常日頃、近所の図書館は自分の書庫である的に使わせてもらっている者が言えた義理ではない…というお話。もっとも、この一冊もまた図書館で借りたのですけれどね(笑)。『私たちが図書館について知っている二、三の事柄』という一冊です。

 

 

本書はお二方の対談で構成されているですけれど、語り合っているお二人、どうやら出版事情、図書館事情に至って詳しいということは読んでいて分かるものの、「そも何者?」と思ったり。別にそれを語る資格がどうのということを言いたいのではないながら、それにしても本書を手にとるような人たちには自明なくらいに知られた人たちであるかのような前提に、ちと敷居を感じたものですから。

 

それはともかく、本が読まれなくなった…とはずいぶんと前から聞き及ぶところではありますが、2010年になって本の販売部数を図書館の貸出数が上回ったということのなのですな。総体として読まれなくなっている中でさらに、本を買って読む人より借りて読む人の方が多いということになりましょうか。

 

身の回りではっきり意識することはできませんですが、どうやら図書館の数は増え続けているらしい。一方で、書店の数は減り続けていると。果たしてどちらが鶏でどちらが卵かは考えようでもありましょうけれど、相関ありとは誰しも思うところではなかろうかと。

 

書籍も当然に商品であるならば、売れないことには商売として成り立たないところ、リテールを担ってきた書店が減る一方となると、図書館に売る、なんとなれば増えているし…ということになりましょうか。そこで考えどころなのが、いわゆるベストセラー本の扱いでしょうかね。

 

売れ筋というのか、読みたい人がたくさんいるというのか、そういう類いの本が図書館でも複数蔵書される(といっても、近所の図書館でいえば最大で分館まで含めて各館1冊ですが)ことがありますですね。それでも、たくさんの予約待ちがついていたりする。待ちきれない人は書店で買うことになりましょうけれど、予約していてなかなか読めない、順番が回ってこないことに対して、図書館にクレームする人なんぞももしかするといるかもしれませんですね。なんとなれば、市の図書館は税金で運営されており、市民サービスに努めるのは当然であろうと。

 

ですが、ここで今さらながら改めて考えなくてはいえんと思いましたのは、図書館は無料貸本屋なのであるか?ということでありますねえ。そもそも本は商品ですから買って手に入れるのが筋と言えば筋なわけです。生活必需品、というよりそうではない嗜好品の類に関して、どうぞどうぞ市民サービスですから面倒をみますよというのは、確かに便利なことではあるも、何か違うような…。

 

これがこと書籍、図書館となりますと、はてさて図書館本来の役割とは?を考えなくてはいけんことになりますですね。分かりやすいのは学校の図書室でしょうか。小学校の図書室、中学校の図書室、これはそれぞれに学校教育法で設置が定められているとして、そこに置かれる本は決してベストセラーではないですね。いわゆるロングセラーの類とでもいいますか。およそ小中学生の時期に読んだらいいのでは…という本が並んでいる。大げさに言えば、啓蒙のためとでもいいますか。

 

この場合、大人が「これはいい、これはだめ」と選書する、そのスタンスには難しい問題が絡んでくるわけですが、ここでは取り敢えず措いておくとして、翻って市立などの公共の図書館はどうであるか。おそらくかつては売れ筋本はいくらでも書店で手に入る(それでこそ書店が成り立つわけで)のに対して、スペースや売れ行きの関係もあって書店でなかなか見かけないけれど、後世に残ってほしい書籍を所蔵し、いざそれが必要となった市民に提供するてな側面があったのではなかろうかと思うところです。

 

だからこそ図書館には必ずレファレンス・コーナーというのがあって調べもの対応をしてくれるようになっているわけですね。ですから、本を読むこと自体が知的好奇心を満たす行為ではなくして、本を入口にしてもそっと深く知ろうとか調べようとか、そういう部分に対する市民サービスが図書館の役割であるのかもしれません。もっとも、あまり利用されてはいないように思いますが…。

 

単に本の貸し借りだけでレファレンス・コーナーがあまり利用されないことは、図書館員は専門性の発揮しどころがあまり無いということにも。つまりは貸し借りに対応できれば誰でもいい仕事みたいになってきてしいまい、図書館業務のあれこれが外注・委託され、業務に携わる人たちが低賃金に押し込められてしまう。これを本書で「官製ワーキングプア」と言ってましたですが、よく言ったものだと(感心している場合ではないですが…)。

 

図書館本来の使命といいますか、それをよそに市民がサービス(つまりはタダ)で利用できることそのものが求めるところとなっているのは、提供する側、利用する側双方が整理すべき問題でもありましょうか。とはいえ、なかなか市民の側からは出てきづらい点でしょうけれどね。ただ、繰り返しになりますが、市民の知的好奇心の向上を図るとして、それがベストセラー本を読むというだけのことではないのではないか…とは想像していいことと思ったりしたものなのでありました。