先日、エネゴリ君の店でランチした時のこと。
いつも通りカウンタ―に座って食べていると、唐突に彼が
「あっ、そうだ。 渡辺さん、来週の金曜日は臨時休業しますんで。」
「へぇ、お客さんが入る花金(古いっ!)に、どうしてまた?」
「いやぁ、その日に昔お世話になったレストラン・オーナーの開業〇〇周年パーティーを△△ホテルでやるんで、出席しなきゃいけないんです。」
「このご時世に、パーティーか~。 まぁ、良いんじゃない。
でも会場が一流ホテルとなれば、お前さんもちゃんとした身なりで行かなきゃダメだゾ。」
「はい、分かってます。 だからこの前スーツ買ったんですョ。」
「おっ、金欠のくせに、随分思い切ったナ。」
「最初は貸衣装にしようと思ったんですけど、料金を調べたら量販店の販売価格と大して変わらなかったんで、思い切って買っちゃいました。」
「それなら、買って正解なんじゃない?
今後も着る機会もあるだろうし。」
すると店のオーナーが、
「それが結構似合ってるんですょ、なっ!?」
「えぇ、自分で言うのも何ですけど、サマになってます。
こういうのを、〝まごにも衣装〟っていうんですょネ。
鼻の穴を膨らませてそう言うんですが、〝まご〟の〝ご〟にアクセントをつけていたのが気になった私は、彼に聞いてみました。
「シャレた諺知ってるじゃん。
ところでそれ、どういう意味か知ってる?」
「えっと、まごを着飾らせればサマになる・・・ってことですょネ?」
「まぁそうなんだけど、まごって誰のことだと思ってるの?」
「そりゃ子孫の孫でしょ?」
「キミの発音聞いたら、きっとそうだと思ったょ。
でも考えてみな。 祖父母からすれば孫は何を着せても可愛くて仕方がないはずだろ?
何でわざわざ着飾せればサマになる、なんて諺にする必要があるんだょ。」
「そう言われればそうっすょネ。」
と頭を捻る彼に、
「その諺の〝まご〟ってのは、馬に子って書くんだョ。
発音のアクセントは、〝ご〟じゃなくて〝ま〟の方。
馬子ってのは、馬を引いて荷物や客を運ぶ人夫のことなんだ。
昔は彼等が下の階級に見られていたから、そういう下賤な者でも立派な衣装を着せればサマになるってことを意味しているんだ。
言い換えれば、いくら立派な身なりをしていても、中身がそれに伴っているとは限らんってこと。」
「へぇ~、そうだったんですか。 それは知りませんでした。」
「またひとつ、お利口になっただろ?
じゃあ、お礼にビール1杯ご馳走して。」
「ダメ!」