だ。色々とあったが、料理は僕なりに美味しく食べられていた。それなのに最後の最後に邪魔者が来るなんて、本当についていない。

だから人は嫌いなんだ。と心の中で思った。

僕は少し嫌な顔だったかもしれないが「え、あー。いいですよ。どうぞ。いいですよね?」と好き神に確認をした。

「ふぉ、ふぉ、ふぉ。そなたがいいのであればワシはかまわんぞ。」とまさかの僕任せで、心の中で「チっ」と舌打ちをしたが少し顔に出ていたのかもしれない。それを二人に見られた気がしたが構うもんか。どうせ二度と会うもんか。そしてここは現実ではない。と僕は割り切り、丁寧でも不愛想でもない、それなりの態度をしようと気持ちを切り替えた。

「あ、ありがとうございます。では、失礼します。」と言ってサラリーマンは下を向きながら僕の隣の席に腰かけた。

「ふぉ、ふぉ、ふぉ。おぬしはそうだな。見るところによると冴えないサラリーマンといったところか?ん、どうじゃ?」と神様は少しニヤっとしながら聞いた。

「はい、僕はサラリーマンです。冴えないというのも本当だと思います。何をやってもダメで・・・。」と、下を向いていたサラリーマンがこれでもかというくらいに下を向く。

「ふぉ、ふぉ、ふぉ。冴えないと言ってすまないのう。でもワシはおぬしが好きじゃぞ。」と好き神が出来ないウインクをしていたが、食べ物を食べたばかりなので少し気持ちが悪くなった。

好き神からすればすべてが好きなのだろうか?と疑問に思ったが、これを聞いてしまえば「なんでも好きなのですか?」という質問になり、サラリーマンに失礼だと思い僕はその言葉を飲み込んだが、先ほどのウインクのこともあり、さらに気持ちが悪くなった。

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