大阪・高槻にあるJT生命誌研究館を訪ねて、「ゲノムの話」に続いては「細胞の話」でありますよ。こんな小部屋の展示スペースに「細胞展」と銘打ってありました。

 

 

ヒトの体を構成する細胞の数は30兆個を超えるほどであるわけですが、これを細胞の働きという点で区分けてみますとおよそ400種類に分かれ、その姿かたちはさまざまであると。単純に言えば細胞壁に囲まれた中に格があって…となりましょうけれど、枝のような形あったり筒状のものがあったりもするそうでありますよ。

 

 

でもって、ここの展示解説では細胞の働きを見るキーワードとして9つの動詞を挙げておりました。曰く、「変形する」「分裂する」「分泌する」「感知する」「接着する」「提示する」「取り込む」「力を出す」「自ら死ぬ」というもの。どういうことなのかは日常生活のさまざまな場面に擬えて説明されることに。子どもにも分かりやすくという配慮でしょうけれど、科学に疎い大人も助かるといいますか(笑)。

 

 

改まって言うのもなんですが、ヒト(に限った話ではないものの)は体を動かしますですね。その一挙一動も翻ってみれば、細胞の柔軟性があってこそだと今さらながら。仮に人体が金属のような固い物で出来ていたら動きよう、動かしようもないわけで。つまり細胞の「変形する」という働き、そして伸びる、縮むという「力を出す」働きが作用しているのですな。そんなふうに考えてみたこともありませんでした…。

 

また、日常生活でヒトは五感(場合によっては第六感があるかもですが、おそらく生物学の埒外でもあろうかと)をフル活用していて、例えば視覚であれば目、嗅覚であれば鼻という具合に、とかく該当する機能は目や鼻という器官に依存していると思っているところながら、その実、これまた該当器官の細胞に「感知する」という働きがあることで目的が達成されているという。

 

ただし、臭いでいえば嗅細胞というにおい受容体をもった細胞単体では臭いを受け止めておしまいですが、「接着する」お隣の細胞に向けて神経伝達物質を「分泌する」ことで情報が脳に伝わり、そこで初めて「ああ、臭う」となるわけです。ですので、細胞の働きは「9つの動詞」で表現されているそれぞれの機能を組み合わせて実行しているのですなあ。

 

ところで、9つの働きの中で「自ら死ぬ」とは穏やかならぬことですけれど、「細胞社会のまとまりを保つために、一部の細胞は周りに迷惑をかけずに自ら死ぬことがあります」と解説されておりましたよ。細胞社会とはすなわち人体と言ってよいのかもですが、総体としてのヒトの体がうまく働くために随時細胞の新旧入れ替わりが進んでいるということでしょうね。ただ、「自ら」と言う表現は「自然に」と言い換えておきたいような。さもないと、どうしても細胞社会というのを人間社会にも擬えてしまうと、物思いが深みに入り込みそうですので…。

 

それはともかく、これまで見て来たところではひたすらに解説パネルを読む展示と思われるかもながら、子どもの来館も意識されている中ではインタラクティブに触ってみる展示物もあるのですね(コロナ禍では利用中止中のものも多いですが)。細胞展の展示スペースではこのような。

 

 

 

「みたいところに手をかざしてください」とあって、細胞に関わる言葉がいろいろ示されておりますな。「ミトコンドリア」とか「ゴルジ体」とか「リゾチーム」とかは昔々に生物の授業で聴いたような言葉ですが、これらの言葉を見た子どもが「みたいところ」を選べるかどうか…どうなんでしょうね?いい大人でも「リゾチーム」と聞いて思い浮かぶのは「早めのパ〇ロン」くらいかも。あ、これは「塩化リゾチーム」で別物でしたか…。

 

と、ここで塩化リゾチームを思い出した検索過程での余談をひとつ。ひと頃風邪薬といえば「塩化リゾチーム配合」と言われていたような気がしますけれど、2016年段階で厚生労働省が塩化リゾチームの使用中止を打ち出して、製薬業界では粛々と関連商品を回収していたのでもあると。なんとなれば「効果が無い」ということでして、かつては市販の風邪薬のあれこれにお世話になりましたですが、治った気になったとしたらプラシーボだったのですかね…。余談でした。