板橋区立美術館で開催中の展覧会、
“エド・イン・ブラック 黒からみる江戸絵画”に行ってきました。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
某ハリウッド映画を連想させる本展は、『黒』をテーマにした江戸絵画展で、
日本各地の美術館や個人が所蔵する約70点の作品が集結しています(一部前後期入替あり)。
それらの中には、名前からして本展にピッタリの墨江武禅による絵画もあれば、
墨江武禅《月下山水図》 江戸時代(18世紀) 府中市美術館
黒を基調とした、いわゆる「紅嫌い」の浮世絵の数々や、
手前)窪俊満《夜景内外の図》 天明年間(1781~89)末頃 個人蔵
伊藤若冲の拓本による版画巻《乗興舟》も。
伊藤若冲《乗興舟》 明和4年(1767)頃 千葉市美術館(途中場面替あり)
一口に『黒』といっても、実に多彩なタイプの『黒』が取り揃えられていました。
おそらく、アンミカが本展を訪れたなら(←?)、
「黒も200色あんねん!」と驚くこと請け合いです。
さて、細長すぎる長沢芦雪の《月竹図》や、
長沢芦雪《月竹図》 江戸時代(18世紀) 個人蔵
ろうけつ染めの技法を取り入れた抱亭五清の《汐汲図》をはじめ、
抱亭五清《汐汲図》 文政~天保年間(1818~44)頃 すみだ北斎美術館
(展示は前期のみ)
出展作品には、印象的なものが多々ありましたが、
個人的に強く印象に残っているのは、月岡芳年による《牛若丸弁慶図》です。
浮世絵の際のスタイリッシュなタッチとは違って、
こちらの肉筆画は、どこか劇画調でハードボイルドなタッチ。
『ビックコミック』感があります。
実は、この絵は芳年が酔った状態で、サラサラッと描かれたものなのだそう。
よく見ると、牛若丸の首が無いような?
描き終える前に、酔いつぶれてしまったのかも。
それからもう一つ強く印象に残っているのが、こちらの《星図》です。
森一鳳《星図》 慶応3年(1867) 個人蔵
作者は、森一鳳。
名前だけ見ると、宝塚歌劇団の団員のようですが、
猿の絵を得意とした森狙仙の養子の養子に当たる絵師です。
描かれているのは、夜空のみ。
過去に多くの展覧会で、多くの江戸絵画を観てきましたが、
これほどまでに斬新で、モダンな江戸絵画は初めて目にしました。
なお、星だけを描いた江戸絵画はやはり相当に珍しいようで、
キャプションによると、江戸絵画において他に作例は無いとのことでした。
ちなみに。
その隣に飾られていたのは、塩川文麟の《夏夜花火図》。
一昨年に府中市美術館で開催された展覧会で、
初めて目にした際に、やはりその斬新さに衝撃を受けた作品でした。
塩川文麟《夏夜花火図》 江戸~明治時代(19世紀) 個人蔵
描かれているのは、線香花火。
パチパチと爆ぜる火花は、金泥で描かれています。
煙の描写も実に秀逸。
暗闇の表現に関していえば、
黄金期のバロック絵画と比べてもまったく遜色ありません。
《星図》と《夏夜花火図》の競演が観られただけでも、本展を訪れてよかったです。
闇の表現と言えば、狩野了承の《二十六夜待図》も秀逸でした。
狩野了承《二十六夜待図》 江戸時代(19世紀) 個人蔵
二十六夜待とは、夜に集まって月の出を拝する行事なのだとか。
画面の下のほうをよくよく観てみると、
小さく人々のシルエットが描き込まれていました。
また、二十六夜待では、月光のなかに阿弥陀三尊の姿が現れるのだそうで。
月の光をよくよく観てみると、阿弥陀三尊のシルエットが確認できました。
パッと見、全体的にはただ黒っぽい絵ですが、
実は、随所に趣向が凝らされた見どころの多い絵。
素通り厳禁です。
ちなみに。
本展には、板橋区立美術館が所蔵する狩野了承の《秋草図屏風》も出展されています。
《秋草図屏風》は金屏風に秋草が描かれたもので、
作品自体には、ほぼ黒は使われていないのですが(サインくらい?)。
本展では、《秋草図屏風》を薄暗い空間にあえて展示しています。
狩野了承《秋草図屏風》 天保5年(1834) 板橋区立美術館
この空間は、作品が描かれた江戸の当時の夜の様子を再現するもの。
江戸の人々は、このような薄暗い空間で、
ろうそくや行灯の光で金屏風を目にしていたはず。
それが追体験することができる展示となっています。
なお、「明るさ」と「灯りのゆらぎ」は、
鑑賞者がコントロールで自由に調整できる仕様に。
黒との対比で金箔の輝きがより際立っていました。
金屏風の展示は、今後全部これでいいかも!