マリア・カラス・エヴァー! ロマンティック・カラス

私の伝記は、私が演ってきた音楽のなかにつづられているんです。音楽こそ、私が自分の芸術人生を表現できる唯一の方法なんですもの。それに、真価のほどはどうであれ、レコードが私の物語を刻んでくれているわ。
ステリオス・ガラトプーロス著/高橋早苗訳「マリア・カラス―聖なる怪物」(白水社)P13-14

いかにも晩年のマリア・カラスらしい言葉だ。
本人の言う通り、彼女の遺した録音はすべてが不滅の金字塔だと言っても言い過ぎではない。出来不出来はもちろんある。しかし、それについてはこの際云々しないことにする。

本を書いてもらえるなんて、内心ではすばらしいことだと思っているし、実際にすばらしいことなんでしょうね。でも、私には過ぎることだと思うのです。本に書かれるというと、すごく偉そうな印象を与えてしまいますが、私は偉大な音楽を自分なりの解釈で演じる者にすぎません。現に、自分はなんて平凡なんだろうと思ったり、くよくよ悩んだりしています。それというのも、私はほとんど到達不可能といえるような基準をみずからに課しているからです。公演のたびに、聴衆は熱狂してくれるけれど、本人はもっとうまくやれたはずだと感じているのですから。
(マリア・カラスのステリオス・ガラトプーロス宛手紙)
~同上書P12

煩悩即菩提。晩年になってほとんど悟ったかのような境地(?)にあったであろうカラスの本心は、近しい友人だからこその正直さと優しさに満ちている。こと芸術にかけては常に完璧を期した孤高のディーバは実に孤独だったのだろうと思う。

実際カラスの歌は永遠だ。カラスの歌は力強い。しかし一方で、どんなアリアを歌っても寂寥感がどこかに垣間見えるのだ。

・プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」第1幕より二重唱「可愛がってくださいね」
ニコライ・ゲッダ(テノール)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1955.8.1-6録音)
・シャルパンティエ:歌劇「ルイーズ」第3幕よりアリア「その日から」
ジョルジュ・プレートル指揮フランス国立放送局管弦楽団(1961.3.28-31&4.4-5録音)
・ヴェルディ:歌劇「リゴレット」第1幕より二重唱「愛こそ命、心の太陽だ」
ジュゼッペ・ディ・ステファノ(テノール)
トゥリオ・セラフィン指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1955.9.3-16録音)
・プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」第1幕よりアリア「おきき下さい、王子様」
トゥリオ・セラフィン指揮フィルハーモニア管弦楽団(1954.9.15-18録音)
・プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」第1幕より二重唱「おお、愛らしい乙女よ」
ジュゼッペ・ディ・ステファノ(テノール)
アントニーノ・ヴォットー指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1956.8.20-25&9.3-4録音)
・サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」第2幕よりアリア「愛よ、か弱い私に力を貸して」
ジョルジュ・プレートル指揮フランス国立放送局管弦楽団(1961.3.28-31&4.4-5録音)
・ベッリーニ:歌劇「清教徒」第3幕より二重唱「この腕に来てください」
ジュゼッペ・ディ・ステファノ(テノール)
トゥリオ・セラフィン指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1953.3.24-30録音)
・ヴェルディ:歌劇「リゴレット」第1幕よりアリア「慕わしい人の名は」
トゥリオ・セラフィン指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1955.6.9-12録音)
・スポンティーニ:歌劇「ヴェスタの巫女」第3幕よりアリア「愛おしいお方」
トゥリオ・セラフィン指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1955.6.9-12録音)
・ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」作品24第4部よりロマンス「燃える恋の想いに」
ジョルジュ・プレートル指揮パリ音楽院管弦楽団(1963.5.2-8録音)
・ベッリーニ:歌劇「夢遊病の女」第1幕より二重唱「僕は、君の髪や君のヴェールに戯れ流れる微風をねたんでいた」
ニコラ・モンティ(テノール)
アントニーノ・ヴォットー指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1957.3.3-9録音)
・ヴェルディ:歌劇「トロヴァトーレ」第1幕よりアリア「穏やかな夜」
ニコラ・レッシーニョ指揮パリ音楽院管弦楽団(1964.2.20-21&12.17-21録音)
・ヴェルディ:歌劇「トロヴァトーレ」第1幕よりアリア「この恋を語る術もなく」
ニコラ・レッシーニョ指揮パリ音楽院管弦楽団(1964.2.20-21&12.17-21録音)
・ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」第2幕より二重唱「ああ、何と心地良いときめきが」
ジュゼッペ・ディ・ステファノ(テノール)
アントニーノ・ヴォットー指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団(1956.9.4-9録音)
・サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」第2幕よりアリア「あなたの声に心は開く」
ジョルジュ・プレートル指揮フランス国立放送局管弦楽団(1961.3.28-31&4.4-5録音)
マリア・カラス(ソプラノ)

50年代のカラスの仕事ぶりは半端でない。多忙な中残された数多の「歌」は70年近くを経た今も僕たちの魂を癒してくれる。”the best of ROMANTIC CALLAS”と題された本コンピレーション・アルバムのいずれの歌唱も絶品だが、僕が惹かれて止まないのは、掉尾を飾るプレートル指揮パリ音楽院管とのサン=サーンス「サムソンとデリラ」からのアリア「あなたの声に心は開く」! サムソンの求愛に応えるデリラの融けるような愛の表情こそカラスの真骨頂。

人気ブログランキング


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む