1972年 ウルグァイのラグビーチームを乗せた飛行機がアンデス山中で墜落し乗員乗客45名のうち16名が10週間後に生還した実話をもとにして作られた映画のタイトルだ。
生きのびるために死んだ仲間の肉を食べたという衝撃の内容である。
とは言え、「全員死亡」ですでに捜索活動もされてないところからの生還である。
仲間のうち二人が救助を求めて山を越え谷を下る。
そこでついに農民に発見されて、山中に残っている仲間が救助されたのだった。

ふっと子供の頃にそんな話を聞いたことがあった。
人間が人間の肉を食べるなんて・・・そんなこと絶対に出来ない。と、周りの大人が話していたことを思い出した。
正直、この映画を見たあともそんなことを考えてしまった。
もし・・・自分がその状況ならどうだろう?と。

この映画は『生存者』(P.P.リード著)が原作となっている。
今、現在読書中である。
読書しながら再び映画を見てみると、人物像がよくわかる。

『生存者』を読むその前に『アンデスの奇蹟』(ナンド・パラード、ヴィンス・ラウス著)を読んだ。
著者であるナンドは救助を求めて山を下りた二人のうちの一人だ。
もう待っているだけではダメだと感じ、自ら動いて「生」への道を選んだのだ。
登山の経験なんて全くない若者が山を越えて行くという決断。
若さだけでは出来ないことかと思う。
本人著作なので、仲間と別れてからのことが克明に描いてある。
ありあわせの材料で作った寝袋を持ち、十分とは言えない食糧(肉片)を持ち、10日間かけて緑のある場所まで下りてきて救助される。
その行動を起こすきっかけは、やはり家族に会いたいという強い気持ちだ。

一方、リードの著書は第三者が当人たちからの取材をもとにできたドキュメンタリー作品。
内容も描写も違いがあるかと思う。(まだ途中なのでこれからのお楽しみである。)

フットボールというスポーツで精神も身体も鍛え、お互い強い信頼で繋がった仲間であることが人間らしく生きのびることの出来た理由じゃないだろうか。
医学生としての役割、チームのキャプテンとしての役割、リーダーの指示に従う仲間たち。
もちろん、最初は逆らって動かない人間もいたようだが結局は協力することになる。
これが見ず知らずの他人同士ならどうだったのかという気もしないではない。

宗教的に死体を食べるということがどういうことなのか・・・非常にデリケートな問題もあった。
でも、みな「愛する人、家族にまた生きて会いたい」という思いが、生きて帰るということの重要性を感じ死んだ仲間の肉を食べるに至っている。
亡骸は亡骸であって、もうそこに魂は宿ってない。ただの肉だ。と、言い切ってしまうことが生きることへの執念を思わずにはいられない。
そして、死体を食べる決定する話し合いの中で「もし自分の肉を食べても不味いって言うな」という発言。絶対日本人にはない感覚だと思った。

亡くなったものと生きのびた者と何が違うのか。
神は全てに平等なのでは?
祈りが足りなかったから亡くなった?
信心が少なかったから亡くなったのか?
なにものにも抗えない運命みたいなものだったのだろうか。

映画の中でナンドが山を越えて行くことを決心した時の言葉が衝撃的である。
「動物になる前に・・・」と。
苛酷な状況にさらされて、死体の肉を食べて生きながらえてきたけど、このままではその食べる死体でさえなくなってくる。その時、人間らしくいられるだろうかという危惧だろうか。


「生きる」って大変なことだけど、そこに小さくても夢や希望、愛を持っていることで人間らしく強くなれるのかもしれない。
どこかが痛いとか、苦しいとか、悲しい、楽しい、嬉しい、どんな感情も生きているからこそ感じるもの。
とは言え、なるべくなら負の体感や感情はないほうがいいかな。

ひさびさに感動した映画と本でした。ちょいとお薦め。
『アンデスの奇蹟』は山と渓谷社から出版されています。
『生存者』は・・・Amazonで買うか、図書館で借りることをおすすめします。
映画『生きてこそ』は、U-NEXTで配信してます。登録してない人も16日間くらいお試しができるはずなので、それで観てもいいかと。
このドキュメントはたくさん映画化されてるようで、2009年に『アライブ生還者』というタイトルで日本でも上映もされたみたい。
30年の時を経て、あらためて16名の証言と再現ドラマを交えて綴るドキュメンタリーになっていたようです。
こちらはどこも配信してないようです。こっちも観てみたくなりますね。

幻想的

こんな景色も生きてこそ見れるもの。

<追記>
7月23日 『生存者』をようやく読み終えた。
『アンデスの奇蹟』に比べたら生存していた仲間の詳細な行動と、その家族・・・生存を信じている家族の行動などがとても詳しく載っていて、途中で読むのがしんどくなった。
内容がしんどかったのではなく、詳しすぎてちんぷんかんぷんになりかけた。
とは言え、内容の濃さではこちらのほうが優っているかと・・・。
発見後のことにも多く触れ、生きて戻ったことへの賞賛の裏側に彼らの生きのびた要因についての生存者の家族や亡くなった家族のあり方、また生存者本人の精神状態やその後のことなどが詳しく載っていた。
生きる伸びるために亡くなった仲間の遺体を食べたという事実。
何より生きて帰ってくることを望んだ家族でさえもそのことに嫌悪感を抱いてしまう。当然と言えば当然の心境なのかなぁ。
ともあれ、人間はいつなんどきも生きるために努力をせねばならないと強く思った。