(C)JULIYA MASAHIRO 『菜の花の群生!春の兆し!いかがお過ごしですか・・・(中略)・・・コロナ禍に一節、お見舞い申し上げます。・・・歌う“アマビエ”めざしてー!?(笑)・・・(以下、略)』

 RICOさんから、CDとともに、お便りをいただいた。運転中、眠りの前に聴き入る歌声に、うれしい新曲が加わる・・・RICO さんならではの即興唱のほか、Billy Joel のカバー「ララバイ」も入っている。・・・RICOさんのことを、随分前に連載中の月刊誌に書いていたので、そのまま掲載してみよう・・・RICO神島(りこ・かみしま)は、四国愛媛を中心に全国各地でユニークなアカペラコンサートを続けるヴォイスアーティストである。
奥深い地底から湧き起こるような魂を揺さぶる歌はもちろん、その天衣無縫のステージ衣装も彼女の魅力の一つである。
「衣装は筵(むしろ)の発想でまとう」という彼女のステージはまさに聴きもの見ものだ。


時折届く彼女の手紙には、いつも、生命ほとばしる透き通った言葉が添えられている。

 

 

     ☆    ☆    ☆

 「あなたは歌う人よ」と言われたふとしたきっかけが、二十数年も封印していた歌への情熱を沸々(ふつふつ)とよみがえらせた。
 歯科医の妻から、三人の子供を抱えたワーキングマザーへと、「女の一生」を地でいくような暮らしを経て、40歳半ばを過ぎてから歌手としてデビューした。
輝くブロンドにビビッドな衣裳をまとい、自らの声だけで歌うヴォイスアーティストRICO神島(愛媛県生まれ)のアカペラコンサートは、聴く人々の魂を揺さぶり、虜(とりこ)にする。
 「歌う人」の素地はあった。大学(声楽科)を出た20歳の頃、東京労音フォークソングコンテストに入賞した。また、日本室内合唱団に所属しテレビに出演もしていた。とはいえ、音楽活動から遠ざかっていたブランクは大きく、発声練習を積み重ねた結果、かつてとは違う今の声を得た。
 アカペラを歌うきっかけになった曲は、戦いと恋の歌・ブルガリア民族音楽「パルチザンソング(デリオは山に)」…四国を中心に全国各地で毎月「はとコンサート」を開くほか、毎年一回「からすコンサート」を開催。CDアルバムに「黄もくれん」「一輪の歌」他がある。

 
 天衣無縫のステージ衣裳

 そこには、奥深い地底から湧き起こるような声があった。
 愛媛の山あいの村にある、古い木造校舎…。
 「私の歌を精一杯伝えたい時にできることといったら、インパクトある衣裳選びと、より良い残響効果の得られる場所選びしかないんです」
 と言うだけあって、そのステージ衣裳たるや半端ではない。RICO神島は、プロのデザイナーも後ずさりしてしまうようなデザインを、次から次へとあみだしてしまう。
 また、コンサート会場も徹底して選ぶ。マイクを使わず、伴奏なしのステージで、声一つで思いを歌い上げるには、いかに建物と声を共鳴させるかの細かいチェックが必要なのだ。
 「歌のイメージや、聴きに来てくださる皆さん、そして、私のまわりの背景にも神経を使って、衣装を考えています」
 ステージ衣裳は、「和と洋」がほどよくミックスした魅力あるタイプばかりだ。
 元々、彼女は、若いときから、おしゃれは大好きで、かなりこだわって選び、様々なファッションにチャレンジしたと言う。結局、行き着いたところは、「コムデギャルソン」や「イッセイミヤケ」のものだった。そんなインパクトのある服を身につけていたせいか、自然とそれらからのインスピレーションが、今のステージ衣裳にも活かされている。
 しかも、「コムデギャルソン」のスパンコールの黒いキュロットパンツの片足を頭に被って帽子にし、片方は、安全ピンで止めて飾りにしたり、パニエ(ペチコートのようなもの)をそのままスカートにしたり、帯をリボンやロングスカーフにしたりと、自分流に新しく着こなしてしまう。
 「まず布(きれ)から入るんです。たとえばおもしろい古布(こふ)が手にはいると、歌とステージを思い描きながらデザインを考えるんです」

 そのデザイン哲学は、『巻く、繋(つな)ぐ、纏(まと)う』…一番簡単で、一番難しく、一番おもしろいものになる。
 「衣裳は筵(むしろ=ワラや竹などの植物を編んでつくった敷物)の発想でいいんじゃないかと思っているんです。
 夜鷹(江戸時代に、夜、道ばたで客を引いた女性)が、筵ひとつをもって、いとも簡単に、場面を転換できたように…。
 海のイメージが欲しいと思ったら、黄色のTシャツを着て、青い布をインドのサリーのように巻く。
 縫うのでなく巻くんです。だから、蚊帳(かや)だって、帯一本だって、安全ピンがあれば衣裳になる」
 “天衣無縫”という言葉そのものこそ、装いの神髄…。
 「高松塚古墳(美しい壁画で有名になった飛鳥時代の古墳)の、あの女人たちのイメージが、私の理想なんです」
                                            RICO神島 RICO神島

 アカペラを支えるエネルギー

 「元々、濃い黄色、ウコン色が、大好きなんですが、髪をブロンドに染めるようになってから、派手さに拍車がかかり、ビビッドカラーやパステルカラーなど、観る人が元気になるようなビタミンカラーが多くなりましたね」

(C)JULIYA MASAHIRO トレードマークになったブロンドは、ヘアーメイクのプロである長男が担当して、歌のイメージに合わせてアレンジしてくれる。長女は、インターネットを使ってステージ衣裳のヒントを探し出してくれたり、良きアドバイザーにもなってくれる。
 「今こうして歌っていられるのは、子供たちの理解と手助けがあるからこそです。それに何よりも、がむしゃらな私に、沢山の方々がエールをいっぱいくださっているからなんです」
 テレビも、南の国から放たれる不思議で熱いオーラに注目し、ゲストに招いたりドキュメンタリーに取り上げ、サポーターが集まって結成された「七百人の會」の活動も活発だ。
 原始的な喉声だけのアカペラは、実は、未知なる前衛の世界でもある。彼女は、その原点を忘れることなく、時代の求める歌手として、世界に向けて歌っていけるようになりたいと言う。
 「はとコンサート」の「はと」には集まるという意味があり、「からすコンサート」の「からす」には神様の使いという意味がある。
 「世界中の人々がすぐに分かって覚えやすいものにしたんです」

 その心にしみわたる声の響きは、まるで宙に浮く孵化器の中で、心地良い揺れに身を任せているような錯覚さえ起こさせてくれる。

《月刊誌連載記事より》
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